「AI駆動型国家」の落とし穴 「自治体システム標準化」の“失敗”を繰り返さないための教訓とは(2/2 ページ)
自治体システム標準化の次に、政府が描くのは「AI駆動型」の行政だ。AIエージェントによって行政はどう変わるのか。標準化の経験から、その可能性と懸念を考える。
3つの懸念 標準化の失敗を繰り返さないために
重点計画の方向性に対して、筆者は期待半分、懸念半分で見ています。期待についてはすでに述べた通りですが、懸念についても率直に述べます。大きく分けて3つあります。
第1の懸念は、これまでの標準化で積み残した課題を残したまま、AI活用を推進することが解決策になるのか、という点です。
自治体システム標準化は、もともと「共通の基盤の上でシステムを運用し、データ連携を実現する」ことを目標の一つに掲げていました。しかし現実には、標準化の過程でデータ連携の実現は事実上後回しにされ、各システムがバラバラに動く状況は大きく変わっていません。システムの入れ替えを優先するあまり、システム間でデータを受け渡すという本来の目的の一つが見失われてしまったのです。
それだけではありません。これまで積み重ねられてきた複雑な法制度やルールが、そのまま次の段階に引き継がれます。法制度が複雑であれば、それをシステム化しても複雑なシステムにしかなりません。給付や介護など制度の「Rules as Code」推進が打ち出されているのは前向きな姿勢と評価できますが、法制度そのものを整理・簡素化することなく、単に既存の複雑なルールをコードに書き換えるだけでは、住民にとっての手続負担は減りません。
基盤の上にAIを乗せれば万事解決するという発想に、筆者は警戒感を持っています。データが連携されていない状態でAIエージェントを導入しても、AIが参照するデータが断片的であれば、提案の精度も限られます。「AIが前提となった世界で業務の進め方を根底から見直す」というAXの理念は立派ですが、その前提となるデータ連携の基盤が未完成のままでは、根底を見直す以前の問題ではないでしょうか。
第2の懸念は、大きなキーワードで夢を語ることで、これまでの標準化における失敗がうやむやにならないか、という点です。
「AI駆動型国家」「自律型」「提案型」――どの言葉も胸を打ちます。しかし、大きなキーワードが前に出ることで、標準化がなぜうまくいかなかったのかという検証がうやむやになってしまう懸念があります。
振り返ると、標準化も当初は「ベンダーロックインの解消」「システムの共通化による効率向上」といったキーワードで期待を集めました。しかし実際には、移行すること自体が目的になってしまったように見える自治体もあります。システムが新しくなっても業務が変わらなければ、住民には何のメリットも伝わりません。成果が見えないまま「完了」だけが宣言され、次のステップへと進んでいく――。
もし今回も「AI駆動型国家」という大きな旗の下で、現場の実態と期待のギャップが埋められないまま進めば、同じことが繰り返されるでしょう。共通開発基盤が整っても、それを活用して公共SaaSが開発されても、自治体が「何を実現したいのか」を自ら言語化していなければ、導入することが目的化してしまう。標準化の課題検証がうたわれているのはよいことですが、検証の深さよりも次のステップの速さが優先されてしまうのではないかと危惧しています。
第3の懸念は「重点政策一覧」のボリュームと総花的な構成です。
今回の重点計画には「重点政策一覧」という資料が示されています。この政策一覧を読んで、まず圧倒されるのはそのボリュームです。国のAX/DX基盤、自治体のAX/DX基盤、国民の暮らしのAX/DX、経済成長の加速という4本柱に加え、サイバーセキュリティ、デジタル人材、受容性、推進体制という横断的取り組み。さらに、ベース・レジストリ整備、迅速な給付インフラ、医療DX、自動運転、子ども・子育て・教育DX、防災DX、AIソブリンティ、DFFT(信頼性のある自由なデータ流通)……と、枚挙にいとまがありません。
これらが全て重要であることは理解します。しかし、全てを重点政策として掲げるということは、裏を返せば「何に最も集中するか」を絞り込めていないということでもあります。リソースが限られている中で、全てに「重点」を置くことは、重点を置かないのと同じです。
特に自治体の現場では、人口減少と人手不足が深刻化しています。重点計画も「生産年齢人口は2050年までに2025年比でマイナス25%」と試算しています。限られた職員で日常業務をこなしながら、幅広い施策に対応していくことは現実的に困難です。計画の壮大さと、現場のキャパシティーとの間に大きな差があります。
重点を絞り込めていない時点で、今後の統制力に期待が持てないのではないか。全てを盛り込んだ計画は、誰の責任で何を優先するかが不明確になりがちです。「責任あるアジャイルガバナンス」という言葉が掲げられているのは心強いですが、アジャイルな運営を実現するには、むしろ「何をやらないか」を明確にする勇気が必要なのではないでしょうか。
懸念を3つ挙げましたが、決して否定的な立場を取りたいわけではありません。重点計画が「AI駆動型国家」という方向性を打ち出したこと自体は、時代に即した判断だと評価しています。筆者が言いたいのは、方向性は正しくても、そこに至る道筋の検証を怠れば、同じ失敗を繰り返すということです。
「AIに使われる自治体」にならないために、今こそ問うべきこと
筆者が自治体CIO(最高情報責任者)補佐官として現場で大切にしているのは「行政機関として何を実現したいのか」を言語化し、文書化することです。AI駆動型国家を実現するにも、自治体が「自分たちにとってのAXの在り方」を自ら言語化しなければ、誰かが描いたAXの世界に引き込まれるだけです。
具体的には、AIエージェントが行政サービスで使われる際に「なぜその提案がなされたのか」を説明できる仕組みが必要です。住民に「この支援を受けられますよ」と提案する際、その根拠が説明できなければ、AIの提案は「一方的な押し付け」と受け取られかねません。AI駆動型国家が目指すのは、住民一人一人のニーズに合ったサービスを選べる社会であって、AIが勝手に決める社会ではありません。
新しい技術を導入しても、使い方が旧来のままでは期待した変化は起きません。AI駆動型国家への移行は、技術の話であると同時に、行政の在り方そのものを問い直す営みでもあります。重点計画が描く2030年代半ばの未来像に向けて、自治体職員一人一人が「自分たちは何を実現したいのか」を問い続けることが一番大切なのだと、筆者は信じています。
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