AIに「発見」されなければビジネスは始まらない アドビCEOが語った、AIエージェント活用3つの壁:Adobe Summit 2026(2/2 ページ)
米AdobeはエージェンティックAI時代の到来に向けて、新しいビジョン「顧客体験オーケストレーション」を打ち出した。その狙いは、マーケティングとクリエイティビティの再定義にある。
AIエージェント活用を阻む「3つの壁」
企業側がAIエージェントを受け入れる体制には、乗り越えるべき壁がある。アドビ デジタルエクスペリエンス事業部門兼フィールドオペレーション部門代表のアニール・チャクラヴァーシー氏は3つの課題を挙げた。
第一に、自分たちのブランドがAIエージェントに対し、適切に存在感を示せているかが問われていること。アドビの最新調査によれば、ブランドがAIプラットフォームから「見えていない状態」になっている企業が80%存在すると分かっている。SEO対策と同様に、LLMの出力メカニズムを理解し、自社ブランドや製品を知ってもらうために何ができるか、企業が学ぶべきことは多い。
第二に、顧客にリーチするためのチャネルが急増しているにもかかわらず、その対応が遅れている点だ。アドビのマーケティングチームでは、50超のチャネルにコンテンツを提供している。チャネル数が増えるほど、日々の効果測定を始めとする運用負担も増えてしまう。自社メディアや外部メディアだけでなく、増え続けるソーシャルメディアへの対応に追われる企業の現状がうかがえる。
第三の課題は、管理対象のカスタマージャーニーの数が急増していること。全てのオーディエンス、全てのチャネル、全ての製品ブランドを対象に、一人一人のカスタマージャーニーに目配りをする。このような、大規模パーソナライゼーションの実践に困難を抱えている企業は多い。
コンテンツの準備も頭痛の種だ。生成AIの登場で大量のコンテンツ生成は可能になったが、ブランドアイデンティティーに忠実で、顧客にもAIにもインパクトのあるコンテンツを提供しなくてはならない難しさがある。
顧客体験の一元管理、どう実現? アドビが強化する3つの領域
Adobe CX Enterpriseは、AI時代におけるBtoBおよびBtoC顧客体験をオーケストレーション(複数のツールを統合し、ワークフロー全体を自動的に一元管理する仕組み)するエージェント型システムだ。
Adobe CX Enterpriseは「ブランドの可視性」「顧客エンゲージメント」「コンテンツサプライチェーン」の3つのシステムを統合し、1つのソリューションとして展開。それぞれが連携することで、AIプラットフォーム上で人間にもAIエージェントにも適切な顧客体験を提供する。
チャクラヴァーシー氏はイベントで、それぞれの機能の特徴を以下のように語った。
ブランドの可視性
企業は(1)自社ブランドの存在をどのAIからでも認識してもらい、正しい理解と信頼を獲得する、その一方で(2)自社で運用している環境で、顧客(人間)とのエンゲージメントを直接的に深めること──2つの課題に同時並行で対応しなくてはならない。
人間のビジター向けおよびAI向けに最適化されたコンテンツを提供できるよう、アドビはAdobe Experience Manager、Adobe LLM Optimizer、Adobe Brand Concierge、AEM Sites Optimizerを組み合わせ、包括的なブランド可視性ソリューションとして提供する。
顧客エンゲージメント
キャンペーンマネジメントのソリューションだが、AIエージェントがチームのキャンペーンワークフローをサポートしてくれる点で、従来とは異なる。キャンペーン企画のアイデア出しから、設計、展開、分析までの要所でインサイトを提供し、マーケターをサポートする。裏側では、Adobe Experience Platformをネイティブ基盤とし、Adobe Real-Time CDP、Adobe Customer Journey Analytics、Adobe Journey Optimizerが連携している。
コンテンツサプライチェーン
計画から制作、活用、効果測定までのコンテンツライフサイクルと、コンテンツを構成するアセットの管理をエンドツーエンドでサポートするサービス。従来は人間だけのチームでの利用を前提としていたが、AIエージェントの参加も可能になった。
その裏側を支えているのはAdobe GenStudioである。クリエイティブチームとマーケティングチームが、増え続けるチャネルに対応しつつも、ブランドアイデンティティーを維持した上で、パーソナライズされたコンテンツを提供するように支援する。
長期記憶と短期記憶、AIエージェントが参照するデータ資産
3つのソリューションに関連するAIエージェントを活躍させることを前提に、アドビはAdobe CX Enterpriseの提供開始に当たり、非常に重要な強化を実行した。
それがAdobe Experience Manager(AEM)へのコンテキストレイヤーの追加である。ここでのコンテキストとは、AIエージェントが顧客体験を提供するときに使う一種の「長期記憶」を意味する。
先述した3つのソリューションは、セッション単位の短期記憶のみしか維持できない。しかしエージェントは、タスクを依頼するたびにゼロからやりとりを始める「短期記憶」だけでは機能しない。
言い換えると、マーケティングでは、数往復の会話の中だけ正確に動くようなAIエージェントは役に立たない。カスタマージャーニーの途中でも、正しいルールを適用してくれるか。正しい状況判断をしてくれるか──。ビジネスが顧客提供価値の最大化を目指している以上、一貫性のある振る舞いの裏付けとなる、永続的な長期記憶へのアクセスを担保する必要がある。コンテキストへのアクセスは、マーケティングのためのAIプラットフォームの必須要件である。
さらに、コンテキストレイヤーの上にはインテリジェンスレイヤーも追加した。その一つであるAdobe Brand Intelligenceは、ブランドの「文脈」までを学習、再現する仕組みだ。これをコンテンツサプライチェーンで利用すれば、常に最新のブランドアイデンティティーに沿った顧客体験の提供が可能になる。
Adobe CX Enterpriseの登場で、最初はインターンレベルの仕事しかできないエージェントでも、日常の顧客体験提供を通してナレッジをアップデートし、より賢い振る舞いができるようになるだろう。
マーケターやクリエイターがパーソナルエージェントを持ち、ナレッジを共有しながら、ビジネス成果を出す。アドビ顧客にとってこれまで馴染みがあった製品は目立たなくなったが、アドビは人間とAIエージェントとの協働を実現する未来を見据えている。今回の強化は前向きな戦略転換であると解釈したい。
(取材協力:アドビ)
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