言葉は、リーダーの手を離れ暴走する 「ワークライフバランスを捨てる」発言の重さ:働き方の見取り図(3/3 ページ)
言葉が独り歩きした結果、意図せぬ形で人を傷つけたり、組織の判断を誤った方向へ導いたりすることもある。2025年最後の本稿では、「リーダーが発する言葉の重み」について考えてみたい。
言葉が独り歩きするとき、責任は誰にあるのか?
冒頭の「ワークライフバランスを捨てる」という高市首相の発言は、その真意が働き過ぎを推奨するものでないのであれば、受け手側が勝手な解釈で引用するとミスリードにつながります。
一方で、一度発した言葉が真意とは別の方向へ独り歩きする可能性があることも、現実として認識しておかなければなりません。強力な権限を持つリーダーの発言ほど、意図とは異なる形で人を傷つけ、悪用される危険性も大きくなるということです。
もし、自身の発言がどう伝わるのかを想定できていないとしたら、言葉を発した責任はリーダー自身が負うことになります。だからこそリーダーの言葉は重く、慎重に選んで発しなければならないのだと思います。
高市首相は就任してすぐ、労働時間の規制緩和を指示したとする報道も見られました。これまで過労死で何人もの尊い命が失われ、働き方改革を通じて長時間労働の是正などに取り組んできた経緯を考えると、単なる規制緩和など決してあってはなりません。
しかしながら、規制を適正化することは必要なはずです。自身で裁量を持って仕事に当たっている人であれば、労働時間の制限が億劫に感じられることもありますし、研究開発職やクリエイターなど、労働時間を区切りすぎてしまうと仕事に没頭しきれずやりづらさにつながり、成果の妨げになり得る職種もあります。
それらのケースもひっくるめて、一律に時間制約を設けることが適切なのか否かを慎重に検討していくことは、働き方改革の進化につながっていきます。かつて解雇規制をめぐっても緩和という言葉が飛び交ったことがありますが、ただ緩めることを意味する緩和と適正化とでは、意味が全く異なるのです。
労働時間の規制についての見直しを、単に緩和と解釈して長時間労働是正の動きを逆戻りさせてしまうのか、適正化と解釈して課題を一つ一つ丁寧に洗い出し、整備していくのか。リーダーの言葉が社会を動かすからこそ、「どう語るか」と同時に、「どう受け取るか」も問われているのです。
著者プロフィール:川上敬太郎(かわかみ・けいたろう)
ワークスタイル研究家。1973年三重県津市生まれ。愛知大学文学部卒業後、大手人材サービス企業の事業責任者、業界専門誌『月刊人材ビジネス』営業推進部部長 兼 編集委員の他、経営企画・人事・広報部門等の役員・管理職を歴任。所長として立ち上げた調査機関『しゅふJOB総研』では、仕事と家庭の両立を希望する主婦・主夫層を中心にのべ5万人以上の声を調査。レポートは300本を超える。雇用労働分野に20年以上携わり、厚生労働省委託事業検討会委員等も務める。NHK「あさイチ」「クローズアップ現代」他メディア出演多数。
現在は、『人材サービスの公益的発展を考える会』主宰、『ヒトラボ』編集長、しゅふJOB総研 研究顧問、すばる審査評価機構 非常勤監査役の他、執筆、講演、広報ブランディングアドバイザリー等に従事。日本労務学会員。男女の双子を含む4児の父で兼業主夫。
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