NEC森田社長に聞く「生成AIで優位に立てた」理由 NTTやソフトバンクとの協業は?:100億円超の大型投資
ECの森田隆之社長は12月12日、アイティメディアなどのグループインタビューに応じ、生成AIを開発する国内企業との協業について「競争するところと協調するところは常に意識しており、そういう(協業する)動きになると思っている」と説明した。
NECの森田隆之社長は12月12日、アイティメディアなどのグループインタビューに応じ、生成AIを開発する国内企業との協業について「競争するところと協調するところは常に意識しており、そういう(協業する)動きになると思っている」と説明した。その上で「依存しあうというよりも、強くなって協力しあう形が望ましい。まずはしっかり自分たちでやることが大切」だと話す。
NECは7月に、日本市場の需要に合わせた専用ハード、ソフト、コンサルティングサービスを提供する「NEC Generative AI Service」を開始。今後3年間で生成AI関連の売り上げを約500億円まで伸ばすとしている。
同社は他社に先駆けて、生成AI開発のカギとなる独自の大規模言語モデル(LLM)の実用化に成功した。LLMのベースとなるファウンデーションモデルを作り上げた点で、国内大手の中でも一歩リードしている。
LLMの推測能力を向上させた結果、LLMの大幅な軽量化に成功した。実はこの軽量化成功の背景には、3年近く前の森田社長によるAI研究用スーパーコンピュータ研究設備に対する投資決断がある。100億円超の大胆な投資によって、NECはファウンデーションモデル作りをいち早く始められたのだ。森田社長に投資を決断した当時の理由や、米国企業との競争とビジネスチャンスなどを聞いた。
3年前に100億円超の大型投資 なぜ決断できた?
――生成AIの研究開発の現状と事業化に向けたスケジュール感、目標は。
2021年の初めだと思いますが、当社の研究所がAIの研究開発を加速度的に進めるためにはスーパーコンピュータが必要ということで、当時100億円を超える金額でGPU928基を導入する投資を決定しました。これが生成AIのいち早い投入に効いたのです。
生成AIができそうだと聞いたのは23年の初めでした。使えるものを出せる状態になってから一気に発表しようと考え、23年7月に出せるものができたので発表しました。実務で使えるものが提供できることが、当社の一つの優位点になっています。
発表以降、多様な業種の15組織に実際に使っていただいています。12月15日の(研究開発の最新状況を公開するイベント)NEC Innovation Dayでは、お客さまと共同開発した、あるいは実際に使っていただいている生成AIの業務適用モデルをお見せできると思います。
今も開発は進めていて、ファウンデーションモデルといわれるベース部分の強化や、その上で使用する業種ごと・お客さまごとのモデルを含めた多様な利用用途での強化に加え、セキュリティの仕掛けをパッケージングした形で、24年度に一般向けの商用リリースができる予定です。当社の特長を生かした商品を次々に出していきます。
――吉崎CDOへのインタビューの中で、生成AIのファウンデーションモデルができたのは、3年ほど前に森田社長がAI研究用スーパーコンピュータの研究設備に投資を決めたからだと聞きました。投資を決めた理由や背景は?
