毎月「5万時間」を創出 ソニーが語る“一番影響が大きかった”AI施策とは?:AI時代の「企業変革」最前線(2/5 ページ)
ソニーグループは、生成AIの活用によって毎月「5万時間」の余白を生み出した。旗振り役の大場正博氏(ソニーグループ AIアクセラレーション部門 責任者)に、これまでで一番インパクトが大きかった施策や、日々どのように情報をアップデートしているのか、“知識のリフレッシュ法”について話を聞いた。
エンタメ事業の拡大にも可能性
中出: その中で、“ソニーさんならではの面白い使い方”があれば教えてください。
大場: 当グループの大きな特徴として、ビジネスの多様性と顧客接点の広さがあります。その中でも、エンターテインメント事業を中心としたIP(知的財産)のもつポテンシャルの最大化と、クリエイターが生み出す魅力的なIPとファンのエンゲージメントを深めることに、データとAIの価値を見出しています。
プレイステーションや動画配信サービス「Crunchyroll」など、コンテンツを中心に大きなユーザーベースを持つDtoC(Direct-to-Consumer)プラットフォームがあります。AIとデータを用いて顧客理解の解像度を高めることで、ファンに更に楽しんでもらえる魅力的なコンテンツを届けるなど、もっと楽しんでもらうための提案も可能になります。
こういった顧客理解を通じたIP価値の最大化には、膨大なデータの処理と多面的視点での分析が必要であり、AIとデータの組み合わせが力を発揮する領域の一つであると考えています。
中出: 異なるペルソナの共通点を見つけるのですね。反対に、AI全般において難しい点はありますか?
大場: AI領域は進化が速くまだ過渡期であり、各種レギュレーションの整備が追い付いていない側面もあると認識しています。各国のレギュレーションへの準拠は当然となりますが、特に生成AIはトレーニングデータの存在の上に立脚する技術です。そこには各種バイアスの存在、コンテンツ権利やプライバシーの侵害など、正しく理解し対策すべき事がらがあります。ガードレールや違反の検知といった技術的対策と共に、社員にリスクを認識してもらうことも、AI民主化の一つの役割だと考えています。
その中でも、コンテンツを含むデータの主権の尊重は大変重要です。当グループは、クリエイティビティは人が生み出すものであり、AIはそれをサポートするテクノロジーと位置付け、この価値観をグループ全体で共有しています。
アーティストやクリエイターが安心して魅力的なコンテンツを生み出し、その権利が侵害されることなくファンに届く。そして、それがビジネスとして循環することで、新しいコンテンツを生み出すパワーとなる。コンテンツに限らず、あらゆる領域で0から1の創出を尊重し、その上でAIの力を最大活用することを心掛けています。
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