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「NECのイベント」に富士通社員も登壇 オープンイノベーションに本腰を入れたワケ

NECが、オープンイノベーションに本腰を入れている。NEC Open Innovation Nightには富士通の社員も登壇。同社の取り組みの真意に迫る。

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 NECが、オープンイノベーションに本腰を入れている。

 同社は2月28日、「NEC Open Innovation Night」を本社で開催。日本のオープンイノベーションの新たな幕開けを宣言した。本イベントでは、NECのオープンイノベーション戦略と、その具体的な取り組み、そして未来への展望を語った。同社の取り組みの真意に迫る。


NEC Open Innovation Nightの様子

「NEC Open Innovation」開始の背景と仕掛け人は?

 NECのオープンイノベーションを牽(けん)引するのは、事業開発統括部長の松田尚久氏だ。松田氏は、通信分野での豊富な経験を持ち、2008年からは米ボストンでNECの買収企業であり、通信事業者向けのソリューションを手掛けるネットクラッカー・テクノロジーでPMIやシナジー創出に従事。帰国後は、テレコム領域での新規事業開発に従事し、現在は全社の新規事業開発を統括している。


NECのオープンイノベーションを牽(けん)引する事業開発統括部長の松田尚久氏

 NECは2013年から、組織的にオープンイノベーションに取り組んできた。当初は、ビジネスユニットから出たアイデアをサポートし、加速させる取り組みからスタートした。期待していた成果は出なかったものの、自社テクノロジーのマネタイズ強化や、オープンイノベーションの仕組みを立ち上げ、プロセスを変革してきた。

 NECは、これまでに以下のような新規事業を創出している。

  1. CropScope(農業支援ソリューション):AIを活用し、農業の生産効率を向上させるソリューション
  2. Shines:個人向け金融アドバイザリーサービス
  3. AI創薬:AIを活用した個別化がんワクチンや感染症ワクチンの開発
  4. マテリアルズ・インフォマティクス:AIによる材料開発の効率化・高度化
  5. dotData(データ分析自動化):シリコンバレーで設立されたスタートアップ

 これらの実績を踏まえ、NEC Open Innovationと銘打ち、体系的なオープンイノベーションの仕組みを構築したという。

NEC Open Innovationの仕組み

 NEC Open Innovationは、インバウンド型とアウトバウンド型の2つの方向性を持つ。

  1. インバウンド型:外部の技術をNECに取り込み、技術の補完や強みの強化を図る
  2. アウトバウンド型:NECの技術・アセットを外部に提供し、共同で事業を創出する

 インバウンド型では、成長が期待できるスタートアップに対して、VC投資、BS投資、そしてエコシステム型CVC「NEC Orchestrating Future Fund」を通じた投資をしている。また、ビジネスコンテスト「NEC Innovation Challenge」を開催。グローバルスタートアップとの共創を軸としたアクセラレータープログラムを実施している。2024年は大日本印刷、電通、KDDIラボ、SMBC、アサヒビールなどが協賛パートナーとなった。

 VC投資に関しては、先端動向の把握などを目的に、米国、イスラエル、欧州、日本などのグローバルVCへLP出資を、BS投資に関しては、新事業創出、技術・先端動向理解やR&D連携を目的として、シードからアーリーステージを中心としたグローバルなスタートアップに投資をしている。

 また、エコシステム型CVCであるNEC Orchestrating Future Fundには、NECを含めた6社が出資した。設立3年目の成果として約200億円規模を調達し、9社に出資済みだという。現在、数十社と協業に関するディスカッションを実施中だ。スマートシティ、DX、カーボンニュートラルなどを注力投資領域とし、アーリーステージ・スタートアップだけでなくレイトステージ・スタートアップへの投資を通じ、共創とエコシステムの形成を目指す。

 アウトバウンド型では、研究者による顧客の高度な技術を活用と、DX支援を含む先端技術コンサルティングサービスや、米国シリコンバレーを拠点とするNEC X(NECの技術を活用したスタートアップスタジオ)などを展開している。

