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AI活用は「勝つか、学ぶか」 シスコが示すAI時代のB2Bマーケティング戦略

生成AIでB2Bマーケティングはどう変わるのか。シスコCMOキャリー・ペイリン氏に、同社が進める「AI統合型マーケティング」の実践と、日本企業に求められる「勝つか、学ぶか」のマインドセットを聞いた。

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 急速に普及した生成AIやAIエージェントは、B2Bマーケティングの在り方を大きく変えつつある。AIの活用は単なる導入・実験段階を終えて、実用性や具体的成果を問われる段階に入っている。

 Cisco Systems(以下、シスコ)の上級副社長であり最高マーケティング責任者(CMO)を務めるキャリー・ペイリン氏は「AIはお客さまとの関わり方も社内オペレーションも根本から変えようとしています。B2Bマーケティングはカスタマージャーニー全体に関わるからこそ、AIは広告制作などの最適化にとどまらず、営業、顧客体験(CX)、データ基盤をつなぐ中核的な仕組みとして位置付けられます」と語る。

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シスコのキャリー・ペイリン氏(上級副社長、最高マーケティング責任者)

 ただしシスコは、AIにB2Bマーケティングを全面的に依存することを是としているわけではない。「AIに任せる領域」と「人間が担うべき領域」との間には、明確な線引きがある。

 企業にとって顧客からの信頼は極めて重要だ。シスコの場合、業務の生産性向上やCXの改善にAIを活用する一方、人間による意思決定や対面での関係構築、信頼形成の領域には意図的にAIを組み込んでいない。

 「お客さまとの信頼関係は、どこまでいっても人同士で結ばれます。AIがさまざまなシーンに浸透しても、最終的な意思決定を下したり人間関係を構築したりする領域で私たちはAIを意図的に介在させません」

 この役割分担を象徴する取り組みが、シスコの広告キャンペーンだ。AIを活用して新ビジュアルの制作を数週間から数時間に短縮した一方、広告のシナリオやナレーションで使う表現はマーケティングチームが一語一語手作業で書き上げた。制作スピード向上を図りつつも共感を生む言葉選びによって信頼関係を築く、意図的な分担例である。

人が主導してAIが支える「AI統合型マーケティング」

 こうしたシスコの取り組みを表しているのが、「AI統合型マーケティング」というコンセプトだ。従来のデータ主導型マーケティングは、コンテンツ公開後に得られる閲覧数や反響などのデータを分析して、人が次の改善施策を判断していた。

 これに対してAI統合型マーケティングは、AIをコンテンツ制作や運用のプロセス(ワークフロー)そのものに組み込み、Webサイトの最適化やコンテンツのフォーマット変換、問い合わせの一次対応といったミクロな判断・実行は、AIが即時に行う。

 人の役割は膨大なデータやAIの分析を活用した「事前の戦略立案」や、顧客との信頼に関わる重要メッセージの「最終判断・承認」へとシフトする。つまり公開後にデータを見て改善するタイムラグをなくし、日々の即時判断はAIに任せて、人は事前の戦略と信頼構築に集中する点が、従来のデータ主導型マーケティングとの違いだ。

 クラウドベースの作業管理ソリューション「Adobe Workfront」と連携したAIエージェントによるワークフロー変革も、AI統合型マーケティングの下で推進してきた。

 例えば、Webサイトの更新で数日を要していたレビュー作業が、AIエージェントによってわずか数分に短縮した。同様のAIエージェントはすでに2桁のユースケースで稼働しており、さらに展開範囲を拡大する計画だ。

 顧客エンゲージメントや営業連携におけるAI統合の代表例が企業サイト「cisco.com」の刷新だ。リード獲得の初期対応を担う若手担当者の隣に、システムエンジニア相当の専門知識を持ったAIエージェントを配置する施策を進めている。年間1億人以上が訪れる同サイトでは、若手担当者が担っていた一次対応の席にAIエージェントが寄り添うことで、多言語で技術的な質問にも答えられるようになった。

 「人を介さずにAIエージェントがお客さまとやりとりすることは決してありません。あくまで人がやりとりを管理して、AIエージェントは支援する立場です。お客さまの母国語でより深い情報をリアルタイムに提供することで、CXを大きく改善しています」