これはもう、研究者の切なる声を聞いたからです。当時、AIのデータ分析の結果が出るのに「今のままでは何十時間、何百時間かかる。100億円の投資を認めてくれれば数分で終わるようになる」と言われました。「これはやるしかない」と思い、ほぼ即決しました。NECはテクノロジーの会社で、R&D(研究開発)を強みにしていくと決めた以上、研究者がハンディキャップを負うようなやり方はしないと。それだけですね。
――生成AIの開発では米国など海外勢が先行している状況です。NECをはじめ日本企業が巻き返していくことは可能なのでしょうか。そのためにはどのように事業を伸ばしていくのが良いと思いますか。
今、主流になっているのは、GAFAMを含めてクラウドベース、それもパブリッククラウドベースが中心で、オープンなスキームです。ただ、それだと秘密情報の扱いについていろいろな形で危惧があります。
プライベートクラウドなら安全だとは言うけれども心配なところはありますね。データそのものの持ち方、学習のさせ方も母国語中心でスタートし、プラスアルファーを付け加えている形となると、やはり日本で日本語を中心にして学習させるモデルを作っていくことが企業にとっても重要です。経済安全保障の観点でも非常に重要だと思いますね。
生成AIは業種別、企業別、組織別のモデル、さらにはパーソラナイズされた領域に進んでいくと思います。そうしたところではいろいろな可能性があります。長期的にはファウンデーションモデルの上の業種別、アプリケーションのところに大きな商機が出てくるのではないでしょうか。
そうなると、それぞれの事業会社で生成AIをビルトインして、いかに全体として効率を出していくか、あるいはカスタマーエクスペリエンスを高めていく仕掛けを作れるかがカギになります。生成AIの競争というよりは、そちら側の競争になっていくと思っています。
――その際にNECに勝ち目はあるのでしょうか。
当社は欧米の生成AIとは違う、コンパクトかつオンプレミスでも動作可能で、フロントからバックまで含めて用意したものを、セキュリティを確保した上で提供していきます。そうした形でモデルを提供することと、スケールすることとは反します。究極的なスケールを目指そうと思うと、どうしても(顧客全体の2割である優良顧客が売り上げの8割を上げているという)「2:8の法則」でビジネスを展開したくなります。
私の理解では米MicrosoftのビジネスモデルはAzureの利用を増やす、あるいはライセンスの付加価値を高めることによって、ビジネスを成長させていくというものです。そうすると「生成AIを使ってどうするか」「全体としてシステムをどう構築するか」については、他社でやってください、という話になりますね。そこをどこまで、どういう形でくくれるかによって、ビジネスチャンスはものすごく出てくる。この業界では、一社が勝つとか、初期に優勢な企業が永遠に勝つということは無いと思います。十分にチャンスはあります。
――AIの需要は旺盛な一方、足元ではGPU不足も深刻化しています。政府の支援はあったとしても、やはり懸念にはなってくると思いますが、今後のサービス拡大の見通しに影響が出てくると思いますか。
当面、NVIDIAの優位は続くと思います。やはりGPUのリソースが、いろいろな意味で制約を受けます。ただ、これも既にさまざまな会社が取り組んでいますが、学習したものを推論するところでは、多くのチップメーカーが開発を進めています。そういう意味では役割が分かれてくると思っています。
もともとGPUにしても、画像処理のチップがたまたまAIにうまく使えて、それをチューンアップしているものだと思いますが、これも今後はAIでの利用を最初から前提にした最適な設計が進むと思います。そういう意味では、いろいろなことが変わってくるのではないでしょうか。
われわれの立場では「ファウンデーションモデル+業種対応のモデル」を含めたところで、ユースケースと実用モデルを各業界のリーダーと作っていけるかが、優位なポジションを取るための重要な施策になると考えています。
――NTTやソフトバンクなど国内各社がLLMの開発を進めていますが、どこかで協業する手はないのでしょうか。国産LLMを開発する立場として、各社との協業という観点で何か考えられる部分はありますか。
応用用途や計算資源の共有などで各社と柔らかな話をさせていただいています。競争するところと協調するところは常に意識していますし、そういう動きになると思っています。
一番分かりやすいのは計算資源です。例えば国内でもさくらインターネットやソフトバンクは基本的に、自社で使うというよりも他社に提供していく形だと思います。あるいは、いろいろな活用のユースケースのようなものも共有していくことは必要だと考えています。
ただ、依存しあうというよりも、強くなって協力しあうという形が望ましいと思います。そのため、まずはしっかり自分たちでやる、ということが大切ではないでしょうか。
――NECとして業界特化型、企業特化型の生成AIを作っていくという話ですが、NTTやスタートアップ企業もそうした形で動いています。徐々に生成AIが浸透していく中では、どうしても差異化が難しくなると思います。差異化のポイントをどう考えていますか。
一番の差異化は、今すでに使っていただいていることだと思います。「これから出します」とか「いつごろ出します」とかいう話ではなく、当社のLLMは今もう使用されていて、今できているものをお見せしている状況です。ここが一番の違いだと考えています。
――誤った情報や著作権といった課題への対応について、NECでは専門組織を作って検討したり、第三者によるリスク評価も実施したりしていますね。安全性への取り組みは、どう考えていますか。
安心して使えるようにするためには仕掛けが重要ですね。人による対応ではなく、自動化するものを開発しています。また、当社が安心だと言っても、なかなか説明責任が果たせない部分があるため、AIリスク管理を手掛ける米Robust Intelligence社と連携し、第三者的に見てセキュリティ上、安心だ、という認証をお客さまに提供できるよう準備を進めています。
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