“常勝軍団”ソフトバンクホークス城島健司CBOに聞く 「現場と経営の分断」を防ぐ組織設計の要点(1/2 ページ)
福岡ソフトバンクホークスは、この30年でパ・リーグ優勝を11回、日本シリーズを10回制覇した常勝軍団だ。強さの背景には、スカウティングから育成、現場の戦略までを一貫した思想で生み出してきた組織設計がある。組織のレガシーを属人的な経験にとどめずナレッジとしてどう継承し、現場と経営を接続しているのか。城島健司チーフベースボールオフィサーに聞いた。
福岡ソフトバンクホークスは、この30年でパ・リーグ優勝を11回、日本シリーズを10回制覇した「常勝軍団」だ。その強さの背景にあるのは、資金力だけではない。プロ野球界に先駆けて4軍制を導入し、スカウティングから育成、監督やコーチ、選手の管理まで、一貫した思想で実行してきた組織設計が礎にある。
そして、この強固な組織づくりによる「常勝」こそが、福岡の地域経済をけん引する原動力にもなっている。福岡県の試算によれば、2025年の日本一に伴う県内への経済波及効果は約466億円にのぼる。事実、球団経営でも、コロナ禍の4期連続赤字から2025年度には売上高460億円の過去最高益を叩き出す、驚異的なV字回復を成し遂げた。記者が調べた限り、12球団でも圧倒的な売上高1位だ。
強いチームを作り、勝ち続けることが、最大のファンエンゲージメント向上になり、自社の強固な経営基盤に直結している。結果的に、地域経済を盛り上げることにつながっているのだ。
この常勝組織を支える思想の根幹をなすのが、王貞治球団会長の存在だ。監督として黄金時代を築いた王会長が組織に刻んできた文化と哲学は、退任後もホークスのDNAとして受け継がれてきた。王会長のもとで築いてきたホークスの野球の歴史と精神を次世代へ継承すべく、同社は1月に独自のプロジェクト「FUKUOKA OH SADAHARU LEGACY PROJECT」を始動した。
この一環として、みずほPayPayドーム福岡に隣接する「王貞治ベースボールミュージアム Supported by 博多グリーンホテル」では、特別展「王貞治とともに築き上げた福岡のホークス 〜受け継がれる王貞治の教え〜」を6月25日まで開催している。
特別展「王貞治とともに築き上げた福岡のホークス 〜受け継がれる王貞治の教え〜」を6月25日まで開催。王会長が福岡で築き上げた指導者・会長としての歴史や理念をスポーツ文化として根付かせ、地域の子どもたちへつなぐことが目的だ(以下クレジットのない写真は撮影:河嶌太郎)
ホークスは、王会長のDNAを組織のアイデンティティとして根付かせることで、強い組織を作ろうとしている。経営陣の意志をどう受け継いでいくかは、プロ球団固有の課題ではなく、一般企業が事業や組織文化を継承することにおいても直面する問題だ。
常勝集団のレガシーを属人的な経験にとどめず「組織の資産」(ナレッジ)としてどう継承し、現場と経営を接続しているのか。同社のCBO(チーフベースボールオフィサー)を務める城島健司氏に聞いた。
城島健司(じょうじま・けんじ) 福岡ソフトバンクホークス CBO(チーフベースボールオフィサー)。1994年にドラフト1位で福岡ダイエーホークス(現ソフトバンクホークス)に入団。正捕手として数々のリーグ優勝、日本一に貢献した。2006年に米シアトル・マリナーズへ移籍し、日本人捕手初のメジャーリーガーとなる。帰国後は阪神タイガースでプレーし、2012年に現役引退。2020年から福岡ソフトバンクホークスで球団会長付特別アドバイザーを務め、2024年11月、現場の知見を経営に生かす新ポスト「CBO」に就任。チーム編成から育成、さらには経営戦略の接続までを統括する。1976年、長崎県生まれ
「組織のサイロ化」防ぐ 現場の知見を資産に変えるCBOの役割
ホークスは「その場かぎりの勝ち」を追うのではなく、再現性のある「常勝」のシステムを構築することで強いチームを作り上げてきた。
