アシックスはいかにして復活したか──「箱根駅伝着用ゼロ」の屈辱から売上高1兆円を叩き出した「選択と集中」(1/6 ページ)
箱根駅伝でのシューズ着用率0%という屈辱から、初の「売上高1兆円」を目前にするアシックス。ナイキの厚底旋風による歴史的敗北からいかにして立ち直ったのか。廣田康人会長CEOの直轄プロジェクト「C-PROJECT」による最速シューズ開発や、野球用具・体操着からの撤退といった「集中と選択」、オニツカタイガーのラグジュアリー化など、日本発グローバルブランドとして復活を果たしたアシックスの勝因に迫る。
インタビュー部屋のテーブルに並べられた最新シューズを手に取った瞬間、あまりの軽さに目を見張った。片足わずか129グラム(27.0センチ)。指先に載せるとまるで一枚の紙のように軽い。だが力一杯曲げようとしても、びくともしない。靴底に仕込まれたカーボンプレートが、走行時の安定性と効率的な推進をサポートしているという。
ひと昔前までアシックスは「品質はいいが海外勢に押され気味」だと目されていた。それが、いまや世界中のトップランナーと若者に支持されている。
8月14日に発表した2026年12月期連結決算の業績予想では、売上高1兆500億円、営業利益1950億円と過去最高を更新する上方修正をした。「売上高1兆円」を超えて、新たなステージへと躍進を果たしたといえる。
だが、その道のりは決して平坦ではなかった。一時は過去の成功体験に溺れ、ライバルのイノベーションを「一過性のブーム」と見た。その結果、2021年の箱根駅伝では自社シューズの着用率が「まさかの0%」という状況にも直面した。このどん底から、同社はいかにして巻き返したのか。
その背景には、野球道具や学校ウェアビジネスから撤退し、強みを生かせるカテゴリーにフォーカスする「集中と選択」や、開発・研究・マーケティングなど各部門の精鋭を結集し、最速シューズの開発に挑んだ会長直轄の「C-PROJECT」があった──。代表取締役会長の廣田康人氏への単独インタビューから、日本発のグローバルブランドとして世界市場での勝ち筋に迫る。
廣田康人 (ひろた・やすひと)1980年に三菱商事に入社、広報部長を経て、2010年に執行役員総務部長、常務執行役員、関西支社長。2018年にアシックスに顧問として入社、22年に代表取締役CEO兼COO、24年1月から代表取締役会長CEO。69歳。愛知県出身(アイティメディア撮影)
手の中で跳ね返る129グラム 「紙のような靴」が告げる復活
「踏み込んで、飛ぶんです。反発性がものすごい。トップ選手は着地するときに、かかとをつけません。つま先側のここだけで走る。だから、私たち一般ランナーには簡単に履きこなせるシューズではありません」
目の前に置かれたMETASPEED(メタスピード)シリーズの最新モデルを指さしながら、廣田氏は笑顔でそう語る。これこそが、過酷な長距離レースの世界で、アシックスを再び頂点へと押し上げた最新鋭のシューズだ。
同社は歩幅を広げて伸びやかに走るストライド型向けの「SKY」(スカイ)、回転数を上げてピッチで刻む走者向けの「EDGE」(エッジ)、そして2025年に発売した軽量性を追求した「RAY」(レイ)という、走者の個性に合わせたトップモデルを展開している。エリートランナー向けのシューズで、弾むように軽やかに走れるのが特徴だという。価格はどれも約3万円前後で安くはない。
かつてアシックスといえば「技術や品質は高いが、米NIKE(ナイキ)や独adidas(アディダス)に比べるとデザインがどこか泥臭い」「学校の体育着や部活動のイメージが強い」と評されることも少なくなった。しかし、現在の姿は全く異なる。ランニングシーンのみならず、若者やファッション感度の高い層が、アシックスのシューズを履いて街を闊歩(かっぽ)しているという。
2026年12月期連結決算(通期予想)において、アシックスは売上高1兆500億円(前期比29.5%増)、営業利益1950億円(同36.8%増)、当期純利益1200億円という好業績を見込んでいる。中間決算の段階で売上高は5344億円に達し、創業以来初となる「年商1兆円」を突破する勢いだ。税引き後の利益でも1000億円の大台を超え、名実ともに世界のスポーツ用品業界をけん引するメガブランドへと進化を遂げる。
だが、今でこそ絶頂期を迎えているアシックスだが、ほんの数年前までは大きな壁にぶち当たっていた。
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