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ライオンが進める“10年後の働き方”を見据えたデジタル改革 AIエージェントが生み出す“余白”の重要性

日用品メーカーのライオンが、生成AIを活用した業務変革を加速させている。同社が2023年に社内向けに開発・導入した生成AIサービス「LION AI Chat」は、1年半の運用を経て、新たなステージに入った。同社が進める、“10年後の働き方”を見据えたデジタル改革とは。

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 日用品メーカーのライオンが、生成AIを活用した業務変革を加速させている。同社が2023年に社内向けに開発・導入した生成AIサービス「LION AI Chat」は、1年半の運用を経て、新たなステージに入った。

 従業員の業務効率化を支援するAIチャットツールとしてスタートした同サービスは、2025年6月から、“エージェント機能”を実装。従業員自らが自部門の課題に応じたAIエージェントを開発するための教育プログラムも整備し、2025年度内に30体以上の作成を目指す。同社が進める、“10年後の働き方”を見据えたデジタル改革とは。


ライオンが進める“10年後の働き方”を見据えたデジタル改革とは――。写真は(右から)山岡晋太郎さん、中林紀彦さん、百合祐樹さん

「使われるAI」へ 社内の利用回数は10倍に成長

 「私たちは時間を削るとか、人を減らすとかではなく、生成AIを使って新しい時間を生み出そうというメッセージを発信している」

 こう話すのは、ライオン執行役員で全社デジタル戦略担当の中林紀彦さんだ。同社が目指すDXの方向性を、端的に示している。

 同社では2023年6月から、社内業務の効率化を目指して、対話型生成AI「LION AI Chat」を導入した。主に、企画資料の作成支援や翻訳など、社内におけるコミュニケーションの円滑化を目的としたサービスだ。

 今年6月、約1年半ぶりにサービスを大幅にアップデートし、即効性の高い共通業務に対応するAIエージェントを実装した。


「LION AI Chat」に実装した各部門の共通業務AIエージェント

 例えばメール作成であれば、従来のようにプロンプトを書かなくても、宛先、用件などをフォーマットに箇条書きで入力すれば、件名や本文、署名を含むメールが完成するようになった。敬語レベルや英語で作成する――などの条件も設定できるようにした。


メール作成では宛先、用件などをフォーマットに箇条書きで入力すれば、件名や本文、署名を含むメールが自動的に完成する

 LION AI Chatでよく使われている機能は、翻訳コード生成メール作成・返信Web検索エージェント――の順。中でも翻訳機能は、グローバル拠点間での情報共有を支える基盤となっているという。

 同社が非管理職を対象にしたアンケートでは、2025年3月末時点で、約3割の従業員が日常業務で生成AIを活用していると回答。LION AI Chatの週次利用回数は、導入初期の2000回から、現在は2万回以上と、約10倍に増加するなど、着実に浸透させてきた。

 社内では生成AIの普及を目指した説明会も継続する。参加者は回を重ねるごとに増え、最近ではマネジメント層の出席も目立つという。単なる「便利ツール」から、会社としてどう活用するかを議論するフェーズへと移行しつつある。

 同社デジタル戦略部データサイエンスグループの百合祐樹さんは、「生成AIの利用は、個人の意識に左右される部分がある限り、100%の普及率は厳しい。生成AIの利用を業務プロセスに組み込み、意識せずとも生成AIを使っているという状態が、最終ゴールだと考えている」と話す。

各部門が自らつくるAI “100人の開発者”育成へ

 LION AI Chatの導入で業務を自動化し、人が創造的な業務に集中できる環境を整備しつつある一方で、新たに浮上していた課題があった。それは、各部門のデジタル化ニーズが高まり、それぞれの開発が追いつかない、という問題だ。

 これらを克服するため、同社は、非エンジニアの社員が自部門の業務に特化したAIエージェントを開発できることを目指した教育プログラムを始めた。ノーコード/ローコードでQ&Aボットやワークフロー自動化エージェントを作成できる「Dify」を用いて、それぞれの部門のニーズに特化したAIエージェントの作成を進めている。

 1月からスタートし、すでに約40人がプログラムを卒業しているという。同社は2025年度中に100人の非エンジニアの開発者を育成し、30体以上のAIエージェントを本格運用することを目指している。


AIエージェント開発者育成プログラム概要

技術の伝承と共有にもAI 国内外をつなぐ「LINK Chat」

 同社は、国内だけでなく、アジアを中心に海外にも研究開発拠点を置く。拠点が複数にまたがる際に課題となるのが、技術やノウハウなどのナレッジ共有だ。

 例えば、同社では拠点ごとに、国内向けのオーラルヘルスケア製品を製造する研究所と、海外向けのオーラルヘルスケア製品を製造する研究所、といった具合に役割が分かれている。

 それぞれのナレッジを円滑に共有するために、同社は現在「LINK Chat」と呼ばれる研究開発部門向けの生成AIを導入している。社内の研究ナレッジを学習し、質問に応じて関連ドキュメントや過去の知見を提示する。

 同社デジタル戦略部データサイエンスグループでマネジャーを務める山岡晋太郎さんは、 「日本の技術者が海外拠点に技術を伝える際、技術が正しく伝承されることが重要。拠点がどんどん増える中で、日本の技術者が限られた時間の中で効率よく技術を習得するためにも、LINK Chatは非常に有用だ」と話す。

 今後は研究所だけでなく各工場にも展開し、製造ドキュメントの整理やナレッジ継承にも活用を広げていく考えだ。

「時間を減らす」ではなく「時間をつくる」──10年後の働き方へ

 現在、デジタル戦略部では部内のメンバーの総労働時間のうち、約20%に効率化余地があると試算している。

 「今後、10年くらいのスパンで働く時間を5分の4にすれば、一日分の休みと同じ時間が生まれる。新たに生まれた時間を、社員の自己研鑽(さん)や、会社の成長に分配し、共に成長していく設計をつくっていきたい」(中林さん)

 AIエージェントが生み出す“余白の時間”が、社員の挑戦や成長を支え、結果として企業の競争力を高めていく――。ライオンのDXの歩みは、そうした新しい働き方の未来を見据えているといえそうだ。

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