この持続可能なサイクルを支え、現場(監督・コーチ・選手)とフロント(球団の運営・管理部門)の意思をつなぐ新たな仕掛けとして、同社は2024年11月に「CBO」というポストを新設した。城島CBOは「私の大きな役割は、ホークスという組織が目指す方向を明確にし、それを現場から編成、育成の担当まで一貫して伝え、つなぐことです」と説明する。
一般的にプロスポーツチームには、特有の構造的課題が存在する。現場で指揮を執る監督やコーチ、そして選手たちは数年単位で入れ替わる一方で、フロントの球団職員は長期にわたり組織に残るという点だ。現場での出来事が監督やコーチ、選手だけで完結してしまい、経営サイドが現場の知見を十分に把握できない状況は、一般企業の開発部門と経営陣の間に生じる分断にも共通している。現場のリアルな情報やノウハウが縦割りの中でうまく接続されないために、各部署が閉じこもってしまい、組織が「サイロ化」してしまうのだ。
ホークスは、この「現場と経営の分断」を防ぐための組織づくりに、早くから取り組んできた。現場とフロントのズレをなくすために、CBOを「両者のつなぎ役」として機能させているのだ。城島CBOは「プロスポーツという組織は、現場とフロントの2軸がきちんと足並みをそろえなければ、持続的な経営として成り立ちません」と語る。現場の日々の動きや監督の思考をフロントに持ち帰って議論し、現在の経営層から未来の経営層へと、ナレッジを伝達することが求められるのだ。
プロスポーツチームにとって、現場の知見を属人的なものにせず、球団の「経営資産」として運用していくことは、チームが持続的に強くあり続けるための絶対条件だ。そうして「常勝システム」を構築し、チームが勝ち続けることで、ファンを熱狂させる。結果的に、地域の発展や経済活性化へと還元されていく理想的な循環が生まれるのだ。
さらに城島CBOは「王会長がいなくなっても、私や(現在の)小久保裕紀監督がいなくなっても、組織の意思が正しく広がっていく強固な体制を作ること。それを見届け、記録し、つないでいくことこそが、フロントを担う私の最大の仕事」と自身の役割を定義する。
「孫正義オーナーの意思」と「王イズム」 組織を支える2つの判断軸
もう一つ、王会長が築き上げたナレッジである「王イズム」の継承にも力を入れている。
城島CBOは「ホークスは、王会長が長年にわたって築いてきた歴史の上に成り立っています。王会長がホークスで積み重ねてきた時間は非常に長く、いまのホークスという組織を語る上で、欠かせない存在です」と語る。
「今の若い選手たちの中には、監督時代の王会長を知らない選手もいます。ですが私は、ホークスのユニフォームを着る以上は、全ての選手が、組織の礎を築いた人間が何をしてきたのか、言わば『王イズム』を知る義務があると思っています。FUKUOKA OH SADAHARU LEGACY PROJECTも、王会長の偉業を知り、組織のアイデンティティを共有するためのものです」
名将と呼ばれる監督であっても、いつかは必ず交代の時期を迎える。一般的な企業経営においても、トップが変わるたびに現場に方針が正しく伝わらずにブレてしまい、過去の積み上げがリセットされてしまう課題に、多くの組織が直面する。ホークスはCBOというポストを置くことで、指導者の交代による方針のブレを抑え、トップの意思を未来へと正しく伝える仕組みを構築しているのだ。
「私たちがチームをつくる上で、孫正義オーナーの意思と王会長の考え方が、いわば2つの大きな軸になります。だからこそ私は『孫オーナーが何を考え、どんな思いで組織を見ているか』理解することを、非常に重視しています。オーナー本人の言葉はもちろん、これまで一緒に仕事をされてきた方々が見てきたオーナーの姿にも、学ぶべきことがあると思っています。組織を預かる立場になってからは、そうした材料をできるだけ集め、意思決定の土台にしています」
