プライシングは「事業戦略そのもの」 SCSKが「コスト積み上げ式」で価格を決めないワケ(3/3 ページ)
価格とは、単に「いくらで売るか」を決める数字ではありません。サービスの価値をどれだけ正しく伝えられるか、そしてその価値を顧客とどう共有できるかを決定付ける、企業活動の中核だと言えます。
営業の説明スキルにも変化 社内浸透はどうした?
高橋: 社内でも「価値ベース」という考え方はなじみがなかったと思いますが、実際、価格を決めたあと、社内の反応はいかがでしたか?
白川: 若手営業からは「説明がすごくしやすかった」「お客さまにも納得してもらえた」という声がありましたね。
高橋: 価格の妥当性を価値に基づいて考え、それを丁寧に説明していくことは、サービスの導入意義や、利用することで得られるメリットをお客さまに伝えることにもつながった、ということですね。
白川: 結果的に価格に納得していただけるだけでなく、営業側としても「このサービスが何のために存在するのか」を語りやすくなる。副次的に、サービスそのものの営業もしやすくなるんですよ。
高橋: 価値ベースでの価格設計については、白川さんのチームではある程度自然に取り入れられていた印象がありますが、社内全体ではまだ体系化されていなかったと伺いました。
白川: 私のまわりの部署や、以前一緒にやっていたメンバーは感覚的に分かっている部分もあったのですが、社内では言語化されていなかった。隣の部署、さらにその隣といったところには伝わっていない状態でした。
今回、プライシングスタジオと協力してプロジェクトを進めましたが、私が「怒って自分で全部やる」みたいな状況を回避できたことはよかったですね(笑)。私自身が設計してしまうことは簡単ですが、それだとノウハウが属人化してしまうし、組織が育たない。それをしてはいけない立場だという自覚があるからこそ、外部の力を借りたかったんです。
営業や開発のメンバーに対して、「価値とは何か」「誰にどう届けるのか」といった視点を持つことの重要性を伝えることができたと感じています。まだ完璧とは言いませんが、ゼロからイチを超えたという意味では、大きな一歩だったと思います。
高橋: 価値を捉えて説明するスキルが、営業の現場に少しずつ根付いていくプロセスを間近で見させていただいて、手応えがありました。
白川: 特に印象的だったのは、営業メンバーが「同じサービスでも、売る相手によって価格が変わる」という発想に初めて納得してくれたことですね。以前から私が言っていたことではあるんですが、ようやくピンと来たみたいで。「ああ、そういうことだったのか」と。
やはり一度でも自分で価値ベースの考え方で設計してみると、考え方が変わる。そこまでいけたのは、今回の取り組みの成果だと感じています。
価値ベースのプライシングで社員の思考力が深まる
高橋: 事業の優先順位の可視化以外に、価値ベースのプライシングのメリットは何かありますか?
白川: 一番大きいのは、やはり社員の思考が深まることですね。価値ベースでプライシングをしようと思うと、ただ価格を付けるだけじゃなくて、ユースケースや導入シナリオをきちんと考えなければいけないんです。価格を考えることが、そのまま「誰のどんな課題を解決するのか」を突き詰めるプロセスになる。
だから自然と、デザイン思考や競合研究、市場理解といった視点も鍛えられていく。単に値付けスキルだけでなく、事業づくりに必要な能力が身に付くんです。
あと、副次的ではありますが、「誰なら価値を高く評価してくれるのか」という視点も持てるようになるのは大きいですね。
高橋: 高く売ることが目的ではなく、「価値をしっかり受け取ってくれる相手は誰か」を考えることで、結果的に高収益な事業になっていくということですね。
白川: その感覚が身に付くと、「無理に全部に届けなくてもいい」と思えるようになる。高収益なセグメントに集中して、あとで公共性の高い領域に広げればいい。そういう戦略が取れるようになります。
高橋: これは、企業の収益だけでなく、結果的に社会全体にも良い影響を与える考え方だと思います。
白川: 今、いろいろな業界で値上げの動きがありますが、「周りが20%上げてるからウチも」みたいなノリではなく、ちゃんと価値を伝えて、納得感のある価格にしていく。それが当たり前になれば、日本全体の競争力も回復するんじゃないかと思っています。
高橋: 価格は単なるお金の話ではなく、価値をどう見せるかの表現であり、ビジネスの構造そのものを変える力がある。まさに“経営そのもの”ですね。
白川: そういう感覚を持った企業が1社でも増えていけば、日本のものづくりも、サービス産業も、もっと良くなっていくと思います。
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