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PCのトレンドは“軽さ”から“駆動時間”へ 復権を目指すNECPCの「攻めのPC作り」

NECPCは、製造と販売を一体化し、一気通貫を実現する体制変更を実施した。B2B事業への注力と、よりクライアントに寄り添ったビジネスを展開するための措置だ。PCのトレンドはこれまでの「軽さ」から「駆動時間」へと変化してきているという。その中でどんな戦略を描いているのか?

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 日本のPC業界をけん引してきたNEC。2011年には、NECパーソナルコンピュータ(NECPC)とレノボ・ジャパンが「NECレノボ・ジャパングループ」を発足させた。

 NECPCは2025年4月、製造と販売を一体化。一気通貫を実現する体制変更を実施した。B2B事業への注力と、よりクライアントに寄り添ったビジネスを展開する狙いだ。同社によると、PCのトレンドはこれまでの「軽さ」から「駆動時間」へと移ってきているという。変化の中でどんな戦略を描いているのか? 体制変更の進捗は?

 NECPCの執行役員 コマーシャル営業推進本部の飯田陽一郎本部長と、商品企画本部の森部浩至本部長に聞いた。

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NECPC商品企画本部の森部浩至本部長(左)と、NECPC執行役員 コマーシャル営業推進本部の飯田陽一郎本部長

カッティングエッジなPCを トレンドは重量から駆動時間へ

 これまでNECのPC事業は、NECの営業が販売活動をし、NECPCが商品開発と製造を担当していた。これが体制の変更後は、NECが担っていた営業とマーケティング業務もNECPCが実行する。

 飯田本部長は製販一体とする体制にした理由について「一緒になることで、PC事業自体をきちんと評価できるからです」と話す。

 「NECのPC事業は少し停滞気味でした。NECには価値創造モデルのBluStellar(ブルーステラ)をはじめとしたソリューション強化の流れがありました。その中で、より量販事業に適した事業構造を作り、スピード感をもって市場に応えるためにも、製販一体のPCチームを作るべきと考えました」

 統合による一番の強みとして「いろいろな制約が取り払われ、PC事業として再び戦える体制になった」と語った。

 「ハードウエア事業は一般にソリューションと比較して利益率が低いため、営業活動も効率が重視されていました。しかし今では、NECPCを扱ってもらうための密な営業活動が可能となり、価格設定の柔軟性も増しました」

 実際、統合後はパートナーから「(NECPCの)営業がよく当社に来るようになった」と言われ、信頼関係の強化につながっているという。

 森部本部長は「商品企画の観点では、今まで私たちがヒアリングする相手は(NECPCのパートナーからの話を聞いた)NECの営業の人たちでした。統合後はパートナーやエンドユーザーのところに直接、私たちが赴き、生の声を聞き、商品にフィードバックしていける体制になりました」と明かす。

 NECPCの執行役員社長も兼任しているレノボ・ジャパンの檜山太郎社長は、以前のインタビューで「レノボの強みはPCを売り切るだけでなく、販売後も各種のサポートをすること」だと話していた。NECPCも基本的な方向性は同じだ。

 飯田本部長は「良いPCを届けるだけなら、どのメーカーも高いレベルで可能です。ただし、私たちは問題発生時に、お客さまと一緒にトラブルを解決することをモットーとしています。NECPCではこれが文化として成り立っています」と胸を張る。あるディストリビューターからは「しっかりとしたサポートが必要なお客さまには、NECのPCを勧めている」と言われたことがあるそうだ。

リモートワークで増える電力消費 駆動時間と軽さ、どちらを取る?

 NECとレノボはグループ企業でありながらPC事業では競合関係となる。お互いの強みを生かしながら、顧客に最適な価値を提供することを目指しているようだ。「案件単位で見ると競合する部分もありますが、両者の強みは異なります。NECPCは自治体、医療関係などを得意領域としています」(飯田本部長)

 同社は、日本の顧客ニーズに応える製品を作ると宣言している。

 飯田本部長は「少し前までは軽さがトレンドの基準でした。これからはバッテリーの持ちだと考えます。営業マンや出張者から『電池が持たない』という声が挙がります」といい、重さ第一主義の時代は終わりつつあるという見解だ。

 この背景について森部本部長は「リモートワークの普及によって電力消費量が増えているからです。例えば、Webミーティングで仮想の背景を使うだけでも電力をかなり使います。受け皿となるバッテリーが耐えきれないのです」と解説する。

 バッテリーを大きくすれば、重量がかさむため、バッテリーの持ちと軽さはトレードオフの関係にある。「通常大きなバッテリーを積むと重くなります。一方、当社には優れた軽量化技術があります。同じ容量のバッテリーでも当社は1キロ以下に抑え込み、それでいて、われわれの製品はアイドル状態だと40時間、動画も20時間の再生が可能です」

