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解剖・孫正義氏の「ガチョウ論」 「ソフトバンクG株価が低過ぎ」主張を信じてよいのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

孫正義氏が、ソフトバンクGの株価に不満をにじませた。孫氏が「本当の企業価値」として示す「時価純資産」の論理と危うさを解説する。

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メタプラネットが見せた「NAVのわな」

 この“レバレッジのわな”がむき出しになったのが、ビットコインを買い集めるメタプラネットだ。

 同社を巡っては、同社の算出していた「mNAV」(market NAV)という指標が注目された。mNAVは「時価総額+総負債」を、保有ビットコインの時価評価額で割った倍率で、1倍を下回ると同社株式がビットコイン現物より割安に取引されている状態を意味する。

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mNAVの概要(出所:3月25日のメタプラネット株主総会資料)

 ところが、そのプレミアムはあっけなく蒸発した。mNAVは2024年6月に約8倍を付けた後、2025年10月には初めて1倍を割り込み0.88倍まで低下※3。2026年5月にも0.92〜0.93倍と、再び1倍割れの水準をさまよった。

※3:日経新聞電子版「ビットコイン投資戦略に暗雲 メタプラの時価総額、保有価値下回る

 株価は高値から90%以上も下落した。ビットコインという激しく上下する資産を、増資という形でレバレッジをかけながら買い増す。この構造は相場が上がる間は「資産価値×プレミアム」の二段ロケットで株価を押し上げるが、いったん信認が揺らげばプレミアムが剥落し、原資産の下落も重なって、NAVも株価も同時にしぼむ一連の流れを分かりやすく伝えてくれる。

 同じビットコイン戦略でも、米Strategy(旧MicroStrategy)は優先株などを使った多層的な調達力を「プレミアム」として評価され、mNAVは1倍超を記録した。明暗を分けたのは資産の中身ではなく「市場の信認」という、いつでも消え得る無形の何かだった。

 NAVとは、つまるところ期待の別名であり、期待は前提が崩れれば一夜にして剥がれ落ちる。

SBGはAI企業、メタプラネットはビットコイン 構造は同じ?

 もちろん、孫氏のSBGと、ビットコイン投資会社のメタプラネットを同列に語るのは乱暴だ。SBGはArm Holdingsや国内通信という安定資産を持ち、LTVも17%と規律的で、メタプラネットのようにビットコイン一本に賭けているわけではない。

 それでも、骨格は驚くほど似ている。値動きの大きい資産(一方はAI企業群、もう一方はビットコイン)を借入や資本市場からの調達で買い増し、その正味価値(NAV)の大きさを企業価値の根拠として市場に訴える。

 市場がその物語を信じればプレミアムが付き、疑えばディスカウントが付く。AIブームが続く限りSBGのNAVは輝くが、もし「AIバブル」の調整が本格化すれば、非上場資産の評価は下がり、レバレッジが毀損を増幅させる。

 孫氏のNAV論は、投資会社を損益で測ることの限界を突いた、正当な問題提起である。SBGの株価が保有資産より割安であるという指摘自体は、事実に基づいている。その意味で、NAVは無視してよい指標では決してない。

 だが、NAVを「これこそ本当の企業価値だ」とうのみにするのは危うい。

 NAVは、企業価値を考える出発点ではあっても、結論ではない。

 大きなNAVの裏に、どれだけのレバレッジと、どれだけ崩れやすい資産評価が潜んでいるか。そこまで分解して初めて、SBGが本当に割安なのか、それとも市場が正しくリスクを織り込んだ結果なのかが見えてくる。

 NAVという数字の華やかさの下には、いつでも逆回転しうる、てこの原理が働いていることを忘れないようにしたい。

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ソフトバンクのロゴ(編集部撮影)

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