“常勝軍団”ソフトバンクホークス城島健司CBOに聞く 「現場と経営の分断」を防ぐ組織設計の要点(2/2 ページ)
福岡ソフトバンクホークスは、この30年でパ・リーグ優勝を11回、日本シリーズを10回制覇した常勝軍団だ。強さの背景には、スカウティングから育成、現場の戦略までを一貫した思想で生み出してきた組織設計がある。組織のレガシーを属人的な経験にとどめずナレッジとしてどう継承し、現場と経営を接続しているのか。城島健司チーフベースボールオフィサーに聞いた。
「平均点」はいらない 個の強みを最大化するマネジメント
ホークスは人材のマネジメントにおいても、明確なビジョンを持っている。同社が重視しているのは「どんなチームを目指すのか」「どのような選手を育て、どう戦うのか」という組織の輪郭を言語化することだ。
「ファンがどんな野球を求めているのか、王会長がどんな野球を目指してきたのかを言語化し、それを積み重ねる中で『ホークスといえばこういうチームだ』という像がはっきりしてきました。これは単に伝統ができたという話ではなく、組織の判断基準が明確になったということです。メジャーリーグを見ても、強い組織ほど自分たちの色が明確で、スカウト、育成、現場の戦い方までが一つの戦略でつながっています。ホークスもこの30年で、その状態に近づいてきたと思います」
この「自分たちの色」が明確にできているからこそ、ホークスは「他社では評価が分かれる人材でも、自社の中なら力を発揮できる」といった独自の視点で人材を評価し、獲得につなげることが可能となっているのだ。
1軍から4軍まで擁するピラミッド組織の中で、選手が上のステージに上がるための基準についても、指導者の主観や勝敗といった結果だけに依存していない。打球速度や投球の回転数、動作解析データといった「個人の成長プロセス」を定量的に可視化し、納得感のある指標を示しているという。
同社の人材育成の特徴は、欠点を直して「平均点」の選手を育てるのではなく、個の強みを最大化する適材適所のマネジメントにある。城島CBOは「私たちが大事にしているのは、選手の欠点を並べることではなく、強みをどう伸ばすかです。プロの世界では、全てがそろった選手ばかりを集めることはできないですし、必ずしもそれが最適解とも限りません」と断言する。
だからこそホークスは、何か一つに突出した武器を持つ「スペシャリスト」を見いだすことに注力しているのだ。際立った個性や強みを持つ選手は、チームの勝利に貢献するだけでなく、ファンを熱狂させ、球場に足を運ばせるための強力な資源にもなる。
組織の判断基準が言語化されているからこそ、一貫した組織運営ができる。城島CBOは「スカウト(の担当者)はスペシャリストを見つけ、育成(の担当者)はその長所を伸ばし、現場はそれをどう勝ちにつなげるかを考えます。この一貫性があるからこそ、組織としての再現性が生まれるのです」と話す。
この一連のプロセスこそが、組織的な強さの源泉となっている。城島CBOは「データを見る人間もいれば、技術指導を担うスタッフもいます。そうした情報を持ち寄って『この選手にはどんな育成方法が合うのか』を議論し、できるだけ効率の良い成長曲線を描いていくのです」と説明する。
常に新しい施策を打ち出す「アジャイルな組織文化」
属人的な指導から脱却するため、同社は、最新のデータやテクノロジーを駆使している。
具体的には「ベースボールサイエンス部門」を設け、各軍に帯同して戦術を分析するアナリストや、モーションキャプチャーによる動作解析などを担うR&Dの専門スタッフを配置している。指導体制においても、技術的な指導を行うスキルコーチと、戦略面に特化する打撃コーチを置き、役割を明確に分けている。
城島CBOは「選手の成長を一人のコーチの経験や感覚(といった暗黙知)だけに委ねるのではなく、組織全体で支えることが大切です」と語る。スカウトが選手の背景を把握し、科学班がデータを分析し、現場の指導者がそれを実際の勝負の駆け引きに落とし込む。多角的な情報を持ち寄ることで、組織全体で選手を育成している。
こうした高度なデータ活用や組織編成を支えているのが、ホークスの根底にある「まずやってみる」というアジャイルな組織文化だ。同社は、プロ野球界で、いち早く3軍制や日本初となる4軍制を導入するなど、常に新しい施策を打ち出してきた。
城島CBOは「ホークスの組織の強みは、まずやってみようという文化があることです」と説明する。
「孫正義オーナーは『議題に上がったことならまずやってみなさい』という考え方ですし、王会長も『朝令暮改でいい』とよく話します。つまり昨年うまくいったからといって、今年も同じことを続ける必要はないということです。むしろ、うまくいっているときほど新しいことに挑戦し、もし駄目なら戻せばいいという発想が組織に根付いています」
