アシックスはいかにして復活したか──「箱根駅伝着用ゼロ」の屈辱から売上高1兆円を叩き出した「選択と集中」(2/2 ページ)
箱根駅伝でのシューズ着用率0%という屈辱から、初の「売上高1兆円」を目前にするアシックス。ナイキの厚底旋風による歴史的敗北からいかにして立ち直ったのか。廣田康人会長CEOの直轄プロジェクト「C-PROJECT」による最速シューズ開発や、野球用具・体操着からの撤退といった「集中と選択」、オニツカタイガーのラグジュアリー化など、日本発グローバルブランドとして復活を果たしたアシックスの勝因に迫る。
バットも体操着もやめる 営業赤字から脱却させた「集中と選択」
廣田氏が果たした構造改革は、最速シューズの開発だけにとどまらない。本質的な勝因は、事業のポートフォリオを研ぎ澄ませた「集中と選択」にある。
「アシックスのモノづくりは、間違いなく世界一でした。しかし売り方、ターゲット設定、収益の管理、そして経営の回し方が下手だったんです」
廣田氏が社長に就任した当時、同社は野球のバットやグローブなどの道具類、競泳水着、学校の体育授業で納品される体操着や定番シューズまで、多種多様なスポーツ用品を手広く手掛けていた。しかし、それらの多くは薄利多売であり、経営リソースを分散させる要因となっていた。
そこで廣田氏は決断した。一番になれる可能性の低い野球の用具事業、水泳ウェア、学校納品用アパレルから次々と撤退。さらに国内市場においては、実質的に利益を生んでいなかった8000円以下の低価格帯シューズの展開を原則として取りやめた。
「自分たちが“圧倒的一番”になれるランニングシューズに、経営資源の全てを集中させる。強くない領域、利益を出せない領域からは潔く手を引くことにしたのです」
この決断により、売上構成はシューズが95%、アパレルが5%という高収益体質へと変貌を遂げた。低価格帯の普及品を減らし、1足2万円前後の高価格帯トップモデルを優先的に生産・展開したことで、売上総利益率は跳ね上がった。
生産体制においても、かつての日本国内生産から韓国・釜山、中国を経て、現在は効率的な人件費と、高い裁縫技術を両立できるベトナムとインドネシアへとシフトした。海外生産比率は98%に達している。
中東情勢の緊張による部材の供給懸念に対しても、年内生産分を早期に確保するサプライチェーンを構築し、隙のない経営基盤を完成させた。
オニツカタイガー分社化したワケ 「決定的な戦略の違い」とは?
アシックスの業績をけん引するもう一つのエンジンが、ラグジュアリーライフスタイルブランドの「オニツカタイガー」だ(オニツカタイガーが“新宿ど真ん中”で描く世界戦略 プラダやロエベと競う「売上1365億円の先」参照)。
6月、アシックスはオニツカタイガー事業の会社分割を発表。2027年1月より100%子会社OT GROUPとして完全に独立させるとした。この組織再編の裏には、競技用スポーツブランドとファッションブランドにおける「決定的な戦略の違い」が存在する。
競技用のアシックスがスポーツ用品店や一般靴店への卸売りを柱とするのに対し、オニツカタイガーは一般の靴店には商品を卸さない。販売チャネルは「自社直営店舗」と「自社ECサイト」のみに限定している。さらに、業界の常識である「セール」(値引き販売)もしない。
「オニツカタイガーは、スポーツ用品のブランドではなく独自のラグジュアリーライフスタイルブランドです。パリのシャンゼリゼ通り、ロンドンのリージェントストリート、バルセロナのグラシア通りといった世界最高峰の目抜き通りに出店し、ブランド価値を高めています。競技用シューズとは意思決定のスピードも売る仕組みも全く異なるため、会社を別にしてブランドを研ぎ澄ます決断をしたのです」
東京・新宿にオープンした旗艦店をはじめ、直営店には連日インバウンド(訪日外国人)が殺到している。購入者は一様に、オニツカタイガーのロゴがプリントされたショッピングバッグを提げて街を歩く。単なるスニーカーではなく「所有するステータス」を持つラグジュアリーブランドとしての地位を確立したのだ。
世界を駆ける「日本発ブランド」 1兆円の先に見据える覇権
「2026年の業績予想は売上高1兆円超えです。しかしそれは、まだ道半ばの通過点です。それよりもうれしいのが、今年の予想では税引き後利益が、目標としている1000億円を超えることです。シューズ中心のメーカーの税引き利益が1000億円を超えるのはかなりのもので、経営体質が良くなった証拠だと思います」
売上高1兆円突破、税引き後利益1000億円の達成は、時間の問題だろう。
廣田氏は「米国のシェアはもっと伸ばせます。中国の健康ブームを取り込めばシェア倍増も可能だと考えています。人口と所得が爆発的に増えるインドや東南アジア市場には、さらなる可能性が広がっています」と意気込む。
テニス市場においては、全仏オープン男子での着用率首位を獲得し、世界最高峰のプレーヤーたちの足を支えている。今後はバレーボールやハンドボールといったインドアスポーツ領域でも、世界トップシェアを獲得していく計画だ。
「かつて海外のホテルに行けば、部屋のテレビはどこも日本の電機メーカー製でした。しかし今、それらは韓国や中国の製品に取って代わられてしまいました。そんな時代だからこそ、私たちは『日本発の匠の技術』を原動力にして、世界の巨人たちに勝ち、世界で一番のグローバルブランドになりたいんです」
アシックスは、どん底から這い上がり「集中と選択」によって俊敏で強いブランドへと生まれ変わった。129グラムの超軽量シューズが切り拓く未来の先に、日本発グローバル企業の新たな黄金期が確実に始まっている。
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