毎月「5万時間」を創出 ソニーが語る“一番影響が大きかった”AI施策とは?:AI時代の「企業変革」最前線(3/5 ページ)
ソニーグループは、生成AIの活用によって毎月「5万時間」の余白を生み出した。旗振り役の大場正博氏(ソニーグループ AIアクセラレーション部門 責任者)に、これまでで一番インパクトが大きかった施策や、日々どのように情報をアップデートしているのか、“知識のリフレッシュ法”について話を聞いた。
AIエージェント時代、ソニーが重視する4つの視点
中出: 今後、さまざまなデータをMCP(AIエージェントと社内システムを連携させるための規格)やA2A(Agent to Agent、異なるAIエージェント同士が協調するための規格)でつなげ、それらをアウトプットしていく──という世界になっていくと思います。その中で、エージェントのシステムの在り方が今後どう変化していくと予想されていますか?
大場: 現在、MCPやA2Aを含めて、プラットフォームのAIエージェント機能拡張を進めています。安定性とセキュリティは大前提として、私が重要視しているのは4点です。
1点目はスケーラビリティ(拡張性)。2点目が経済性。3点目はオブザーバビリティ(可観測性)。4点目はピボット性(柔軟に方向を変えられる機動力)です。
AIエージェント時代のアーキテクチャについては、AIを取り巻くダイナミックな変化に対する柔軟な対応と、スケーラビリティの両立が鍵になると考えています。
モデルの進化のみならず、モデル周辺の技術も大変重要であり、AIエージェントを取り巻くツールやインターフェースについても、進化と変化が続くことは明白です。
多くの企業がユースケース別に優れたAIエージェントを提供し始めており、この優れたAIエージェントをソニーグループのAIエコシステムに適切かつ柔軟に取り入れ、管理し、使い分けることが求められると想定しています。AIモデルのみならず、あらゆるAI関連機能のリーダーが変わることを前提に、常に良い技術、優れたモデルにピボットできるよう、マルチLLMのみならず、マルチAIエージェント戦略をとれるアーキテクチャに拘っています。
その上で、経済性と機能性を両立すべく、良いAIエージェントの共有性や再利用性の追求も重要だと考えています。事業領域や職種に寄らずに技術として共有できる機能が増えています。例えば、Deep Researchのような機能は、目的やユースケースは異なっても、技術としては流用可能です。この共有性と再利用性を高めるには、個別最適と共通機能の適切な分離が肝であり、アーキテクチャとしても対応しています。
そして、これらを正しく運用し、適切に舵を切る上で、ソフトウェアやシステムの状況を可視化、理解する「オブザーバビリティ」が重要になります。特に自律的なアクションやAI同士の連携が行われるAIエージェントにおいては、安心安全、心理的安全性の担保が重要であり、その証明も企業のAI活用において必須の機能です。アーキテクチャとしても、多面的なオブザーバビリティの確保と、オブザーブされたデータによるガードレールや評価の機能を重要視しています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
AI導入のカギは「行動変容」 ソニーグループが実践した、“現場が使いたくなる仕組み”とは?
ソニーグループは2023年から全社員の生成AI活用を推進し、わずか2年で5.7万人が日常業務で使う体制を整えた。同社では、日々15万件の推論が実行されている。
流入「80%減」 AI検索で大打撃を受けたHubSpotは、どうやって“未来の顧客”を取り戻した?
米HubSpotはAI検索の影響を大きく受け、ブログへのトラフィックが80%減少した。同社はどうやって“未来の顧客”を取り戻したのか。ヤミニ・ランガンCEOが語る。
年間「8.7万時間」の削減 ソフトバンクの営業組織は、なぜ「AIに優しく」するのか
ソフトバンクでは法人顧客への提案活動を支援するツールを開発・活用し、年間8.7万時間の業務時間削減に成功するなど、大きな成果を上げてきた。同社は生成AI活用によって営業活動をどのように変革してきたのか。
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体
SMBC×SBIが、「Olive Infinite(オリーブ インフィニット)」というデジタル富裕層向けサービスを開始した。野村證券をはじめとする大手証券会社が切った「1億〜3億円層」に商機があるという。
月次報告180時間が「ゼロ」に パナソニック くらしアプライアンス社が挑んだVoC分析の改革
パナソニック くらしアプライアンスのCX事業開発室 CS-DX推進部は、年間約250万件のVoCを効率的に分析・活用する仕組みを構築。月次報告作業にかかっていた180時間をゼロにするという劇的な効率化を実現した。
