【運賃高騰・航空株は下落】イラン情勢が世界各国の航空会社に与えた影響まとめ
米国とイスラエルによる対イラン戦争を受けて原油価格が急騰したことで、世界各国の航空会社に大きな影響が出ている。
米国とイスラエルによる対イラン戦争を受けて原油価格が急騰したことで、3月9日の航空株は急落した。一方で航空運賃は急騰しており、旅行需要の大幅な落ち込みや航空機の広範な運航停止が起こる可能性への懸念が高まっている。
原油価格は15%上昇し、1バレル105ドルを超えた。主要産油国の一部が供給を削減したことや、長期的な海上輸送の混乱への懸念が市場に広がったことで、2022年以来の水準に達した。ブレント原油先物は一時、最大29%上昇した。
ジェット燃料の価格は、紛争開始以降に倍増した例もある。中東での紛争を避けるために航空機が航路変更を余儀なくされ、使用可能な空域がひっ迫している上、地域からの脱出を試みる多数の足止めされた乗客が発生しており、航空会社への圧力はさらに高まっている。
ドイツ銀行(Deutsche Bank)のアナリストは顧客向けメモで「短期的な状況改善がなければ、世界の航空会社は数千機規模の航空機を運航停止にせざるを得なくなる可能性がある。業界の中でも財務基盤が弱い航空会社の一部は、運航そのものを停止する事態もあり得る」と指摘した。
【世界の航空会社の状況まとめ】航空券の価格高騰も
アジアでは航空株が下落した。特に下落幅が大きかったのは、大韓航空(Korean Air Lines)で8.6%下落、ニュージーランド航空(Air New Zealand)が7.8%下落、香港のキャセイパシフィック航空(Cathay Pacific)が5%下落した。
欧州では、エールフランスKLM(Air France KLM)、ブリティッシュ・エアウェイズの親会社IAG、ウィズエアー(Wizz Air)、ルフトハンザ(Lufthansa)が午前の取引で2.5〜6%下落した。
米国の主要航空会社株も午後の取引で約1〜5%下落した。ジェットブルー航空(JetBlue Airways)が5.35%下落し、アメリカン航空(American Airlines)が3.44%下落して続いた。
消費者側の負担増も顕著で、航空券価格は急騰している。例えば、3月11日に大韓航空のソウル―ロンドン直行便の運賃は、7日前の564ドルから4359ドルへと急騰した。これはファーストクラスが最も安い席となったためである(Google Flightsのデータより)。
また、LATAM航空(LATAM Airlines)のロサンゼルス―リマ便は、同期間で499ドルから2125ドルへ上昇した。
モーニングスター(Morningstar)アジア株式リサーチディレクターのロレイン・タン氏は「航空会社にとっての問題は、レジャー旅行者にとって費用が高すぎる水準となり旅行需要が抑制される可能性があること。さらに先行きの不透明感から企業が出張を制限し始める可能性があることだ」と述べた。
タン氏は、高騰した航空運賃の影響により、2026年の大半の期間で旅行需要が抑制される可能性があると付け加えた。
航空会社にとって燃料費は人件費に次いで2番目に大きい費用であり、通常は運航費用の20〜25%を占める。アジアおよび欧州の主要航空会社の一部は原油価格のヘッジ(価格変動リスクを抑える取引)を実施しているが、米国の航空会社の多くは過去20年間でこの慣行をほぼ停止している。
TDコーウェン(TD Cowen)で米国の主要6航空会社とエア・カナダ(Air Canada)を担当する株式リサーチ担当副社長トム・フィッツジェラルド氏は「航空会社が燃料価格急騰の一部を運賃に転嫁できると想定しているが、エネルギー価格が急速に下落しない限り、今年の利益率拡大を見込むのは難しい」と述べた。
エア・カナダのニューアーク―ケベックシティ片道便(3月11日)は、Google Flightsのデータによると、1週間前の水準と比べて約3倍の1499ドルに上昇した。
紛争が航空会社にもたらす「大きなコスト」
高騰した価格は、航空業界に深刻な影響を及ぼす可能性がある。
アジア太平洋航空協会(Association of Asia Pacific Airlines)の責任者スバス・メノン氏は「原油価格が20%上昇すると、より希少なジェット燃料の価格はさらに大幅に上昇する。その結果、運航コストが大きく増加する。さらに空域閉鎖により飛行時間が長くなっているため、乗務員リソースにも大きな負担がかかっている」と述べた。
ドイツ銀行のアナリストは、2005年にハリケーン「カトリーナ」「リタ」の後にジェット燃料価格が急騰した際、航空業界に広範かつ深刻な打撃が及んだと指摘した。当時はデルタ航空(Delta Air Lines)やノースウエスト航空(Northwest Airlines)などの大手航空会社が、同年に米連邦破産法第11章(Chapter 11)による破産手続きを申請した。
米国とイスラエルによる対イラン戦争が始まった2月28日から3月9日までの間に、中東発着の4万便以上が欠航したと、航空データ会社シリウム(Cirium)のデータは示している。
空域が大きく制限されているため、航空会社は航路変更を余儀なくされている。また、急な迂回や安全な回廊を通る長距離航路に備え、追加の燃料を搭載する、あるいは途中で給油する必要が生じている。
シリウムによると、エミレーツ航空(Emirates)、カタール航空(Qatar Airways)、エティハド航空(Etihad Airways)の3社は、通常時は欧州からアジアへの旅客の約3分の1を輸送している。また、欧州からオーストラリア、ニュージーランド、および周辺の太平洋諸島への旅客の半数以上を占めている。
トルコのアブドゥルカディル・ウラオール運輸相は3月8日、トルコ航空(Turkish Airlines)、AJet、ペガサス航空(Pegasus)、サンエクスプレス(SunExpress)によるイラク、シリア、レバノン、ヨルダン向けの便が3月13日まで欠航となると発表した。
3月9日にロイターが公開した記事を転載。香港のジュリー・ジュー、フランクフルトのクリストフ・シュタイツ、ニューヨークのドインソラ・オラディポによる取材。ソウルのヤン・ヒギョン、ジン・ヒョンジュ、シンガポールのコク・シンフイが追加取材。アン・マリー・ローントリー、アダム・ジョーダンが執筆。ジェイミー・フリード、エドウィナ・ギブス、スーザン・フェントン、オーロラ・エリスが編集。

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