AIが破壊するIT業界の“人月商売” 「SIerの死」後に“生き残る者”の正体(1/6 ページ)
米Anthropicの機能発表で約8300億ドルの時価総額が消し飛んだ「AIショック」。画面の使いやすさで稼いできたSaaSや、時間と人数を積み上げるSIerの「人月商売」が崩壊の危機に直面している。だが、業界ルールにのっとった複雑な計算(ビジネスロジック)を握る企業は依然として強い。真の構造変化はどこで起きているのか。AIに仕事を任せるための「安全管理」の難所と、「現場派遣型エンジニア」(FDE)の正体に迫る。
AIエージェントが既存のソフトウェアビジネスの価値を奪う「SaaS is Dead」(SaaSの死)の次に名指しされたのは、SIer(システムインテグレーター)だった。
2月初旬、米Anthropicがナレッジワーカー向けの自律型AIエージェント(人間の代わりに自分で考えて業務をこなすAIアシスタント)機能「Claude Cowork」の業務プラグインを発表すると、世界のソフトウェア・サービス株から6営業日で約8300億ドルの時価総額が消えた。これは「Anthropicショック」と言われる。日本では大手SIerに加え、ベイカレントやSHIFTなどコンサル・開発支援系の銘柄まで売られた。
売りの理屈は、“ある読み”によって整理できる。SaaS株は、AIが人間の代わりに業務をこなすようになれば、人が画面を操作する時間が減り、利用する社員の人数(アカウント数)に応じて料金をもらう「シート課金モデル」が成り立たなくなるという懸念からきている。
一方のSIer株は、開発の計画段階から全体の進行管理、実際の組み立て、テストにいたるまで「作業にかかった人数と時間(人月)を積み上げることで稼ぐ構造」そのものが、AIに置き換えられるという読みだ。IT人材不足やDX需要を追い風に買われてきた銘柄群だけに、逆方向の見方が入った影響は大きかった。
ただ、売りの前提には粗い部分がある。金融基幹システムを手掛けるFinatextホールディングスCFOの伊藤祐一郎氏は、Anthropicが矢継ぎ早に出す業種特化型プロダクトの中身を「ほぼただのスキル」だと見る。
例えば「中小企業のバックオフィス業務を広くこなす」とうたうスキルを開けると、実際には会計SaaSのMCP(AIエージェントと外部ソフトをつなぐ共通規格)との連携手順が書かれているだけだという。「実態はただの何百行かのテキストしか入っていない。それだけで業務ができるはずがない」。
システム開発の業界で「ビジネスロジック」と呼ばれる、法律やルールにのっとった複雑な計算や業務の仕組みの領域は、既存の事業者に任せる――それがAI開発企業側のスタンスだと伊藤氏は読む。
では、Anthropicショックは虚像だったのかと言われると、そうではない。構造変化は、市場の売りの理屈とは別の場所で、すでに進んでいる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「SaaSの死」への反撃シナリオ Anthropicショックを覆すIBMの「4つの武器」
ボストンで開催されたIBMの顧客イベント「Think Boston 2026」。会場の熱気とは裏腹に、同社はかつてない逆風にさらされていた。米Anthropic「Claude Mythos」は、メインフレームの脆弱性を容易に特定し、IBMの牙城を揺るがしかねないとの見方が広がったからだ。「SaaSの死」という言葉が飛び交い、IBMの株価は30%近く急落した。この「Anthropicショック」に対し、IBMはどう立ち向かうのか。レガシーをAI時代の資産へと変える「4つの武器」と、反撃に向けた逆転のシナリオを現地から詳報する。
「SaaSが終わる? 興味ない」 ラクス社長が語るAIの「真の脅威」
国内SaaS業界トップランナーのラクス。「SaaSが死ぬかどうかってそんなに興味ない」と明かす中村崇則社長が、本当に恐れているものとは何なのか。業界トップが明かすAI時代の生存戦略を聞いた。
欧州家電市場から脱落する日本メーカー──主役は韓国・中国製に
欧州最大の家電・IT見本市「IFA」。現地を取材したIT分野の調査・コンサルティング会社、MM総研の関口和一代表取締役所長がレポートする。
孫正義の「AI革命構想」と経営者へのメッセージ 日本企業に“最後のチャンス”
ソフトバンクグループ株主総会での孫正義氏の発言から、ASI時代を勝ち抜くために企業に求められる判断力と実行力を読み解く。
メドレー社長に聞く「根回し不要」「ハイパフォーマーを集め、生かす」組織の作り方
医療ベンチャー・メドレーの瀧口浩平社長に、優秀な人材を集め、その能力を最大限発揮できる環境をいかにして整えているのかを聞いた。
「日本なくしてNVIDIAはなかった」 フアンCEOが語った真意は?
NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは都内で主催した自社イベントで「日本はこれまでテクノロジーの分野で遅れていたが、AIを活用すればリセットできる」と話した。「日本なくしてNVIDIAはなかった」と語る真意は?
