「潰れたって聞いたよ」 倒産寸前から年商2.5億円へ、二度の経営危機を乗り越えた「トタンバケツメーカー」(3/6 ページ)
「オバケツ、潰れたって聞いたよ」。一時は年商500万円まで落ち込んだ「トタンバケツ専門メーカー」はどのように自社ブランドをを磨き上げ、経営危機を乗り越えたのか。取材した。
模倣品の登場で売り上げが4分の1に
好調だったオバケツだが、その勢いは少しずつ下火になり、2000年頃に第二の危機が渡辺金属工業を襲った。海外製の安価な模倣品が市場にあふれ出したのだ。当時勢いがあった100円ショップにも類似品が並び、年商はピーク時の4分の1の5000万円にまで落ち込んだ。
暗雲が垂れ込めた2006年、4代目として家業に戻ったのが渡辺氏だ。大学卒業後は「一度は外で働こう」と東京の通信教育会社で3年間、カタログ制作やデザインに携わっていた。家業の苦境を知らされた渡辺氏は、勤務先を退社。東京のアパートを渡辺金属工業の「東京営業所」にし、二拠点で新規開拓する日々がスタートした。
父からは「まず営業をやれ」と命じられたものの、渡辺氏は営業経験もなければ、トタンバケツに関する知識もゼロだった。
「商談に行っても、相手が何の話をしているのか分からないんです。材料の知識も売れ筋も分からない。とりあえず『持ち帰ります』と言って営業先を出て、すぐにビルの片隅で父に電話して『これ、どういう意味?』と確認する。それを繰り返す毎日でしたね」
数カ月間1個も売れない日々が続き、ようやく獲得した注文はオバケツ1個。金額にしてわずか5000円。しかも、相手は会社更生法を申請したばかりの倒産寸前の企業だった。
「当時の自分にとっては、受注できたことがとにかくうれしかったです。倒産寸前の企業だったことについては『ネタができたな』と笑うしかなかったですね」
「オバケツってまだあったんだ」
2007年、渡辺氏は「東京インターナショナル・ギフト・ショー」への初出展を決めた。
きっかけは、オバケツが市場でほとんど知られていないことへの危機感だった。渡辺金属工業の商品は問屋を経由して全国へ流通している。しかし、カタログは問屋のロゴに差し替えられ、商品も問屋の商品として販売されていた。
トタン板を切り、曲げ、圧着して接合する。20〜40にわたる工程を職人たちが手作業で担い、材料は全て日本製。溶接をしないため水を入れてもサビにくく、各工程で検品も行う。そうしたものづくりへのこだわりも、「オバケツ」というブランド名も、小売店や消費者にはほとんど届いていなかった。
「自分たちの言葉で商品の価値を伝えなければ」――その思いが、ギフト・ショー出展の原動力となった。
とはいえ、当時は経営不振の真っただ中。出展費用を捻出するのも容易ではなかった。ブース設営では、ホームセンターで購入した壁紙を自ら貼り、木材で棚を手作りした。商品の搬入まで含め、できることは全て自分たちで行った。
会期中は、ブース前を通る来場者に声を掛け、ときには腕を引いて呼び留めてはオバケツの説明をした。休憩時間すら惜しかった。
「とにかく必死でしたね。通り過ぎる全員に話を聞いてほしかったんです」
そんな中、渡辺氏は1人の男性の名札に目をとめた。かつて取引のあった企業の関係者だった。迷うことなく声を掛けると、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「オバケツってまだあったんだ。潰れたって聞いたよ」
自分たちが必死に守り続けてきたブランドが、市場からは「もうなくなった会社の製品」と認識されていたのだ。さらに、「これ、中国製でしょ?」と聞かれることもしばしばあった。部品から組み立てまで全て国内自社生産という誇りも、誰にも伝わっていなかった。
「悔しいし、情けないしで。今まで何をやってきたんだろうって、自分に腹が立ちました」
振り返れば、問屋に商品の価値を伝えれば売ってくれると思い込み、販売を任せきりにしていた。その結果、オバケツの良さも、ものづくりへのこだわりも、市場にはほとんど伝わっていなかった。自分たちが語らなければ、商品の価値は伝わらない。自分たちが発信しなければ、存在しないのと同じだった。
ギフト・ショーでの経験を機に、渡辺氏は自社ブランドの育成に本腰を入れることを決意した。
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