“DX後発”だったのに、なぜ? 雪印メグミルクが“驚異のスピード”でAI活用浸透できたワケ:AI時代の「企業変革」最前線(4/4 ページ)
雪印メグミルクが2024年4月から運用を開始した社内AI「YuMe*ChatAI」の活用が進む。同社は、DXにおいて後発だった。にもかかわらず、なぜ先行企業が苦戦する「現場定着」の壁を打ち破り、驚異的なスピードでAI活用を全社に浸透させることができたのか。
雪印メグミルクが描く「読み・書き・AI」の次なる一手
中出: 定量・定性面での中長期目標はどのようにお考えですか?
小幡: 短期的に数値として効果が出やすいのは、コーポレート部門の生産性向上だと考えています。同じ仕事量でも、担当する人数や工数を減らせることが最も分かりやすい成果であり、その達成を年内のターゲットにしています。
また、DXに詳しい人材の異動によって、特定の部門が停滞しないようにすることも重要です。昔は「読み・書き・そろばん」と言われていましたが、今は「読み・書き・AI」だと考えています。
KPI(重要業績評価指標)については、現在具体的な設定を詰めている段階です。
後藤: アクティブユーザー数や活用頻度(トークン数など)はチェックしています。勉強会の参加者数なども参考にしながら、社内での浸透を図っています。
中出: 最後に今後の展望をお聞かせください。
本田: 現在、試行錯誤しながら、AIエージェント活用に関する試験的な取り組みを進めています。業務プロセスの標準化やシナリオ設計を通じて、仮想環境での検証を行い、改善サイクルの高度化を目指したいと考えています。
加藤: YuMe*ChatAIをAIワークフロー機能と連携させ、AIが業務をシステム内で自然にサポートできる基盤が整ってきています。
具体的には、既に通勤経路申請への導入を完了しています。現行のシステムでは、鉄道会社名や駅名をマスタに登録されている通りに入力しないとエラーが出るなど使い勝手の悪さが課題でした。AIが入力した項目を理解して、通勤経路候補を自動検索/表示することで、手間やミスを減らすことができると考えています。
今後は電子稟議作成時の社内規定との関連チェックや、基幹システムなど、他システムでも、AIによる“入力支援”や“業務効率化”を全社的に進めていくことを目指しています。
後藤: 当社では、今年の5月にグループ経営計画 「Next Design 2030」を公開しました。グループ全体でDXをさらに推進するための仕掛けを継続することで、グループ経営の実現にもつなげていきたいと思っています。
小幡: 先日、DXの取り組みの一環として、社内ポータルサイトを約20年ぶりに刷新しました。情報共有と発信を強化し、組織風土改革のためのコミュニケーションツールとして活用しています。今後はそこにAIを組み合わせ、社員が欲しい情報をYuMe*ChatAIでスムーズに検索したり、記事の要約などを活用できるようにしたいと考えています。
最終的には、社内システム全体をAIでシームレスにつなぎ、社員が異なるシステムの壁を意識することなく利用できるプラットフォームを構築することを目指しています。
中出: 雪印メグミルクさんのお話を伺って改めて感じたのは、「後発であること」は決してハンデではなく、強みにもなり得るということです。先行事例を学び取り、スピード感をもって“体験”を重ねる──。その積み重ねこそが、DXを文化として定着させる最大の力だと感じました。本日はありがとうございました。
小幡貴司
雪印メグミルク DX戦略部長
雪印メグミルクグループが次の100年に向けて進める「雪印メグミルクグループDXビジョン」において、そのDX戦略を担い、データ利活用基盤の刷新やデジタルによる業務効率化、風土組織改革、社内DX人材育成を推進。
2022年IT企画推進部長、2025年から現職。
加藤直人
雪印メグミルク DX戦略部 IT企画推進グループ 課長
IT部門での基幹システム構築、グループITガバナンス推進、CSIRT担当後に、工場勤務を経て、2022年6月から現職。IT関連の多岐にわたる経験を活かし、中期経営計画「Next Design 2030」の中でDX基盤戦略にあたる、次期システム開発PJの推進を担う。
後藤良太
雪印メグミルク DX戦略部 DX戦略グループ 課長
中期経営計画「Next Design 2030」の実現に向け、DXの推進を通じた企業風土改革、業務効率化、価値創出に取り組む。2025年4月から現職。複数のコーポレート部門での経験を生かし、DX推進体制の整備・強化、DX人材育成等の重要施策の推進を担う。
本田道啓
雪印メグミルク DX戦略部 DX戦略グループ 課長。
北海道から関東まで3工場での勤務経験を持ち、工場建設委員会を経て、生産技術部 装置開発グループ DXチームで現場課題の解決を目的としたデジタル化を推進。2025年4月から現職。現在はDX戦略立案と実装支援、生成AIなど先端技術の活用展開を担う。
中出昌哉
テックタッチ 取締役 CFO/CPO兼AI Central 事業責任者
テックタッチでは、「AI Central」(AI技術を活用した新規事業開発を担う専門組織)の事業責任者としてAI戦略をリード。プロダクト戦略責任者(CPO)および財務責任者(CFO)も担う。一般社団法人日本CPO協会の理事も務める。
東京大学経済学部、マサチューセッツ工科大学(MIT)MBA卒。野村證券株式会社にて投資銀行業務に従事し、素材エネルギーセクターのM&A案件を多数手がける。その後、カーライル・グループにて投資業に従事。ヘルスケア企業のバリューアップや、グローバル最大手の検査機器提供会社への投資等を担当。テックタッチには2021年3月、CFOとして入社。
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