 大きなバッテリーを搭載することに加え、ソフトウエアの独自制御技術によっても駆動時間を伸ばしているそうだ。

 近年では、海外ブランドのPCも1キロを切る製品を出すようになった。NECPCはすでに10年前から、軽量PCを販売していたという。重量に関して海外勢の技術が追いついたところで、駆動時間に着目。ライバルと差別化を図ったのだ。

 NECPCはそれを「攻めの商品作りへ転換」と表現している。VersaPro UltraLite タイプVYは「世界最長」のバッテリーを搭載。コンセントなどの持ち運びが必要なくなり、持ち物が500グラム軽くなるとした。低消費電力設計、へたりにくいバッテリー、30分充電すれば7時間分チャージできるのが特徴だ。

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VersaPro UltraLite タイプVYは「世界最長」のバッテリーを搭載(提供写真)

 森部本部長は「以前はNECが間に入っていたことで、彼らの要望を聞きながら、最大公約数的なニーズを満たすような製品作りをしていました。これからは『攻め』に転じて、日本人のお客さまに合ったカッティングエッジ的な商品を出していきたいと思います」と意気込む。

 これは、開発するエンジニアのモチベーションを上げることにも効果を上げたという。「世界最軽量のPCは当社から始まり、他社が追随してきたのです。ところが、何年か前に世界最軽量をやめると宣言をしたら、エンジニアが肩を落としてしまったのです。今度は世界最長レベルのバッテリーを標ぼうしたので、一生懸命にアイデアを生み出してくれます」(森部本部長)

「LLMからSLMへ」 シフトもあり得る

 檜山社長は以前のインタビューで「AI時代に入り、集中管理をしていたコンピューターは処理しきれなくなり、エッジで処理する分散型になる」と語っていた。

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NECPCの執行役員社長も兼任しているレノボ・ジャパンの檜山太郎社長は、以前のインタビューで「AI時代に入り、集中管理をしていたコンピューターは処理しきれなくなり、エッジで処理する分散型になる」と話した

 飯田本部長は「その通りだと思います」と話す。

 「最近の人工知能学会の雑誌では、小規模言語モデル(SLM)の特集が組まれるなど、SLMに注目が集まっています。早ければ1〜2年後にはSLMでもChatGPTのGPT-4oクラスのパフォーマンスを出せる可能性があるという見方もあります」

 エッジによる分散型で、かつSLMが中心になれば、PCはスペック勝負になることは避けられない。森部本部長は「そういうニーズが増えています。16GBのメモリがマジョリティになってきましたが、32GBが必要になると言われ始めていますね」と話す。AI時代に適したスペックを増強したPC作りを、視野に入れているようだ。

 そもそも日本は、他国と比べるとAIの利用率が低い。総務省が2024年7月に発表した2024年版の「情報通信白書」を見てみよう。企業の生成AIの活用方針策定状況について「積極的に活用する方針」と回答したのは中国が71.2%。米国が46.3%、ドイツは30.1%に対し、日本は15.7%にとどまっている。

 日本でAI PCを販売するハードルは低くはなさそうだ。飯田本部長は「AI PCはハードウエアが先行すると思っていて、インテル、クアルコムなどを含め、(AI処理に特化したプロセッサーである)NPU搭載のラインアップが増えています。2027年にはNPU搭載のAI PCの販売量が、全体の半分を超えると予想しています」と話す。

 森部本部長によれば「AIの利用は世代によって利用率が異なるものの、勤務先が認めるかどうかによっても左右される」という。個人的な感覚として、大企業の方が、AI利用について、機密情報の関係から厳しいという印象を持っていると語った。

 この状況の打開策として飯田本部長は「ローカル上で動き、外部に送信するデータに対して一種のモザイクをかける技術を開発中です。例えば、自分の位置情報のうち、必要な情報を見極め、何丁目レベルなら外部への送信はOKだが、何番地以下は送信しない、といったイメージです。ローカル上でのAI活用を促進するために、われわれが率先してやるべきことだと考えます」と指摘する。

 将来、この技術が実用化されれば、AI利用に慎重だった企業も、考えが変わる可能性がありそうだ。

「元気なNECが戻ってきた」と言われるように

 NECの公式サイトによると、その昔、日本国内のNECのPCシェアは90%を超えていた。日本ガートナーグループが2001年2月に発表した2000年の国内PC出荷台数のシェアを見ると、NECは21.5%でトップだったのだ。

 MM総研が2025年2月に発表した2024年暦年の国内「PC出荷台数シェア」によると、NECレノボが23.6%だ。NECとレノボの内訳は不明ではあるものの、仮に単純に2で割った場合、11.8%ずつという計算になる。

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MM総研が2025年2月に発表した2024年暦年の国内「PC出荷台数シェア」) 

 飯田本部長は「ここ3年で大きく市場シェアを落とし、プレゼンスが下がっています。元気なNECのブランドが戻ってきたと言われるまでに、まず事業を再成長させたいです」と意気込む。

 再びとがったPCを作り始めたNECPC。すでにAI時代の到来を踏まえた事業戦略を進めている。本当に顧客の心をつかむことができるのか。顧客理解を徹底できるかどうかにかかっている。

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