「予約を取りこぼす」ことも トヨタレンタリース岡山が電話応答率を「60→90%」へ改善させた方法(3/3 ページ)
トヨタレンタリース岡山では、20年以上前から予約センターを設置し、全店舗の電話対応を集約している。しかし、店頭応対と電話業務の両方を担う現場は混乱しており、応答率は60%にとどまっていた。取り逃した電話の中には、予約依頼の電話もあった。
応答率60→90%へ 成功の鍵は「問い合わせの棚卸し」
システム導入にあたり、同社がまず取り組んだのは「問い合わせの棚卸し」だった。
「どんな電話がどれくらいかかってくるのか全て洗い出しました。その上で、自動応答で対応できるもの、SMSで案内できるもの、人が対応すべきものを分類していったのです」(西林氏)
例えば、営業時間や店舗の場所に関する問い合わせは、自動音声やSMSでの案内に切り替えた。忘れ物の問い合わせや精算明細書の再発行依頼など、調べてから折り返しが必要なものは、SMSで受付フォームを案内する形に変更した。一方、予約の変更や複雑な相談は、従来通りスタッフが対応する。この切り分けにより、スタッフは本来注力すべき業務に集中できるようになった。
その結果、応答率は60%から90%へと大幅に向上。コールセンターの指標として、「応答率95%が理想的、90%あれば合格点」とされている中で、30ポイントの改善は大きな成果と言えるだろう。劒持氏は、この取り組みの成功要因をこう分析する。
「導入に際して、どんな問い合わせがあるか、まず棚卸しすることができたのが成功の鍵になったと思っています。整理していく中で、SMS・ガイダンス機能をうまく使えば自動で対応できることがたくさんある、と気付けました」(劒持氏)
また、システム導入による変化は、応答率の改善だけではない。電話対応のデータが蓄積されることで、業務改善のサイクルが生まれている。
導入前、同社では電話の総件数と応答率程度しか把握できていなかった。どの時間帯にどのような問い合わせが多いのか、どの問い合わせに何分かかっているのか、詳細なデータは取れていなかった。しかし、データ分析ツールを活用することで、状況が一変したのだ。
「曜日や時間帯、どんな時間帯に電話に出られていないのかまで、詳細に分析できるようになりました。これにより、電話対応が手薄になりやすい時間帯にスタッフを増員しよう、といった調整ができるようになったのです」(西林氏)
さらに、AIによるラベリング機能を活用し、どんな電話に何分かかっているのか、どの内容に時間を取られているのかも分析できるようになった。その結果をもとに、SMSで対応できるものは自動化し、録音機能を使って改善点を吸い上げるといったPDCAを回せるようになった。
また、予約に至らなかった電話についても分析を行っている。どういった車種が足りなかったのか、顧客側の都合で予約に至らなかったのか、それとも自社で対応すれば予約に至ったのか。こうした情報を区分けし、事業に活用できるデータとして抽出している。
複雑化する問い合わせに対応するために
さらなる改善に向けた構想も進んでいる。電話が混み合っている時間帯など、どうしても全ての電話に出ることが難しいタイミングもある。そんなとき、電話がつながらなかった顧客に対して、Web予約フォームのURLをSMSで自動送信する機能の開発を検討中だ。
また、同社のビジネスモデル上、リピート顧客が多いという特徴がある。その特徴を生かし、よりスムーズな顧客対応を実現するため、CTI(着信時に顧客情報を表示するシステム)の機能強化も視野に入れているという。
一方で、電話対応の現場では新たな課題も見えている。近年、車両には先進安全装備やコネクテッド機能など、多様な技術が搭載されており、問い合わせは今後さらに多様化していくことが予想される。劒持氏は、それを見据えたより長期の展望を話してくれた。
「人で対応する部分は非常に大事だと思っています。しかし、顧客ニーズの多様化や車の進化のスピードを考えると、全ての対応を人の力だけで行うには、限界があります。そこで、AIを活用して、対応の幅を広げていければと考えています」(劒持氏)
例えば、車種ごとの装備情報をAIが即座に回答できれば、スタッフは顧客の本質的な相談に集中できる。人とAIの役割分担をさらに進化させることで、より質の高い顧客対応を目指していく。
人とテクノロジーの適切な役割分担で顧客満足と業務効率の両立を実現したトヨタレンタリース岡山。この事例は、電話対応に課題を抱える企業にとって一つのヒントになるのではないだろうか。
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