快進撃続けるアニメ業界に「9割弱が原作頼み」の課題 業界歴40年Pに聞く打開策とは
日本のアニメ産業の市場規模は3.3兆円を記録した。だが漫画、小説、ゲームなどを原作にした作品が9割弱を占める「原作頼み」という課題もある。業界はどう対応していくべきなのか。業界でプロデューサーを約40年務めるジェンコ(東京都港区)の真木太郎社長に、打開策を聞いた。
失敗を恐れるサラリーマン的体質が、日本のアニメ産業を台無しにしている――。
こう語るのは、映画『この世界の片隅に』のプロデューサーも務めたジェンコ(東京都港区)の真木太郎社長だ。2023年の市場規模は3.3兆円を記録したように、日本のアニメ産業は成長著しい。一方で漫画、小説、ゲームなどを原作にした作品が9割弱を占める「原作頼み」という実態もある。
特に近年の人気作を俯瞰しても、映画『鬼滅の刃』や『名探偵コナン』など、漫画などの原作モノが多く占める。アニメの調査サイト「アニメ調査室(仮)」によると、2025年秋クール(10〜12月)のテレビアニメのうち、漫画、小説、ゲームなどを原作にした作品が実に85.7%を占め、オリジナル作品は14.3%にとどまる状況だ。
オリジナルアニメーションの不足に加え、人材不足も課題となっている。アニメ自体は快進撃を続けている一方で、実はアニメ単体でその骨格を作れる人材が不足しているのだ。このジレンマとも言える業界の問題にどう対応していくべきなのか。
前編【アニメ制作現場に届かぬ「3.3兆円の投資マネー」 業界歴40年Pに聞く“作り捨て”からの脱却】)に引き続き、アニメ業界でプロデューサーを約40年務めるジェンコ(東京都港区)の真木太郎社長に、打開策を聞いた。
真木太郎 1955年5月23日、岐阜県生まれ。1977年に早稲田大学法学部を卒業し、東北新社へ入社。ビデオビジネスの時代が本格的に到来したことで広がった、洋画の買付や映画の製作・配給業務に携わる。『機動警察パトレイバー the Movie』(1989)のプロデュースをした後、1990年にパイオニアLDCへ移籍。OVAからテレビや劇場用映画にまで展開が広がった『天地無用!』シリーズ(1992〜97)をはじめ、『神秘の世界エルハザード』(OVA/TV、1995)や『モルダイバー』(OVA、1993)などを企画した。1997年には、企画・プロデュース専門会社のジェンコを設立して独立。今敏・監督『千年女優』(2002)、『東京ゴッドファーザーズ』(2003)、片渕須直・監督『この世界の片隅に』(2016)など劇場用アニメーション映画のプロデュースも手掛ける
サラリーマン的プロデューサーが作品「減点主義」を招く
――日本のアニメは需要もあり、作品のレベルも高いと言われています。この現状は世界的に見ても「いい方」なんでしょうか。ハリウッドの状況やディズニーの不振も話題になります。
どうなんでしょうね。いいと考える人もいるし、全体で見たらそうだとも言えるのかもしれません。ただ、私自身は「文化産業」という言葉の観点からすると、今の日本のアニメ投資はそうした理念にはあまり沿っていないと思っています。映画や映像は多額のお金がかかり、回収するのも大変なんです。
だからこそ、「中身が薄くても量産する」状況は長続きしないはずで、本当にいいものではありません。例えば小説であれば1人で書けるし、漫画も少人数かつ低予算で制作できます。なので売れなくてもファンがいれば存続できますよね。でもアニメや映画は何百人が関わってお金のかかる産業だから、ビジネス的にヒットさせなければ成り立たない難しさが常にあるんです。
――よく「日本にはプロデューサーが足りていない」という声もあります。なぜそうした状況に陥っているのだと思いますか。
いろんな理由があると思いますが、大きいのはサラリーマン的な体質です。会社員プロデューサーが多くて、日本では「加点法」じゃなく「減点法」が基本なんですね。つまり、失敗しないことが最優先で、挑戦して加点していく発想がない。だから結果的に当たっているジャンル、安全な企画にばかり流れていくわけです。
本当は観客の反応なんて分からないものだし、難解な作品だって観客を育てる意味があるんですよ。昔はミニシアターで「ちょっと小難しい映画を観る」という文化があって、そこに挑戦の余地があった。でも今はそういう場もなくなって、全体的に少し浅くなってしまっている気がします。
「9割弱が原作依存」のアニメづくり 脱却するには?
