2000億円集めた「みんなで大家さん」、集団訴訟も返らぬ出資金 債権回収の鉄則、企業は“他山の石”とせよ:古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)
不動産投資商品「みんなで大家さん」の営業者に、事業許可の取り消しが下された。債権者は集団訴訟に踏み切ったが、出資金の多くが返らぬままだ。「債権」をどう扱えばよいのか。
「裁判に勝つこと」よりも目を向けるべきこと
みんなで大家さんを巡る集団訴訟の原告は、勝った。3件の判決はいずれも契約終了に基づく出資金返還請求で、返還義務そのものは会社側もほぼ争わず、裁判所は「当事者間に争いがない」「請求はいずれも理由がある」として支払いを命じた。
だが判決が確定させたのは「返してもらう権利」にすぎない。みんなで大家さんの事例を“企業の学び”にするなら、企業で債権管理を行うときに本当に問うべきは「裁判に勝つ方法」や「全額回収する方法」ではないといえる。
全東信、ガイナックス……企業間取引でも同じ構図が
同じ構図は、企業間取引でも繰り返されている。直近の例が、2026年7月に破産したクレジットカード決済代行の全東信(大阪市中央区)だ。
この件も、みんなで大家さんの事例と同じく前兆はあった。2024年1月には他人名義で加盟店契約を結んだ疑いで社員が逮捕され、業界内では信用不安が広がっていた。この時に異変を感じた加盟店が、別の事業者に切り替える動きがあれば、負債総額約1151億円にも上る2026年最大級の大型倒産には至らなかっただろう。
もう一つ、時間の長さを示す例がアニメ制作会社ガイナックスだ。2016年、版権使用料約1億円の滞納を巡ってアニメ制作会社カラーが提訴し、翌年に支払いを命じる判決が確定した。だが会社はその後も存続し、破産申し立てに至ったのは2024年5月。判決から7年がたっていた。破産の直接のきっかけは、債権回収会社から債権請求訴訟を起こされたことである。カラーはガイナックスの商標と称号を取得して管理する形に落ち着いたが、現金1億円はついに返ってくることがなかった。
債権回収3つのポイント 企業は“他山の石”とせよ
企業の債権回収に当たって考えるべきことは3つに収束する。
まず「前兆は必ず先に出ている」ということだ。手数料や入金条件の突然の変更、キーパーソンの逮捕、監督官庁による処分――それが出た時点で与信枠を絞ったり、契約関係を見直したりした者が、結果として最も多くの債権を回収しているといえる。
そして「判決は回収を保証しない」ということを認識すべきだ。勝訴判決を持ったまま7年待つことは、実際に起こる。
最後に「現金で戻らないリスク」があるのであれば、あらかじめ現金以外で取れる担保を取るべきである。実物資産がなければ、ガイナックスの事例のような知的財産権も選択肢となる。
みんなで大家さんの事例を債権の回収というテーマで俯瞰(ふかん)すると、不動産業界の外でも発生し得る問題だと分かる。これを機に取引先に対してどのような債権を持っているのか、リスクへの対応方針は万全か、それぞれ棚卸ししてみてはいかがだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
「全東信の破綻」裏側で何が? 飲食店支えた、規制なき「ファクタリング」の功罪
飲食店向け早期決済代行を手掛ける「全東信」が破産した。負債は約1151億円に上り、粉飾決算は約20年続いたという。この裏にある「ファクタリング」という仕組みの功罪に迫る。
信用失墜が企業の「死」――親密取引先の破綻で連鎖倒産した“建機レンタル業界の異端児”
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。
借り入れ依存度9割弱 金融機関の支援で「延命」されていた長野県有数の中小企業がたどった末路
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。
太陽光ベンチャーを倒産に追い込んだ“制度の壁”――急成長企業の未熟さも足かせに
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。
晴れの日を曇らせた着物レンタル「はれのひ」元社長の詐欺と粉飾決算――「成人の日に営業停止」の衝撃
成功には決まったパターンが存在しないが、失敗には『公式』がある。どこにでもある普通の企業はなぜ倒産への道をたどったのだろうか。存続と倒産の分岐点になる「些細な出来事=前兆」にスポットを当て、「企業存続のための教訓」を探る。
関連リンク
- みんなで大家さん
- 時事通信「「みんなで大家さん」事業停止 大阪府と東京都、許可取り消し処分」
- 大阪府 「不動産特定共同事業者に対する処分について」(処分内容及び処分理由)
- 東京都「不動産特定共同事業者に対する行政処分について」
- 都市綜研インベストファンド「大阪府及び東京都による行政処分に関する当社グループの見解」
- Business Insider Japan「「みんなで大家さん」投資トラブル、成田空港の運営会社が用地の契約を終了した背景…「遂行能力を確認できず」」
- 時事通信「みんなで大家さん側が和解申し出 「出資金、分割で全額返還」―集団訴訟、原告側は拒否・大阪地裁」
- 色川法律事務所 コラム「第116回 破産法における否認権」
- e-GOV「破産法」
- 日経新聞電子版「「みんなで大家さん」側に出資金返還命令 大阪地裁、集団訴訟で初」
- ガイナックス「お知らせ」