 先端技術コンサルティングサービスに関しては、世界トップレベルの研究者が持つ最先端かつ専門性の高い技術知見を生かしつつ、技術アドバイザリーから、先端技術による課題解決の提案・導入支援、そしてテクノロジー、研究開発・知的創出を手掛ける。

NEC X:シリコンバレー発のスタートアップスタジオを東京に

 NEC Xは、NECの技術を活用し、スタートアップの成長を加速する仕組みだ。7000人以上の起業家のデータベースを活用し、NECの技術とスタートアップをマッチングさせ、事業化を支援する。

 NECは、技術・ノウハウ・知的財産を、NEC Xは起業家や、スタートアップ向けの事業創出、成長支援を手掛ける。既に、スタートアップ創出と人材育成、さらにトライアルとして社員のシリコンバレーでの事業化支援プログラムの短期体験を実施している。

 NECは、NEC Xの成功を受けて、2025年夏にスタートアップスタジオ「NEC X Tokyo」(仮称)を設立すると発表した。同スタジオでは、NECの技術と日本の起業家をマッチング。グローバルに通用するスタートアップを創出することを目指す。


NEC X, Inc.松本眞太郎President&CEO

2025年夏にスタートアップスタジオ「NEC X Tokyo」(仮称)を設立(NEC事業開発統括部 ディレクター藤村広祐氏)

日本のオープンイノベーションの未来

 本イベントでは、富士通とスタートアップが協業して新たなビジネスを創出するためのプログラムを進める富士通アクセラレーター代表の浮田博文氏、早期テクノロジー企業への投資を手掛けるカーバイドベンチャーズの芳川裕誠氏、NECの松田氏によるスペシャルトークセッションも開催した。

 筆者は、NECのイベントに富士通の社員が参加していることに、本気度を感じた。トークセッションでは、大企業とスタートアップの連携の重要性、知財の活用、人材育成など、日本のオープンイノベーションの課題と展望が議論された。

 イベントでは、NECのオープンイノベーション戦略、具体的な取り組み、未来への展望が語られた。NECが積極的にスタートアップのエコシステム体系を構築・実践していることが分かった。アイデア、技術、情熱をつなげ、互いの力の掛け算によってビジネスの在り方を変える可能性を感じている。今後も活動をウォッチしていきたい。


左からNEC BluStellar Missionaryの野口圭氏、事業開発統括部長の松田尚久氏、富士通アクセラレーター代表の浮田博文氏、カーバイドベンチャーズの芳川裕誠氏

著者紹介:平野貴之

ベアーレ・コンサルティング株式会社 代表取締役社長(CEO)。

イタリア・オリベッティ社に入社し、英国ケンブリッジ大学との共同最先端技術の部隊「マルチメディアタスクホース」に選ばれ、NTT、日本IBMなど最先端技術販売に成功し、社長賞、トップセールスなど多数受賞。その後、日本初上陸最先端テクノロジーに魅かれ、米国DirecTV技術を利用した通信衛星インターネットサービス会社の立ち上げに設立から従事し、ソニーミュージック、ソフトバンク(当時、日本テレコム)、日立電線などから3億5000万円の出資を受け新会社ダイレクトインターネット社設立に成功。

日本をはじめ、香港、マレーシア、インドネシア、シンガポール、オーストラリアなどグローバルビジネスデベロップメントも経験。

最先端テクノロジーを誰でも、いつでも、どこでも利用できるような、豊かな未来創りに少しでも役立っていきたい、もっとスピード感のある日本社会、そして幸せな生活プラットフォーム作りを支援し、提供していくために、1996年ベアーレ・コンサルティング株式会社を設立。

イスラエルビジネスのパイオニアとして、2001年からイスラエルハイテクスタートアップ企業への支援事業をスタート、現在も支援事業を拡大中。

ベアーレ・コンサルティング株式会社の公式サイト

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