第184回 桜と天気と視点の関係:今日から始めるデジカメ撮影術(3/3 ページ)
春といえば桜である。2015年は平年より早く咲くところが多いと予想されており、関東より南は3月22日くらいから開花して、3月末から4月初旬に満開を迎えそうだ。その前にしっかり準備しておこう。
自分の視点を大切に
さてさて、桜を撮る話をしてきたんだけど、桜だけを撮るのが桜写真じゃないわけで、桜をあえて脇役において、俳句でいう季語的な仕事をさせたり、桜を彩りとして使ったり、逆に強い脇役を置くことで桜を際立たせたり、そんな写真もまた桜写真なのである。
最後はそんなちょっと角度を変えた桜写真を撮ってみよう、きれいに撮ることばかり考えず、自分の視点で撮ればいいんだよという話だ。
飛鳥山を歩いていてふと目に付いた聖観音菩薩像。桜の季節に訪れて初めて気が付いた。後ろの桜がこの像にすごく似合うのだ。ああ、このアルカイックスマイルが桜のおかげで神々しいではないか。
その神々しい感じを出したくていろいろ撮ってみたのだが、やはり正面から撮ったものが一番よかったのでそれを。観音像と桜が互いに引き立て合ってくれた。
個人的に気に入っております。
さて飛鳥山は桜の名所なのだが、すぐ脇にある音無渓谷もまた桜並木がきれい。渓谷というだけあって谷間にあり、桜の樹を上から見下ろすアングルで撮れる。
桜の枝って少し上から見るのも良い感じなのだ。単に見下ろしてもつまらないので、背景に水車を入れてみた。
よく見るとピントの合ってる桜と合ってない桜がある。
両目で見ると、各枝の前後関係がわかるので、この花にピントを合わせれば全体にいい感じになるな、と分かるのだけど、いざファインダーを覗くと、片目で見ることになるので枝と枝の距離感、というか前後関係がよく分からなくなるのだ。ファインダーをのぞいたときはどの花も同じ距離にあるように見えても、撮ってみたらけっこう前後の距離があって特定の花にしかピントが合ってないということがけっこうある。
そして撮ってから「あ、思ったとこと違うとこにピントを合わせちゃった」となりやすい。
AFをカメラ任せにすると一番手前の被写体にピントを合わせようとしやすいので、1枚目のようなことになりがち。そこで中央の一番目立つ花にピントを合わせなおし、少しだけ絞って、広い範囲の花にピントが合うように撮り直してみた。
そうすると桜がより目立つ写真になる。
続いて、橋の上から桜の下を通りがかる人を狙ってみた。見下ろすときは桜の下に何を持ってくるかが大事なのだ、ってことを考えながら撮るわけじゃなくて、桜を上からぼーっと見下ろしたとき「あ、桜の下を人が歩いているときの方が日本の桜って感じがするな」「いや、花見客より自転車ですーっと走り抜ける人の方が、日常の中に桜がある感じでいいなあ」というようなことを思いながら撮るわけである。
で、撮ってみたのだがどうも色が邪魔。むしろ強い影を生かしてモノクロにしちゃおうと思ったのである。
そうすると下を通る人の服の色が消え、地面に落ちた桜の影も際立つ。晴れているときはソメイヨシノの花びらもかすかに薄く赤みが差すけれども、曇っていると白に近くなる。
空も白いし桜も白いし、華やかさがないよねえ、今日は桜写真はあきらめようと思うのは早い。曇った日は曇った桜を撮ればいいのだ。
例えばこんなである。桜の白さをぐっと強調してそれで覆ってみた。晴れていたら陰影が強く出ちゃうけど、曇ってたら全体に白くなって、また別の雰囲気が出るのだ。
さらに、同じ桜並木を別の位置から撮ってみた。今度は上に大きく湾曲した枝を、下に下生えをいれて桜を覗き込む感じで。この写真も晴れてたらこのしっとり感は出なかった。
このように同じレンズを付けて同じ桜を撮っても、どこからどう撮るかで全然違う写真になる。写真の面白さはそこにある。
もう1つ例を。
桜の花を手前に置いて電車を撮ってみた。これだと単なる電車の写真に桜がかぶってるだけ。
そこでわざと桜の花の狭い隙間から狙ってみたのがこちら。ふわっと大きくボケた桜の隙間から電車がほんのり見える。
さらに日が経つと桜はどんどん散る。一気に散る。儚く散る。散ったら地べたを楽しむべし。例えば池に積もった桜の花びら。
では面白くないので、じっとタイミングをまち、何10枚も撮った中の1枚がこちら。池の鯉がぱくっと口を開けた瞬間を狙った写真。
これも立派な桜写真である……たぶん。
もし雨が降ってしまったら。雨が降ったら降ったでしっとりしたいい写真になるのである。
ソメイヨシノって花びらが薄くて淡いので、天候や時刻によっていろんな写り方をしてくれる。咲き始めから散るまで、晴れの日から雨の日まで、朝から夜まで、同じソメイヨシノでも違う表情の写真を撮れる。咲いてる時期は短くても、華やかな桜からはかない桜まで、その日その日のコンディションの桜を楽しめるのだからたまらんのです。
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