孫オーナーの「経営トップとしての意思」と、王会長の「現場の哲学」。この2つを、城島CBOが情報のハブとなることで、組織全体に浸透させているのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜソフトバンクホークスが「映画を作る」のか 興行収入だけではない、これだけの理由
福岡ソフトバンクホークスは、ファンが「ホークス・ロス」を嘆くオフシーズンを盛り上げる施策を強化している。球団の長編ドキュメンタリー『映画 HAWKS SP!RIT ー273日の記憶ー』は「野球を知らなくても面白い」物語設計にしている。興行収入にとどまらない狙いをプロデューサーに聞いた。
王貞治に聞く、野球界「再設計」の真意 大谷ブームの裏で進む「スター頼み」からの改革
野球人口の減少に、「世界の王」こと、王貞治が立ち上がった。野村證券、ビズリーチ、さらには読売新聞グループや朝日新聞、電通と博報堂といった競合企業も手を組み、「日本野球の再設計」に挑む。なぜ今、経済界の大手が王貞治の旗のもとに集うのか。スポーツの枠を超え、地域と経済を巻き込むビジョンの全貌に迫る。
ラミちゃんに聞く「低迷したチームの立て直し方」 野球に学ぶチームビルディングの肝は?
横浜DeNAベイスターズの監督を務めたアレックス・ラミレス氏率いる日本チーム「ジャパンブリーズ」が、中南米の国際大会「カリビアンシリーズ」に参戦する。監督は低迷した際にチームをどのように立て直せばいいのか? ラミちゃんのマネジメント論を聞いた。
「ラミちゃん」が経営と野球監督を兼任 6億人市場・中南米で「新たな挑戦」のワケ
外国人野球選手として初の2000本安打を記録し、横浜DeNAベイスターズの監督を務めたアレックス・ラミレス氏。2025年2月にメキシコで開催される同大会に出場する日本チーム「ジャパンブリーズ」の監督を務める。チームの展望と戦略を聞いた。
私はこうしてプロ野球をクビになった
元プロ野球選手で、『俺たちの「戦力外通告」』著者が、自身の体験をもとに“クビ”になった経緯を語る。
野村克也と江本孟紀が語った「日米“プロ野球ビジネス”の決定的な違い」
故・野村克也と江本孟紀の共著『超一流 プロ野球大論』の中からビジネスや部下の育成に関わる部分を抜粋してお届けする。前編では、日米のプロ野球ビジネスの違いや、地上波での全国放送がなくなってしまった日本のプロ野球ビジネスの課題を語った部分を公開する。
江本孟紀が語る「野村克也の組織マネジメント」
野村克也の卓越した理論と、人間の本質を見抜いた指導法は、野球というスポーツにとどまらず、ビジネスパーソンにとってもリーダーシップや部下育成の方法などの分野で応用可能なものだ。江本孟紀はかつて野村とバッテリーを組み、50年間以上にわたって親交を深めてきた。生前の野村を誰よりも良く知る江本孟紀に、「上司」としての野村がいかなる存在だったかを聞いた。
江本孟紀が語る「指導者・野村克也」の人材育成法
野村克也の卓越した理論と、人間の本質を見抜いた指導法は、野球というスポーツにとどまらず、ビジネスパーソンにとってもリーダーシップや部下育成の方法などの分野で応用可能なものだ。江本孟紀はかつて野村とバッテリーを組み、50年間以上にわたって親交を深めてきた。生前の野村を誰よりも良く知る江本孟紀に、「上司」としての野村がいかなる存在だったかを聞いた。
WBCで日本を優勝に導いた里崎智也が語る「プロ野球ビジネスのオモテとウラ」
第1回のWBCで侍ジャパンを世界一に導いた里崎智也。現役時代から頭脳派捕手として知られ、組織論のスペシャリストでもある里崎は、将来、「千葉ロッテマリーンズの社長になりたい」と公言するほど、ビジネスへの感度が高い。そんな里崎に、スポーツビジネスの観点から、日本のプロ野球ビジネスの「オモテとウラ」を聞いた。



