「ストーリー重視」の時代は終わった レイ・イナモト氏が語る、信頼を軸にしたブランド構築:前編(2/3 ページ)
強いブランドに必要な要素は何か。「ストーリー」で語るだけ、ファンが多いだけ……では、本当のブランドにはなれない。
ブランドを成立させる「信頼」とは何か
イナモト氏はブランド構築の定義を「信頼による差別化」であるとする。
信頼とは、不確実性が高い中で、多少のリスクを背負ってでも、そのブランドを信じ、ブランドに自分の思いを委ねるという“意志ある行為”のことだ。
より具体的に言えば、「少々価格が高くても、発売されたらすぐに試してみる」とか、「誰かの評価は関係なく、自分の価値観を信じて購入を決断する」といった行為として、ブランドへの信頼は表れる。
イナモト氏は、企業や商品などのブランドが信頼を築くために、次の3つが重要だと説く。
1. 顧客のリスクを引き受ける姿勢
「自分にとって本当に価値のあるものなのか」というリスクを背負う顧客に対し、商品やサービスの品質だけでなく、サポート体制や返品ポリシーなどを通じて、顧客のリスクを軽減しようとする姿勢。顧客がそのブランドを信じるに足る理由を、言葉ではなく仕組みと態度で示さなければならない。
2. 判断の一貫性
企業のパーパスやミッションといった理念が、実際の商品やサービスにきちんと反映されていること。店舗での接客、カスタマーサポート、価格設定や広告表現など、あらゆる顧客接点において一貫性が求められる。矛盾があれば、顧客の中で小さな違和感として蓄積し、やがて信頼を損なっていく。
3. 信頼の証拠
信頼とは、企業が語るものではなく、顧客体験を通じて“語られてしまう”もの。レビューや口コミがメディアとなり、説得力のある証拠として蓄積される。
「ファンが多い」だけではブランドを確立できない
ここで気になるのが、「ブランドとファン」、そしてそれぞれをつかさどる「ブランド構築とファンマーケティング」の違いである。
ブランドと同じように、信頼がなければファンになってもらうのは難しいだろう。日本ではマーケティングの延長線上でブランディングが語られることも多く、ともすれば両者は混同されがちなのではないだろうか。イナモト氏は身近なブランドを例にこう説明する。
例えば、Appleは多くのファンを抱える強いブランドだ。これに異を唱える人はいないだろう。
では、Googleはどうか。Googleを信頼して、類似プロダクトの中からGoogleを選んで、日々愛用しているユーザーは、たくさんいる。従って、Googleが強いブランドであることは間違いない。だが、「あなたはGoogleのファンか?」と聞かれたときに、「ファンとは違う気がする……」と首を傾げたくなる人も多いのではないか。
Amazonも同様だ。AmazonのPrime会員になり、「ECで買い物するなら、まずはAmazonのアプリを開く」という人はたくさんいる。つまり、信頼による差別化ができているため、Amazonはブランドとして成立している。だが、いくらAmazonのヘビーユーザーだったとしても、その全員が「自分はAmazonのファンだ」と自認しているとは思えない。
他にも、さまざまなコンテンツやIPなどが、SNSで一時的に大流行し、その後人気が急落する事例が数多くある。その際の消費者心理としては、ブランドに対する厚い信頼ではなく、「有名人と同じモノを自分も持っている喜び」とか「入手困難な商品を手に入れた誇らしさ」といったファン心理によるところも大きいのではないか。
まとめると、強いブランドを成立させるためにファンは必須ではないし、逆に、ファンがいるだけでは強いブランドにはならない。もちろん、短期的な売り上げだけを見ればファンがいるに越したことはないが、そのファンが熱狂的であればあるほど、裏切られたと感じたときの反発や、ブームが去った後のブランド毀損のリスクは高まると言えるだろう。
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