企業成長とCXを両立させる、データ基盤とブランド戦略

 AIを活用する上で問われるのが、AIの精度を左右するデータの質だ。シスコはデータレイクやGTM(Go-to-Market)関連のテクノロジーにAIを実装して、顧客理解、ターゲティング、営業連携を実現している。

 例えば、cisco.comは年間約1億人の訪問者、59の国、地域別サイト、27言語に対応するデジタル接点を基盤に、AI駆動のパーソナライゼーションやペルソナ別施策を進めている。その成果は数字に表れている。

 「cisco.comを刷新した結果、バウンス率を約25%低下させる一方、ユニーク訪問は10%増加、パーソナライズされたオファーのクリック率は6倍、購入方法に進むクリックは190%増加しました。ページ読み込み時間も33%短縮され、お客さまが必要な情報により早くたどり着けるようになりました。これは単なるWeb改修ではなく、営業部門とマーケティング部門が同じデータ基盤の上で、足並みをそろえて動くための変革の第一歩です」

 数値的な成果だけでなく、顧客からの深い信頼を維持するためのブランド戦略でも、シスコは明確なポリシーを持つ。

 ブランディング会社Interbrandのグローバルブランド価値評価ランキング(Best Global Brands 2025)において、シスコは総合11位※1、「B2Bブランド」として5年連続で首位※2を堅持している。

※1 https://interbrand.com/best-global-brands/global
※2 https://x.com/Cisco/status/1978568564329062459

 同社がB2Bブランドとして支持を集め続ける要因の一つには、ブランドの一貫性と地域適応の綿密なバランスがあるという。ペイリン氏によると、ブランドの「80〜85%はグローバルで一貫性を保ち、15〜20%は地域やローカルに合わせる」という原則を貫いている。企業や製品のロゴに加えて、「AI時代のクリティカル・インフラストラクチャ」といった中核メッセージは不変にしつつ、ローカル市場の文化的・経済的文脈に応じた迅速な最適化をAIで加速させる。この戦略こそが、各国の顧客から高い信頼を獲得する原動力になっている。

日本企業に求められる「勝つか、学ぶか」のAI活用姿勢

 シスコの取り組みは、多くの日本企業にとっても重要な示唆になるだろう。

 ペイリン氏は、製品の品質やセキュリティ、顧客との信頼関係を重視する日本企業の文化に敬意を示した上で、「AI時代には『より速く学び、より速く試す』姿勢がますます求められています」と指摘する。「AIはあまりにも速いスピードで進化して、幅広い分野に浸透しているため、もはや待つ余裕はありません」という言葉は、「石橋をたたいても渡らない」日本企業にとって特に耳を傾けてほしいメッセージだ。

 ただし、決して無謀なAI導入を勧めるものではない。シスコも顧客の信頼を守るために、AIの新機能を導入するまでには本番環境外でのテストを繰り返して、十分に検証できたものだけを運用に移すというアプローチを取っている。

 日本企業に急がれるのは、AI導入を「いかに失敗しないか」と捉えるのではなく、「勝つか、学ぶか」で捉える文化への転換だ。

 「AIで試すことのほとんどは、期待に応えられずうまくいきません。だからこそ、結果を失敗ではなく学びとして受け止める必要があります。完璧な計画を待つのではなく、お客さまの信頼を毀損(きそん)しない範囲で小さく試して、学びを次の改善へつなげるのです。この反復が、AI時代におけるマーケティング競争力の源泉になります」

 シスコとしても、変革に向かう日本企業を後押しする考えだ。

 「私たちがAI開発の最前線で得たさまざまな学びを、日本のお客さまにもいち早く還元します。グローバルな技術力と日本市場ならではの緊密な関係性を融合させて、単に技術を売るのではなく、多くの日本企業とパートナーシップを組み、CXを再定義する取り組みを共に推進します」

 シスコが追求するAI統合型マーケティングとは、マーケティングのプロセスをAIに置き換えることではない。顧客理解を深めて営業をはじめ各部門との連携を強めつつ、ブランド体験を一貫させるためにAIを活用する取り組みだ。その上で顧客との信頼関係を生み出す関係性の構築は人が担う。

 日本企業に求められるのは、慎重さを失うことではなく、慎重さを保ったまま学習速度を上げることだ。「AI時代に得るべきは、勝つか、学ぶかです。失敗はありません」というペイリン氏の言葉を、深く胸に刻んでいただければ幸いだ。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2026年10月2日

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