死亡率4割のヒラメが1匹も死なず 温泉の微生物で「化粧品メーカー」が畜産・水産市場を切り開くまで(3/4 ページ)
死亡率4割だった養殖ヒラメが4カ月間1匹も死なず、インドでは子牛の下痢発症率が0%に――。別府温泉で見つかった微生物を武器に、化粧品メーカーから畜産・水産、医療へと事業を広げたSARABiO温泉微生物研究所の成長戦略を追う。
「温泉のやつ、追加で持ってきて!」 エサを食べても成長しないウナギに変化
自ら鶏を飼って実証を重ねる一方、水産では早くも成果が現れ始めていた。
大分県はヒラメの養殖生産量日本一を誇るが、病気による死亡率の高さが長年の課題だった。飼育開始から出荷までの9カ月の間で例年4割が病気で死んでしまっていたが、RG92を配合したエサを与えたところ、1匹も死亡しなくなった。それに加え、体重は通常よりも約3割増加し、肝臓はフォアグラのようにおいしくなった。身のうまみ成分も増加したという。
養殖業者は「幼い娘に安心して食べさせられる魚ができた。それが一番うれしい」と話した。抗生物質に頼らずとも、健康に育つ。その結果は、生産者にとって論文の数字以上の説得力を持っていた。
ヒラメで手応えを得たSARABiO温泉微生物研究所は、RG92を畜産の領域にも広げ始めた。これまでの研究で培った解析技術を生かし、動物のふんや血液を分析しながら、腸内で何が起きているのかを科学的に検証していった。
実証試験は、同社が飼育する採卵鶏20羽から、大学や大手飼料メーカーとの共同研究に発展し、300羽、2000羽、そして4万羽規模へと拡大していった。
「現場の反応が、一番のモチベーションです」と濱田氏は話す。あるゴールデンウイークの早朝、実証試験に協力していたウナギ養殖業者から同氏のもとへ一本の電話が入った。
「温泉のやつを追加で持ってきてくれ! 調子がめちゃくちゃいい。50年やってきて、ずっと諦めていたヒネ仔が、なんでこれで育つんだ」
ウナギには、エサを食べても成長せず、出荷できない「ヒネ仔」と呼ばれる個体が全体の1〜3割存在する。養殖業者にとっては長年の悩みだった。
こうしたヒネ仔にRG92を含むエサを与えたところ、次第に胴回りが太くなり始めたという。体重を1キログラム増やすために必要なエサの量を示す「飼料要求率(FCR)」は3.2から1.57と半分以下に改善。エサ代がコストの多くを占める養殖業にとって、この差はそのまま収益改善につながる。
その後も実証試験の対象を拡大。エビやカキといった水産にとどまらず、昆虫や猛禽類(もうきんるい)まで範囲を広げたが、いずれも効果がみられたという。抗生物質を使用せずに死亡率を下げる成分として、RG92に対する現場の信頼を積み上げていった。
そして、同社は畜産業界における世界的な課題である「子牛の下痢」の問題にも挑戦した。生まれたばかりの子牛は免疫力が低く、下痢による発育不良や感染死が畜産業の大きな損失になっている。
国内の実証試験で効果を確認した後、同社は特にこの問題が深刻なインドで実証試験を行った。同国の研究財団や大学と共同試験を実施。生後間もない子牛へRG92エキスをわずか1滴(0.02cc)ずつ投与したところ、下痢の発症率は0%を記録した。血液や腸内細菌、遺伝子を解析した結果でも、有意な改善が確認されたという。これを機に、同社はインドの畜産市場に進出する足がかりを築いた。
化粧品の成分が、なぜ魚にも牛にも効果があるのか。濱田氏は「全ては、腸から始まるんです」と説明する。
2026年6月、同社はこの言葉を裏付ける成果を発表した。RG92が大腸に届き、腸内の有用菌の働きを活性化させることを証明したのだ。外から善玉菌を取り入れるのではなく、体内の有用菌を内側から育てる「プレバイオティクス」と呼ばれる仕組みだ。
魚も牛も人も、生き物である以上、健康の土台となる仕組みは共通している。別府の温泉で見つかった1つの微生物は、現場で結果を積み重ねながら、畜産・水産分野で新たな選択肢になり始めていた。
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