民泊「Airbnb」を人気サービスに仕上げた「コンセプト」の魔力 導き出される「売れるモノ」の共通点とは(2/2 ページ)
わずか数名の宿泊者から始まった民泊プラットフォーム「Airbnb」が成功を収めた。その背景には「コンセプト」の力があるという。優れたコンセプトの在り方を解説する。
話題の商品もタレントも「優れたコンセプト」を持っている
私たちが普段暮らしている世界を見渡してみると、話題の商品も、いつも行列のあのお店も、月額課金しているサービスも、インターネットで再生数を稼いでいる動画も、著名タレントやアーティストも……。
今、世の中でたくさんの人の関心を集めて、成功しているものは、明確に「選ばれる理由」があり、漏れなく優れたコンセプトを持っています。
逆に、コンセプトが弱ければ、どんなに時間やコストをかけても、あとから何とかしようと思っても、埋もれてしまう可能性が高いのです。
これまで鳴かず飛ばずであったものを、あとから成功させるのは至難の業。目先の数字のテコ入れなどで済むはずもなく、それまでの当たり前を捨てて見直し、新たな価値や仕組みを生み出さなければ改善することはできません。
だから、優れたコンサルタントやマーケターであれば、まず、コンセプトを疑い、リニューアルするところから考え始めるでしょう。
つまり、商品やサービスの成功は、コンセプト次第で「生まれる前から運命が決まっている」と言っても過言ではありません。
新しいものを生み出すとき、多くの人は、まず「いいものを作れば成功するはずだ」と考えてしまいます。
しかし実際は、技術や情報はすぐに共有され、似たようなものを誰でも生み出すことができるため、たいていの場合、品質や価格だけではなかなか差別化できません。
そこで、世に出る前のコンセプトが重要になります。
ここまでお話している通り、優れたコンセプトは、そこにしかない価値を明確にして、選ばれる理由を作り、市場と生活者の欲求を先取りする視点を持ち、一貫性のあるストーリーのもとで適切な品質や機能が決まる、というところまで、あらゆる大切な要素を兼ね備えています。
従って、コンセプトを考えている段階=実際に商品やサービスが生まれる前から、すでに「どう受け止められるか」「どのような市場ができるか」がほとんど決まってしまっているのです。
もちろん実行して継続する精度やタイミングなども大切ですが、コンセプト自体が優れていれば、成功する確率は圧倒的に高くなります。
Airbnbはどんなコンセプトを作り上げたのか?
空き部屋を貸したい人と、そこに泊まりたい人をつなぐ、いわゆる「民泊」サービス。そのプラットフォーム運営企業である米Airbnbは「暮らすように旅をする」(Live like a local)というコンセプトを掲げ、過去の宿泊サービスとは全く違った視点で、旅の価値そのものを再定義しました。
2007年、米国のサンフランシスコで暮らしていた、デザイナーのブライアン・チェスキーとジョー・ゲビアの2人は、家賃に払うお金に困っていたことから、自分たちの部屋を観光客に貸し出すことにしたのです。
ちょうどその週、サンフランシスコでは大規模なイベントが開催されていたタイミングだったため、ホテルはどこも満室でした。
そこで、2人は自宅のリビングにエアマット(Air Bed)を敷き、自宅を訪れた客にサービスで朝食(Breakfast)を提供することにしました。これが「Air Bed and Breakfast」ということで、「Airbnb」という名前の由来になったのです。
つまり、Airbnbは、「新しい宿泊施設を造ろう」という発想ではなく「自宅の一部を提供しよう」という事情から始まったのです。
最初に泊まったゲストは、近隣のホテルに泊まれなかった旅行者でした。
しかし、普通に宿を求めていただけの旅行者が思いがけず体験したのは、ただの「コスパのいい宿」での宿泊ではなく、そこに住む人と同じ空間で過ごせる「現地の暮らし」そのものでした。
ホストの2人と一緒に朝食を食べて、街を歩いて、夜まで語り合う時間を過ごし、もう帰るというときに、ゲストの1人がこう言ったそうです。
「あなたたちの家で過ごした3日間は、まるでサンフランシスコに住んだような感覚だったよ!」
このひとことが、Airbnbの「暮らすように旅をする」というコンセプトにつながっていきます。つまり、机上のマーケット分析や、天才的なひらめきなどではなく「創業者が旅行者とともに過ごした体験」から、世界の旅を変える新しい視点が生み出されたのです。
この翌年の2008年、2人は空き部屋を第三者へ貸し出すAirbnbの事業を本格的にスタートさせましたが、投資家からは「自宅の部屋を貸し借りさせるサービスなんて、リスクが大き過ぎる!」と警告され、なかなか賛同が得られませんでした。
しかし、チェスキーたちは、あくまでも「自宅の貸し借り」にこだわり、旅の目的を観光から生活体験に変えるという自分たちのビジョンを貫きました。
なぜなら、それが既存の旅行スタイルやホテルでの宿泊を超える体験になると、確信していたからです。
その結果はどうでしょうか。
皆さんご存じの通り、現在、Airbnbは世界的な人気サービスとして多くの旅行者に利用されています。
「暮らすように旅をする」というコンセプトは、世界中の家と部屋を探せるようなデザインのWebサイトや、「ゲストを迎えるホスト」としての宿の提供者と旅行客をフラットに扱う姿勢、そして地元の人がゲストをもてなすローカル体験「Airbnb Experiences」など、あらゆるものに反映されています。
実際に、地元の魅力を深掘りしていく「ローカル体験」や、企業だけでなく地域住民が主体となって観光を通して地域活性化に取り組む「コミュニティツーリズム」といった動きは世界的に広がってきています。
そうです、Airbnbの「暮らすように旅をする」コンセプトは、単なるマーケティングの言葉にとどまらず、「新しい時代の価値観」をけん引する視点として、旅行文化そのものを動かしたといえるのです。
筆者プロフィール:
篠崎友徳(しのざきとものり、「崎」は「たつさき」)
株式会社クリエイターボックスCEO。
2007年、慶應義塾大学理工学部卒業。同年、株式会社博報堂入社。さまざまな企業のクリエイティブ制作や、統合的なコミュニケーション戦略設計に携わる。
2017年、株式会社クリエイターボックスを創業。商品やサービスのコンセプト開発からブランディング、メディア展開までをワンストップで行う。
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