2015年7月27日以前の記事
検索
ニュース

【40年ぶりに労基法改正へ】働き方はどう変わる? 押さえるべき3つの変更点連載「情報戦を制す人事」(4/4 ページ)

40年ぶりに、労働基準法が大きく変わるかもしれません。現在、2026年の国会への法案提出を視野に、労働基準法の見直しが議論されています。この改正が成立した場合、企業の労務管理や組織の働き方に、どのような影響を与えるのでしょうか?

Share
Tweet
LINE
Hatena
-
前のページへ |       

勤務間インターバル制度の義務化

議論の背景

 勤務間インターバル制度とは、終業時刻から始業時刻まで、一定の間隔を空け、労働者の休息時間を確保する制度のことを指します。しかし、この制度は一般労働者では努力義務ということもあり、2024年時点で導入率が5.7%(※)と、あまり浸透していません。

(※)厚生労働省 令和6年就労条件総合調査の概況(PDF

 2024年に、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(※)の変更が閣議決定され、2028年までに労働者数30人以上の企業で勤務間インターバル制度の導入率を15%以上にするという目標が掲げられています。さらなる導入率の向上に向けて、努力義務から義務化への変更も視野にいれて議論されています。

(※)厚生労働省 過労死等の防止のための対策に関する大綱(PDF

rk
(出典)東京労働局ホームページ 「勤務間インターバル制度をご活用ください」

勤務間インターバル制度を導入した場合の働き方

 例えば、勤務間インターバル制度を導入している工場で、従業員が午前0時まで残業したとします。この制度は、終業時刻から次の始業時刻までの間に、必ず一定時間の休息をとることを義務付けており、この工場では11時間の勤務間インターバルを設定しています。

 したがって、終業が午前0時の場合、11時間のインターバルをとると翌日の午前11時までは、たとえ所定の始業時刻が午前9時であっても仕事を開始できません。

【運用上、検討するべき観点】勤務間インターバルを何時間に設定するか

 一般労働者に対するインターバル時間については、現在、法的な規定はありません。しかし、厚生労働省は「働き方改革推進支援助成金」(勤務間インターバル導入コース)において、9時間以上または11時間以上の設定を支給要件としています(※)。

(※)厚生労働省 働き方改革推進支援助成金(勤務間インターバル導入コース

 またEUでは11時間ですでに義務化されていることから、日本でも義務化された場合には、恐らく9〜11時間になると想定されます。しかし、最終的な時間設定や細かな運用ルールは、労働者の健康確保と企業の運用面を考慮し、これから策定されると考えられます。

【企業が運用する時の注意点】誰が翌日の始業時間の変更許可を行うか

 勤務間インターバル制度は、前述のような突発的な深夜業務が発生した場合に、翌日の始業時間の変更が必須となります。

 この際、現場責任者(上司)が不在であるケースを想定し、誰が深夜に始業時間の変更を承認するのか、という点が運用上のポイントとなります。対策としては、例えば、深夜対応可能な管理部門の設置や、やむを得ない場合の事後申請の仕組みを設けるなど、円滑な運用に向けた事前のルール作りが不可欠です。

【企業が運用する時の注意点】始業時刻を変更したことによる代替要員をどう確保するか

 翌日の始業時刻を例えば午前9時から午前11時に変更した場合、午前9〜11時の間、その従業員がいない状態で業務を回さなければなりません。理想をいえばその従業員の代替要員を確保しておきたいですが、突発的な事象により、勤務間インターバルの確保を余儀なくされた場合は急な対応ができない場合もあります。

 このように勤務間インターバルによって、明らかに業務が回らない業種、業態も想定されます。そのため、国は勤務間インターバルを導入できない場合の代替措置も検討しています。

義務化された場合には早期に対応を検討

 代替措置が検討されているとはいえ、勤務間インターバルが義務化された場合には、深夜残業が発生しやすい業種・職種を中心に、新たにこの制度を導入する企業も増えると考えられます。もし改正が実現した場合には、早期に翌日の始業時刻の変更フローや代替要員の確保について自社で考えておく必要があります。

自社の従業員にとっての働きやすさを考える

 本記事の内容は議論中であり、改正が確定しているわけではありません。労働基準法の改正に対応することももちろん不可欠ですが、特に大企業においては、従業員数が多いため、働き方の多様なニーズに答える必要が出てきます。

 労働基準法はあくまで最低の基準であり、「自社の従業員にとって、本当に働きやすい方法はどのようなものか」を常に考えておく必要があります。育児、介護をする従業員がこれから増えてくれば、週5日・1日8時間出社して働くことが難しい従業員も出てくるでしょう。そういった従業員が自社で継続的に働ける環境・選択肢を用意し、お互い望まぬ退職を少しでも減らすことが重要です。

※この記事は2025年12月時点の情報をもとに執筆しています。労働基準法の改正は現在も議論が続いており、本記事の内容は最終的な改正内容とは異なる場合があります。実務への適用に当たっては、必ず最新の厚生労働省の発表をご確認ください。

著者プロフィール

井上 翔平 株式会社Works Human Intelligence WHI総研

photo

2012年、政府系金融機関に入社。融資担当として企業の財務分析や経営者からの融資相談業務に従事。2015年に調査会社に移り、民間企業向けの各種市場調査から地方自治体向けの企業誘致調査まで幅広く担当。2022年に(株)Works Human Intelligence入社。さまざまな企業、業界を見てきた経験を生かし、経営者と従業員、双方の視点から人事課題を解決するための研究・発信活動に取り組む。また、社会保険労務士の資格を所持しており、法改正の解説や労務相談Q&Aの執筆を行っている。

株式会社Works Human Intelligence

大手法人向け統合人事システム「COMPANY」の開発・販売・サポートの他、HR 関連サービスの提供を行う。COMPANYは、人事管理、給与計算、勤怠管理、タレントマネジメント等人事にまつわる業務領域を広くカバー。約1200法人グループへの導入実績を持つ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る