2015年7月27日以前の記事
検索
Special

非ITエンジニアが再びアプリケーション開発に向き合う――日本酸素が見いだしたDXの舞台裏AIエージェントを「仲間」として使いこなす

人手不足とDXの波が押し寄せる中、AI技術などの積極活用の重要性が高まっている。日本酸素は、業務改革の担当者が主導してヒヤリハットを報告・分析するアプリケーションを構築した。特筆すべきは、単なる外注の代替にとどまらない、AIエージェントを仲間として使いこなす新しい開発の手法だ。

PC用表示
Share
Tweet
LINE
Hatena
PR

 「従業員の安全を守るために、報告システムを刷新したい。しかし、外部への委託や社内リソースの調整には時間がかかる」。こうしたジレンマは、多くの企業に共通する課題だ。

 酸素や窒素などの産業ガスを作り出す空気分離装置(ASU)の設計開発から製造、建設、メンテナンスまで一貫して手掛けている日本酸素(旧:大陽日酸)において、この課題に対する一つの解が提示された。

 同社は、IBMのAIコーディング・エージェント「IBM Bob」(以下、Bob)を使って現場の安全管理を支える「ヒヤリハット報告システム」を構築した。注目すべきは、開発を主導したのがIT専門部署のITエンジニアではなく、長年現場の最前線でキャリアを積んできた「業務改革」の担当者であるという点だ。AIと対話しながら仕様を固めて実装につなげるアプローチは、従来の開発プロセスをいかに変えたのか。日本酸素のプラント部門で業務改革をけん引する落猛氏と技術支援を行ったIBMのチームに、具体的なプロセスと導入効果を聞いた。

社内から寄せられたヒヤリハット報告システム整備の相談

 落氏が所属する日本酸素のプラントエンジニアリングセンター(以下、PEC)は、ASUの設計や建設、メンテナンスを担う中枢部門だ。PECで製造されたASUは、国内はもとより海外でも稼働しており、産業ガスや医療用酸素などの供給インフラとして大切な役割を担っている。この製造プロセスで欠かせないのが、日々の安全点検や改善活動だ。同社はヒヤリハット事例の収集と分析を通じたリスク評価によって安全対策や教育を実施している。

photo
日本酸素の落猛氏(プラントエンジニアリングセンター 業務改革推進室)

 そうした中で社内の品質部門から業務改革推進室に「ユーザーがもっと気軽に入力できるヒヤリハット報告システムを作れないか」「AIを活用できないか」といった相談が寄せられた。

 落氏が依頼者に聞き取りを重ねたところ、背景にいくつかの課題が浮かび上がってきた。「既存の報告方法では、入力に手間がかかり過ぎる」「ユーザーフレンドリーなUX/UIが整っていない」「蓄積したデータを分析して活用するのに時間がかかる」といったものだ。同社にはシステム開発を担う専門組織もあるが、やってみないと分からない不明瞭な要件や本番化が不透明な内容を相談するのはなかなか難しいという現実があった。

 「ユーザーが『こんなアプリケーションを作って業務を改善したい』と思っても、外注や内製開発を依頼するとかなり高額になり、ROI(投資対効果)が成り立たないケースが多々ありました」と落氏は振り返る。

 従業員の安全に関わるシステムを、いかにスピード感を持って実装し、継続的にブラッシュアップするか。その解決策として浮上したのが、IBMがリリースしたばかりのBobだった。「Bobを活用すれば、課題を効果的に解決できるかもしれないと直感しました」

仕様を固めるプロセスを重視した「Bob」のメリット

 日本IBMの柳英生氏は、Bobの設計思想を次のように説明する。「最大の違いは、コードを書く前に『何を解決したいのか』というビジネス仕様をAIと詰めてドキュメント化する工程にあります」

photo
日本IBMの柳英生氏(テクノロジー事業本部 アカウント・テクニカル・リーダー)

 アプリケーションの仕様を決める工程は非ITエンジニアにとってハードルが高く感じられるかもしれない。しかし実際は逆で、いきなりコードを生成すると、そのコードをある程度読解できなければ自分が必要とするアウトプットになっているかどうかを判断できない。ツールを使いこなすためには、より高いプログラミングスキルが求められる。対してBobは、ユーザーとの対話を通じて「誰が使うのか」「どのようなデータが必要か」をヒアリングし、論理的な仕様書を先に作成する。

 「ユーザーは、何を実現したいかという『本質』を言語化することに集中すればいいのです。技術的な実装のベストプラクティスはBobが提案します。この役割分担が現場起点のアプリケーション開発を後押しします」と柳氏は強調する。

ローコードツールとBobを組み合わせた独自の二段階アプローチ

 日本酸素は、どのようにBobを活用したのか。特筆すべきは、落氏が独自に編み出した二段階アプローチでヒヤリハット報告システムを開発したことだ。

 第一段階は、Pythonベースのローコードツールである「Streamlit」を用いてプロトタイプを作成する。ここで落氏が重視したのは、UIのデザインや操作性ではなく、「何をどの順番で聞き出し、どのようにまとめて蓄積するか」というヒヤリハット報告の根幹となるロジックだ。

