設備点検「目視で10日→AIでほぼ即時」 アナログ現場のAI導入、日立流の実装メソッドにヒントあり(2/2 ページ)
目視で10日かかっていた設備点検を、AIでほぼリアルタイムに変えた事例がある。アナログ現場のAI実装を実現した日立流メソッドとは。
鉄道の架線点検「目視で10日→AIでほぼ即時」
この考え方は現場でどう形になるのか。鉄道システム事業を手掛ける日立レールの中村海香氏(Digital & AI, Head of Strategy & Operations Excellence)が鉄道現場の例を示した。
保守する対象は幅広く、車両や信号システムからレール、踏切まで含む。日立レールは、世界各地の鉄道事業者に統合アセット管理プラットフォーム「HMAX for Rail」を提供している。複数の階層から成り、土台にデータ基盤を置く。その上に、多様な形式のデータを標準化してAI機能を載せる層を重ね、最上層に課題を解くアプリケーションを並べる構造である。
保守現場におけるAI活用の一つが、架線のリアルタイムモニタリングだ。従来は、カメラ映像を目視で確認し、不具合がある箇所を探す作業に約10日を要していた。米NVIDIAとの協創で開発した仕組みでは、走行中の映像をAIでチェックし、架線の異常をほぼリアルタイムで検出して、その位置を赤枠で表示する。既存システムと組み合わせ、作業員に正確な位置を知らせる改修も加え、該当する箇所を探す手間も減った。
AI検証を4カ月で 現場に入り込むエンジニア「FDE」の価値
日立レールの事例で注目すべきは検証期間だ。中村氏は「たったの4カ月で、ここまで検証を完了した」と明かす。速さを生んだのはチーム編成だった。日立レール側は、信号や車両のドメインナレッジを持つエキスパートを固めた。ITシステム側には、組織の枠を超えて米GlobalLogicや日立デジタルサービス、NVIDIAも加わった。「日立レールだけでは、この結果は到底成し遂げられなかった」と中村氏は振り返る。
この背景にあるのが、日立が2016年に立ち上げた事業モデル「Lumada」だ。現場を知る人材とデジタル人材が組んで課題解決に取り組む形を続けてきた。2021年にはデジタルエンジニアリングを担うGlobalLogicをグループに迎え、アジャイルな進め方を取り込んだ。
この体制の延長線として「FDE」(Forward Deployed Engineer:前線配備エンジニア)をサービス化した。FDEは、顧客の現場に入り込んで課題の特定、AI導入の支援などを担う専門人材だ。佐佐木氏は「今FDEがはやっているからそうやった、ということはない」と述べる。
AIエージェント活用、工場が自律的に動く世界へ
人材や組織が持つ強みを組み合わせることで、顧客の課題を解決するという役割分担は、日立のパートナー企業にも浸透している。
NVIDIAの平野一将氏(ロボティクス事業部 事業部長)は、AIをエネルギー、チップ、インフラ、モデル、アプリケーションの5層で捉える「ファイブレイヤーケーキ」を示し、社会に実装されるのは最上層だと述べた。その上で「顧客の課題を定義し、アプリケーション層にサービス展開する部分は、われわれはやらない。そこは日立が提供してくれている」と語った。
日立が見据えるのは、設備や工程を単体で効率化することではない。工場全体、さらに社会インフラをまたいで自律的に動く姿だ。そこで稼働するAIエージェントの数は膨大になるため「マルチエージェントのプラットフォームは、どうしても必要になる」(佐佐木氏)。7月16日に発表した日立とNVIDIAの協業拡大には、この領域を強化する狙いがある。
もちろん勝算はある。日立は鉄道、エネルギー、製造、金融など幅広い領域で、社会インフラ事業を展開している。佐佐木氏は「それぞれの業界で得られた知見を、別の業界の知見と組み合わせて、新しい価値を作っていくことができる」と述べた。中村氏も、小さなユースケースを早く回す進め方は「どの業界でも一緒ではないか」と語り、横展開の可能性に同調した。
こうした考えを具現化するため、日立は9月3日に新サービス「HMAX Data Fabric」「HMAX AI Operations」を発表した。前者は現場に散在するデータや運用ルール、熟練者の経験をAI Readyデータとして提供する基盤だ。既存環境を作り直す必要はなく、現在使うクラウドやオンプレミスでも使える。後者はAIの挙動を監視し、不適切な挙動を抑止する。
現場の知識は人に残り、AIには届かない。その断絶を埋めるため、FDEが登場した。現場では使い物にならなかったAIは、フィジカルAIとして実用レベルに達しつつある。フィジカルAIの社会実装は、個別の実証から、業種をまたいで知識を回す段階へ進もうとしている。
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