ミラーレスの軽快さを生かす万能レンズ――シグマ「30mm F2.8 DN」:交換レンズ百景
シグマ「30mm F2.8 DN」(マイクロフォーサーズ用)を試用した。60ミリ相当の焦点距離は料理から友人家族のポートレート、スナップなど幅広く活用でき、レンズの軽さはミラーレスの軽快さをより生かしてくれる。
最近観光地や人気スポットを歩くと、多くの人がミラーレス一眼を首からさげて歩いている光景を目にする。色とりどりのストラップやお洒落なカメラバッグとコーディネートして、写真ライフを楽しんでいる様子が伝わってくる。
しかしそのレンズに注目してみると、同梱のズームレンズを装着したままの人が多いことに気づかされる。大手量販店で話を聞くと「ほとんどの人はレンズキットを買ってそれだけで満足してしまう。交換レンズを買う人はそんなに多くない」という答えが返ってきた。その話を聞いて非常にもったいないと感じた。レンズ交換式のカメラはさまざまなレンズを使うと、飛躍的に表現の幅が拡がり、レンズの数だけ面白い写真が撮れるのだ。
広大な景色を写し込むワイドレンズや、遠くの被写体を克明に写し出す望遠レンズ、わずかな光でも驚くような描写をみせる高性能レンズなどいろいろなレンズが存在する。レンズはカメラの眼なのだ。多くの人にいろいろな“眼”を楽しんで欲しいと思っている。
そんな“眼”のひとつとして、今回はシグマ「30mm F2.8 DN」を取り上げたい。シグマはDP MerrillシリーズなどFoveonセンサーを採用したカメラで話題のメーカーだ。同社は豊富な交換レンズ群を「Contemporary」「Art」「Sports」の3ラインに現在再編中で、既に存在していたマイクロフォーサーズ/Eマウントシステム向けDNレンズ群もArtラインに組み込まれて先ごろリニューアルを果たした。Artラインとは最高の光学性能を追求して設計された、高水準の再現性を得られるプレミアムなクラスである。
シグマ「30mm F2.8 DN」(マイクロフォーサーズ用)をパナソニック「DMC-GF6」で試してみた。30mm F2.8 DNを手にしてまず思ったのは「軽い!」ということ。重量はわずか140グラムで、これならボディに付けても苦にならない。軽いが外装はメタリックで高級感があり、真ちゅう製バヨネットマウントを採用するなど、シグマらしい真面目な製品作りを感じる。カラーもブラックとシルバーの2色が用意されているので、手持ちのボディとも合わせやすいだろう。
さて使用感だが、マイクロフォーサーズなので35ミリ換算60ミリ相当という焦点距離になる。いわゆる標準レンズよりちょっと長い。標準と中望遠といわれるレンジとの間といった感じだ。どんな被写体を撮りやすいかというと、テーブル上の料理だったり、親しい友人や家族のポートレート、ちょっとした旅行やスナップにも向いている。
レストランで美味しそうな料理を撮る場合はミラーレス一眼の出番。本格的なデジタル一眼レフよりカジュアルに、その場の雰囲気を壊さずに撮影できるからだ。30mm F2.8 DNは最短撮影距離が30センチと、料理にほどよく寄れるのがうれしい。開放F値もF2.8と明るく、薄暗い店内でもフラッシュなしで背景を美しくぼかして撮影できる。開放近くでも合焦ポイントはとてもシャープでキレ味がよい。ボケも自然で美しい印象だ。
35ミリ換算で60ミリ相当という焦点距離は、ちょっと離れた被写体をスナップするのに最適だ。街中を歩いていて、ふと気になったものを自然な距離感で写し出すのにマッチする。下の写真は海辺の公園をフォトウォークしていて、退役した客船と釣り人をすかさずキャプチャした1枚だ。静かで素早いオートフォーカスは気になる瞬間をしっかりとらえてくれた。描写もナチュラルで好感が持てる。
日曜のオフィス街を歩いた。ウィークデーと違いレストランもお休みだ。ガラス越しに30mm F2.8 DNを装着したGF6で店内をスナップ。柔らかな光に包まれるカウンターとグラス類を、30mm F2.8 DNはしっかりとしたコントラストで描写してくれた。付属のフードをガラスに密着させて撮影したのでこういう結果を得られたのだ。
気持ちの良い川辺の草むらでモデルに寝そべってもらってポートレート撮影。実にシャープな写りだ。モデルにグッと寄ったため、手前の草と背景の樹がボケている。自然でいい印象のボケなので、女性を撮る際には喜ばれるに違いない。
続いてモデルに木に登ってもらった。瞳のシャープさ、肌のみずみずしさ、表情の愛くるしさと申し分のない描写だ。特に木漏れ日の真円に近いボケは素晴らしい。7枚の絞り羽根の恩恵が良く出ている部分だ。60ミリという焦点距離は、モデルと話しながらコミュニケーションを取るのに絶妙な長さで、彼女の様々な表情を撮影することができた。これはこのレンズの特長とも言えるだろう。
(編注:本記事では一般的な撮影状態での利用を念頭としているため、人物撮影にレフ版などは利用しておりません)
(モデル:加田穂乃華 オスカープロモーション)
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