――そうした流れに対して、12月12〜17日に開催する「あいち・なごやインターナショナル・アニメーション・フィルム・フェスティバル」(ANIAFF)という国際的なアニメーション映画祭によって、一石を投じる狙いなんですね。
一石を投じるといっても、私は本業がプロデューサーですから、映画祭がメインではありません。ただ、やはり「クリエイターに場を提供する」のがプロデューサーの大事な仕事だと思っていて、そこで映画祭を開いているんです。
(プロデューサーを務めた映画)『この世界の片隅に』も片渕須直監督にとっては3作目でしたが、それ以前の作品はヒットしていませんでした。つまり、そういう状況があっても場を提供し続けることが必要なんです。宮崎駿監督だって第1作目からヒットを飛ばしていたわけではありません。つまり、プロデューサーの役割は「鉄板のネタ」にばかり頼るのではなく、挑戦の場を作ることだと思っています。
――とはいえ、安定的に成功する作品、例えば映画の『名探偵コナン』や『ドラえもん』といった作品を多くの人が求めている現状もありますよね。
もちろん、誰もがそうした安牌(あんぱい)の作品で仕事をしたいとは思うでしょう。でも私自身は、当たり外れに関係なくチャレンジングな企画をやってきました。それは威張ることではなく、私の性格的なものです。だから映画祭でもやはり「挑戦」を重視したいですね。
映画祭を作ることによって、作家やクリエイターに「もう一歩頑張ってみよう」と思える場を提供したいんです。映画祭は観客にとっては祭りですから楽しく体験してほしい。でも、さすがに『ドラえもん』をやる場にはならないですね。観客を楽しませながら、同時に作り手に挑戦してもらう。それが私の考える映画祭の立て付けです。
例えば今回も、特集として特定の作家に焦点を当てるんですが、これは非常に意味のあることだと思っています。作家や作家性にもっと注目する場を作りたい意図があります。もちろん『鬼滅の刃』のような大ヒット作品を否定するつもりはありません。
ただ、今は漫画や小説といった原作が売れて、それをアニメ化して出版社のビジネスに組み込む構造が全体の9割弱を占めています。これでは新しいアニメーション作家の育つ余地がありません。理想を言えば7割は安定的な作品でもいいけれど、残りの3割は新たな挑戦に振り向けるべきなんです。このバランスがあって初めて健全な産業だと思います。
海外ルールの流入が日本アニメ再興の突破口に
――海外の作品が映画祭に来ることの刺激についてはどうでしょうか。
映画祭のコンペティションに海外作品が加わると、本当に突拍子もないテーマや手法のアニメーションが出てきます。日本では企画段階で通らないようなものもあって、それを映像で目にすることは作家にとって強烈な刺激になります。自分では思い付けない「こんなアニメがあるのか」と知ることは、必ず次の創作につながります。これは映画祭ならではの価値だと思います。
人材育成の面でも意味があると考えています。ただ新人の育成という単純な話ではなく、中堅クラスのクリエイターにとっても、海外との交流や異なる制作現場を経験することは、大きな成長のきっかけになります。名古屋では今回(「アニメーション界のアカデミー賞」ともいわれる)アニー賞とコラボレーションする取り組みを進めています。
日本のアニメは今や海外で大ヒットすることが珍しくありません。人口の違いもありますが、むしろ国内よりも海外で広く受け入れられているケースも多いです。ただ現状では「海外に出ていく」一方通行で、逆に海外から日本へ戻ってくるような流れはほとんどありません。
これからは、双方向のやりとりが重要になっていくと思います。スタッフの交流、マーケットの連携、そして投資の面でも国境を超えて往来する仕組みが次のステージとして不可欠です。そのきっかけ作りのひとつとして、アニー賞とANIAFFのコラボレーションを実現していきたいと考えています。
――なるほど。例えばスポーツにおいても、外国人選手がその国の選手へ刺激を与える例が少なくありません。そうした刺激を、業界の中に取り入れていくことが必要なわけですね。
そう思います。共同制作や海外とのコラボレーションが、そのきっかけになるはずです。国ごとにルールも違いますし、日本では考えられないような形で物事を進める仕組みがある。そうした違いそのものが刺激になります。
日本のアニメは現状、9割弱が原作のヒットに乗っかる安全な方向に寄ってしまっています。この日本のアニメ業界の構造を変えるためには、海外ルールが入ってくることが突破口になり得ると思うのです。
だからこそ、映画祭もそうした刺激や動きを生み出すきっかけにしていきたいですね。日本のクリエイターにとっても、海外作品から受ける衝撃や学びは計り知れないものがありますから。その一助となれるように、この愛知・名古屋の映画祭を育てていきたいと考えています。
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