 「多くの制約があるローコードの枠組みの中で、やりたいことを明確に表現します。こうして作成されたコードが、アプリケーションの仕様になります。一般的な要求仕様書のように文書で記述するのではなく、あえてコードに落とし込むことで内容を簡潔にした本質的な仕様を作り上げられます」

 このプロトタイプを依頼者に触ってもらい、実施するか否かを判断する。必要に応じてその場でプログラムを修正し、要件を確定させる。

 第二段階では、第一段階で確定した仕様書代わりのコードをBobに渡し、本格的なアプリケーションの実装を依頼する。

 「プロンプトには『プロダクションレベルに仕上げて』『ベストプラクティスを提案して』『実装先はIBM CloudのCode Engine』といった指示を必ず加えています。これによって、Bobは過不足のない構成を提示してくれます」

photo
日本IBMの田島大輝氏(テクノロジー事業本部 テクノロジー・セールス・リーダー)

 Bobは約30工程からなる実装計画を自律的に立案。データベース設計、類似事例マッチングの実装、エラーハンドリングといった領域を担った。「これこそ、Bobが単なるツールではなく仲間と感じる理由です」と落氏は振り返る。

 日本酸素独自の二段階アプローチには、日本IBMも目を見張る。

 日本酸素のアカウントマネジャーとして営業を担当している日本IBMの田島大輝氏は、「ローコードツールとBobを組み合わせるという開発手法は、私たちも想定外でした。目的とするアプリケーションの仕様を簡潔かつ端的にAIエージェントに伝えるという観点でお客さまの考え方とアプローチは非常に理にかなっており、私も多くのことに気付かされました」と驚きを隠さない。

コスト構造の変革と「AI実行コスト」の向き合い方

 開発コストの観点でも、Bobがもたらした変化は大きい。「従来は小規模の業務向けにアプリケーションを作成するのは費用的に難しかったのですが、Bobを『自前の開発パートナー』として活用することで光明が見えてきました」と落氏は評価する。

 なお、Bobは独自の「Bobコイン」というトークンで実行リソースを管理する。落氏は、コインの消費について「戦略的な運用が求められます」とも付け加える。1回の指示で消費されるコストは決して無視できるものではなく、無計画な試行錯誤はコストの増大を招くからだ。

 「コインの消費をいかに節約するかが今後の重要な課題です。ただし、Bobで開発したコードは自分たちの資産として蓄積されます。一度作った優れたコードを別の類似案件に流用したりプロンプトを洗練させたりすることで、長期的には開発効率を高めて実行コストを抑えられると考えています」

 完成したヒヤリハット報告システムはすでにテスト運用が始まっている。この成果物は単なるAIチャットボットにとどまらない。対話型で報告入力をナビゲートする機能や報告内容一覧と対応の順位付け機能、ダッシュボード、管理画面が搭載されている。

 「一般的に、PoC(概念実証)はAIと対話できる画面ができたところで終了になりがちです。しかし、本番を見据えると管理機能や蓄積データの活用が不可欠です。そういった視点を織り込んで実務に耐えられるアプリケーションをBobで実現させました」

photo

非ITエンジニアによるアプリケーション開発の未来

 ヒヤリハット報告システムの開発で大きな手応えをつかんだ落氏は、今後の展望として「AIを活用した社内業務特化アプリケーション実装」や「レガシーシステムの現代化」への適用を見据え、Bobのトライアルを始めている。

 「どのアプリケーションも作っただけでは誰にも使われません。どこで動かしてどう守り、誰が維持するのか――。技術スタックを理解してデプロイ先のセキュリティーや運用体制を固めなければ役立つアプリケーションにはなりません。Bobを新たな仲間に迎えたことで、非ITエンジニアも最低限の学習と準備によって必要なアプリケーションを開発できる未来が見えてきました。かつての日本の技術者は、ツールを自ら工夫して業務を最適化してきました。Bobの登場によって、再び『現場がプログラム開発に向き合う』時代が来たと感じています」

 そんな日本酸素のチャレンジを、日本IBMもしっかり支援する構えだ。

 「企業の生成AIプロジェクトで共通する課題は、PoCを繰り返すだけで本番開発に進まないことです。この課題に対応するため、日本IBMは『IBM Client Engineering』という専門チームを設けています。お客さまのニーズを具体化するMVP(最小限の機能を持ったプロダクト)を短期間で作り上げる共創アプローチで支援します。技術レベルの検証で終わるのではなく、実用に堪えるレベルに達しているかどうかをお客さまと考え抜き、最後まで伴走して成果につなげます」と柳氏は訴求する。

 日本IBMとの二人三脚で業務改革へ向き合う日本酸素の取り組みは、今後も着実に進む。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.


提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年7月10日

ページトップに戻る