何かを始める前に失敗の責任を問うのではなく、失敗を「うまくいかない方法が一つ分かった」という成果として捉える。例えば4軍の運用に関しては、実戦を重ねるのではなく、練習による課題解決に特化した組織として、その体制を位置付けているという。また、単に体を動かすだけではなく、ホークスの歴史やカルチャー、ソフトバンクという会社の成り立ちを学ぶ時間も設けた。数年前に4軍を始めた時とは、その運用を大きく変えているという。
城島CBOは「決めたから変えないのではなく、必要ならすぐ変える。それを本気で実行できるのが今のホークスだと思います」と話す。全ての仕組みをあくまで「途中経過」と捉え、変化を恐れずに常に最適解を探り続けているのだ。
「常勝」の組織力が「都市の経済」をも動かす
ホークスの強さは、一つの戦略でつながる組織設計と「王イズム」というナレッジの継承、そして変化を恐れないアジャイルな組織風土によって生み出されている。王会長のDNAを組織のアイデンティティとして継承しながらも、その手段は時代の変化に合わせて柔軟にアップデートしているのだ。
この一貫した組織設計こそが、同社に再現性のある「常勝」をもたらしている。プロスポーツというビジネスにおいて、組織の質はそのままグラウンド上の「商品価値」に直結する。
そして、洗練された“強い組織”が勝ち続けることは、単なるスポーツの熱狂を生むだけにとどまらない。勝つことで顧客満足度を上げ、ひいては福岡を活性化させる経済基盤にもつながっているのだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
なぜソフトバンクホークスが「映画を作る」のか 興行収入だけではない、これだけの理由
福岡ソフトバンクホークスは、ファンが「ホークス・ロス」を嘆くオフシーズンを盛り上げる施策を強化している。球団の長編ドキュメンタリー『映画 HAWKS SP!RIT ー273日の記憶ー』は「野球を知らなくても面白い」物語設計にしている。興行収入にとどまらない狙いをプロデューサーに聞いた。
王貞治に聞く、野球界「再設計」の真意 大谷ブームの裏で進む「スター頼み」からの改革
野球人口の減少に、「世界の王」こと、王貞治が立ち上がった。野村證券、ビズリーチ、さらには読売新聞グループや朝日新聞、電通と博報堂といった競合企業も手を組み、「日本野球の再設計」に挑む。なぜ今、経済界の大手が王貞治の旗のもとに集うのか。スポーツの枠を超え、地域と経済を巻き込むビジョンの全貌に迫る。
ラミちゃんに聞く「低迷したチームの立て直し方」 野球に学ぶチームビルディングの肝は?
横浜DeNAベイスターズの監督を務めたアレックス・ラミレス氏率いる日本チーム「ジャパンブリーズ」が、中南米の国際大会「カリビアンシリーズ」に参戦する。監督は低迷した際にチームをどのように立て直せばいいのか? ラミちゃんのマネジメント論を聞いた。
「ラミちゃん」が経営と野球監督を兼任 6億人市場・中南米で「新たな挑戦」のワケ
外国人野球選手として初の2000本安打を記録し、横浜DeNAベイスターズの監督を務めたアレックス・ラミレス氏。2025年2月にメキシコで開催される同大会に出場する日本チーム「ジャパンブリーズ」の監督を務める。チームの展望と戦略を聞いた。
私はこうしてプロ野球をクビになった
元プロ野球選手で、『俺たちの「戦力外通告」』著者が、自身の体験をもとに“クビ”になった経緯を語る。
野村克也と江本孟紀が語った「日米“プロ野球ビジネス”の決定的な違い」
故・野村克也と江本孟紀の共著『超一流 プロ野球大論』の中からビジネスや部下の育成に関わる部分を抜粋してお届けする。前編では、日米のプロ野球ビジネスの違いや、地上波での全国放送がなくなってしまった日本のプロ野球ビジネスの課題を語った部分を公開する。
江本孟紀が語る「野村克也の組織マネジメント」
野村克也の卓越した理論と、人間の本質を見抜いた指導法は、野球というスポーツにとどまらず、ビジネスパーソンにとってもリーダーシップや部下育成の方法などの分野で応用可能なものだ。江本孟紀はかつて野村とバッテリーを組み、50年間以上にわたって親交を深めてきた。生前の野村を誰よりも良く知る江本孟紀に、「上司」としての野村がいかなる存在だったかを聞いた。
江本孟紀が語る「指導者・野村克也」の人材育成法
野村克也の卓越した理論と、人間の本質を見抜いた指導法は、野球というスポーツにとどまらず、ビジネスパーソンにとってもリーダーシップや部下育成の方法などの分野で応用可能なものだ。江本孟紀はかつて野村とバッテリーを組み、50年間以上にわたって親交を深めてきた。生前の野村を誰よりも良く知る江本孟紀に、「上司」としての野村がいかなる存在だったかを聞いた。
WBCで日本を優勝に導いた里崎智也が語る「プロ野球ビジネスのオモテとウラ」
第1回のWBCで侍ジャパンを世界一に導いた里崎智也。現役時代から頭脳派捕手として知られ、組織論のスペシャリストでもある里崎は、将来、「千葉ロッテマリーンズの社長になりたい」と公言するほど、ビジネスへの感度が高い。そんな里崎に、スポーツビジネスの観点から、日本のプロ野球ビジネスの「オモテとウラ」を聞いた。





