死んだのは「低成長モデル」だけ HRBrainのCSaOが読み解く「SaaS is Dead」の本質(3/3 ページ)
Salesforce出身で、創業10年のHRテック・HRBrainのCSaOを務める小山径氏。同氏は「SaaSは死んでいない」と主張する。その理由は?
淘汰される側と生き残る側の差
では、人の仕事を置き換えるAIの方が、単価も収益性も高いのか。この問いに、小山氏は安易に乗らなかった。「そうとも言えるが、ここはもう少し深く考えたい」。取材で彼が見せた、数少ない留保だった。費目の大きさと、最終的な収益性とは、まだ同じ話ではない。SaaSを19年近く売ってきた同氏が、最も威勢のいい結論の手前で踏みとどまる。筆者が信用したのは、むしろこの慎重さである。
淘汰される側ははっきりしている。ホリゾンタル(業種を問わない汎用型)で、どこにでも置けて、深い業務ノウハウも、蓄積されたデータの意味も乏しいもの。例に挙がったのはAI議事録だ。今時、手元のGeminiのような汎用AIで足りるため、新しい議事録ツールをわざわざ契約する企業は少ない。週末のバイブコーディングで一晩あれば組み上がる程度の便利機能は、複製される側に回る、というわけだ。
便利にするSaaSと、人を置き換えるAIエージェント──HRBrainはこの対比のどちら側にいるのか。小山氏の答えは前者、便利にする側である。「ツールを使ってヘッドカウントを減らすという考えは、毛頭ない」(小山氏)。日本の労働人口が減るなかで、AIやDXで浮いた工数を、守りの人事から攻めの戦略人事へ振り向けてもらう。置き換えではなく、配置転換の話だ。
追う立場として、データ量で先行勢に劣ることは本人も認める。勝負どころを、何のデータを掌握し、AIで意味付けできるか。小山氏が「データ主権」と呼ぶ、SoR(System of Record)由来の堀(競合に対する優位の源)に置いている。
見出しに踊らされるのではなく、構造を理解すべき
前述の小山氏の投稿は、以下のように結ばれている。
我々は見出しではなく、構造の経済性を見なければならない。既存のメディアでさえ、アテンション・エコノミーの虜になることに注意すべきだ
取材において、小山氏は市街から馬が消えた1913年のニューヨークを例えに出した。馬を扱っていた者は職を失い、代わって新しく整備士という職が生まれた。「馬にしがみついていてはダメだ」(小山氏)
小山氏は「ただし、SaaS is Deadというのは、私なら違う言い方をする」と付け加える。「Dead」という文脈の記事は、たいていまだ死んでいないものに向けて書かれる。今回死んだのは「低成長」という形容詞一つだけだ。
自分の事業についている形容詞が何なのか。それを見出しの強さではなく、決算書の中身とデータの所在で確かめられるかどうかが肝心だ。
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