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「まだ働けるのに退場ですか?」――中高年の意欲を折る「60歳定年制」の問題働き方の見取り図(2/2 ページ)

60歳になった瞬間、正社員から外れ、待遇も権限も縮小される――。日本の大半の企業では、今もこうした“画一的な引退ライン”が、当たり前のルールとして動いている。このルールは、本人のキャリアや企業の競争力にどんな影響を与えているのか。

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60歳以降の働き方は“5つの選択肢”に整理できる

 仕事との向き合い方も追い求めるキャリア像も、人それぞれ異なっていて当たり前です。年齢を重ね時間が経てば、その違いがさらに大きくなっていっても不思議ではありません。新卒で社会に出てから、定年を迎えるまで約40年もあります。

 そこで必要になってくるのは、個々の志向性の違いに合わせて60歳以降も多様な選択が可能になる仕組みです。社会に出たばかりだとよく分からなくても、5年、10年と経験を積み重ねるにつれ、仕事の向き不向きや自らの志向性などが把握しやすくなっていきます。

 ところがその先に定年というゴールしか用意されていなければ、定年後のキャリアを考える必要性は失われます。そこで60歳以降にも定年退職以外のバリエーションを増やし、自身の志向性を把握したタイミングで選択できるようにすれば、個々の希望に合わせた道を歩みやすくなります。例えば、以下のような選択肢が考えられます。

(1)正社員として勤め上げて退職(メンバーシップ型雇用のまま、定年で退職)

(2)正社員として勤めた後に再雇用(定年後は第一線からは退き、非正規社員として継続)

(3)職務限定無期雇用への切り替え(ジョブ型雇用となり、定年はなし)

(4)業務委託契約への切り替え(雇用契約は終了)

(5)推薦状付き転職(定年前に選択すればアルムナイ制度)

 (1)と(2)は、既に標準的になっている制度です。(3)はいわゆるジョブ型雇用への切り替えになります。職務を限定して第一線で働き続けられる一方、給与は年功賃金の考え方から外れるので担当職務に応じて再設定し、職務が変わらない限り据え置かれます。

 また、無期雇用で定年は設けないとしても、事業方針の転換で担当する職務が必要なくなった場合などは、雇用契約を解除される可能性もあります。しかし、いまは解雇ルールなどが曖昧(あいまい)なので、この選択肢を正式に導入するには法制度の整備が必要です。

 (4)は一旦雇用契約を終了することになりますが、同時に業務委託契約へと切り替えて、いま担当している職務を継続します。社員は個人事業主となって会社に所属する立場ではなくなるので、他の会社からの仕事も自由に受けることができます。


写真はイメージ(ゲッティイメージズ)

 (5)は、定年を機に転職する道です。ただしこれまでの働きぶりを評価して、会社が推薦状を書くようにします。「自社での再雇用よりも第一線で働き続けたいという強い意向がある」と前職からの後押しがあれば、転職活動においてプラスになるはずです。

 また、定年前に(5)を選択する場合には再入社できるチケットをもらえる仕組みにすれば、送り出す会社としても採用難の折、転職先で新たな経験を積んだ退職者を将来の人材確保候補者としてプールできます。

 (3)〜(5)のルートへと進む場合、何の準備もなく定年直前に選択するのでは急すぎるかもしれません。社会に出て20年ほど経った40歳ころを目安に選択する形の人事制度として設計すれば、定年を迎えるまで20年かけて準備を進めることができます。


 以上は、あくまで一律定年適用の弊害を回避するための一例です。年齢の目安を置かず、いつでも社員側からルート選択の申し入れができるようにする方法もありますし、定年制自体をなくしてしまう方法もあります。海外に目を向けると、米国などでは定年制を差別と見なして禁止しています。

 少子高齢化が進む一方で価値観は多様化している現代社会において、キャリアの選択肢を増やすことは時代の要請でもあるはずです。一定の年齢に達した時に迎えるイベントを強制引退ではなく、新たな道への出発点に変える。そんな視点の転換こそが、日本社会の未来にとって重要なのではないでしょうか。

著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)

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ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。

現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。


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