紀伊國屋書店の電子書籍ストアアプリ「Kinoppy」を試す

書店の雄、紀伊國屋書店がいよいよ電子書籍サービスを本格的に展開し始めた。ここでは、Android版/iOS版がリリースされた同社の電子書籍ストアアプリ「Kinoppy」を紹介する。

» 2011年06月01日 19時00分 公開
[西尾泰三,ITmedia]

 書店の雄、紀伊國屋書店がいよいよ電子書籍サービスを本格的に展開し始めた。

 紀伊國屋書店では電子書籍販売サービス「BookWebPlus」のほか、紙の本を販売するネット通販サービス「BookWeb」を運営しているが、アプリから2つのサービスを透過的に利用できるようにすることで、電子と紙のハイブリッドを推進している。

 同サービスをスマートフォンやタブレット端末から利用可能にするのが電子書籍ストアアプリ「Kinoppy」だ。5月20日にAndroid版が、6月1日にはiOS版がリリースされ、Android MarketあるいはApp Storeで「Kinoppy」や「紀伊國屋」で検索すれば見つけることができる。いずれも無料で、Android版はAndroid 2.2以降を搭載するスマートフォン、またはAndroid 3.0以降を搭載するタブレット端末で動作する。

 書店発の電子書籍ストアアプリであるKinoppyは、電子書籍が一般化していく時代の中で、書店がどのように電子書籍をとらえているのかを考える上で重要なモデルケースといえる。そこで本稿では、Optimus Pad(L-06C)とiPadにインストールしたKinoppyをレビューしていきたい。

Kinoppy起動画面。左がAndroid版、右がiOS版。Android版では会員登録なしで試すことも可能
新規会員登録を選択すると、利用規約に同意した後、個人情報入力画面となる

電子と紙のハイブリット

 すでにご存じの方も多いだろうが、おおよその「電子書籍ストアアプリ」は、「ストア」「ビューワ」「ライブラリ」といった3つの要素が組み合わさったものを指してそう呼ばれる。単純にストアの機能を提供するのではなく、そのストアから購入したコンテンツをアプリを切り替えることなく読むことができ、かつ、本棚(ライブラリ)のように並べて管理できるようになっている。

 そうした意味では、Kinoppyも紛れもない電子書籍ストアアプリだ。ただし、購入できるのはBookWebPlusで販売されている電子書籍だけではない。紙の本を販売するネット通販サービス「BookWeb」もアプリから注文できる。欲しいと思っている書籍が電子書籍で提供されていないような場合でも、紙の本を入手できるようにしているというわけだ。

 現状ではBookWebPlusのラインアップはまだ十分とはいえない数なので、紙の本でうまく補完しているともいえる。ちなみに、BookWebでは和書/洋書合わせて約1000万タイトルを扱っているので(ただしサービススタート時は和書のみの取り扱いとしている)、探している本がない、というストレスを抱くことにはならないだろう。

Kinoppyのライブラリ(本棚)画面。本や棚の並び順を変える、棚の名前を付ける、などの機能が用意されている。アプリのインストール直後はサンプルが1冊用意されているが、ストアで購入した電子・紙の書籍がここに並ぶ。紙版は表示しない設定も可能。また、端末の持ち方によって縦横2つのレイアウトが切り替わる

 ここで察しの良い方であれば、「紙の本を注文できるとしても、それがアプリのライブラリに並ばないなら残念」とでもコメントするかもしれない。実際、電子書籍ストアアプリのライブラリには、そのアプリ内で購入した電子書籍だけ並ぶというのが一般的だ。しかし、ユーザーは「本」というパッケージを一覧したいのであり、そこに電子と紙の線引きは必要としていない。Kinoppyはさすがは書店が作ったアプリというべきか、そうした線引きの意味のなさを理解しており、購入した「本」をしっかりと陳列してくれる。

 Kinoppyでは、ライブラリに並んだ書籍の情報(書誌情報とサムネイル画像)が自動的にサーバに同期される。これにより、同じ会員IDであれば、複数の端末で本棚の状態を同じ状態にすることができる。ただし、自動同期では電子書籍そのものが同期されるわけではないため、閲覧時には再ダウンロードする必要がある。再ダウンロードができるのは、その時点で販売しているタイトルのみだ。電子だから絶版はないと考えたいところだが、さまざまな事情で販売は終了する可能性がある、と示唆しているようで興味深い。

 Kinoppyの開発はインフォシティ。電子書籍ビューワについて少し詳しい方なら、インフォシティから提供されているビューワアプリ「bREADER」をご存じかもしれない。ビューワとしての完成度も高く、愛用者も少なくないbREADERのノウハウは、ビューワ部分に色濃く継承されている。

 サンプルの電子書籍を開いてみたところ、Android版では縦方向に固定された表示に切り替わった。iPadでiOS版を試したところ、横持ち時は見開き表示となったため、Androidタブレットへの最適化がまだということだろう。なお、文字組みは縦横の切り替えが可能となっている。

サンプルの電子書籍を開いたところ。Android版では縦方向に固定された表示となった(写真=左)/画面右上のボタンから幾つかの機能を呼び出せる(写真=中央)/目次/マークを表示したところ。ここから該当のページに飛ぶこともできる(写真=左)

 活字ものの一部書籍では文字サイズの変更も可能だ。コンテンツを表示した状態でピンチイン/ピンチアウトで表示サイズを変更し、右上のフォント調整ボタンを押すと、そのフォントサイズでページ内の文字表示が最適化される。

ピンチイン/ピンチアウトで任意のサイズにした後、フォント調整ボタンを押すことで文字サイズを変更できる。上の画像では、フォントサイズ100%の状態から、50%に変更している
文字組は縦/横に切り替え可能。右の画面はビューワの設定画面。「追加コンテンツの検出」はもしかして……
iOS版では、横持ちで見開き表示となる
ストアの画面。左がAndroid版、右がiOS版

iOS版には多少制限も

 ここで、Android版とiOS版のKinoppyで、唯一大きく異なる仕様について説明しておく。これはAppleのルールに基づくもので、簡単に言えば「Android版Kinoppyで購入した電子書籍をiOS版Kinoppyに再ダウンロードできない」というものだ。具体的な挙動としては以下のようなものとなるので、Android端末とiPhone/iPadを使い分けているような方は注意したい。

  • iOS版Kinoppyで購入した電子書籍はAndroid版Kinoppyで再ダウンロード可能
  • Android版Kinoppyで購入した電子書籍はiOS版Kinoppyで再ダウンロード不可

 また、現時点では海外在住のユーザーはKinoppyで電子書籍を購入できない。これは、海外への販売許諾を出版社から得られないためだが、電子書籍が本来持つ利点をうまく生かせていない部分だ。ただし、ほかの電子書籍ストアでも実際には同様の状況なのかもしれない。

 まとめると、電子書籍ストアアプリのリリースでは後発組といえる紀伊國屋書店だが、紙と電子のハイブリッドをユーザーが満足できるレベルで実現したというのは高く評価できる。後はリアルの店舗をどのようにこのシステムに加えるかが見どころだが、現時点では同社のポイントサービスである「紀伊國屋ポイント」が横断的に付与/利用可能になっているほかは、リアルの店舗との統合感は薄い。こうした部分に紀伊國屋書店がどのような解を示していくのかは今後注目だ。

 今回は紹介しなかったストア部分などにも、紀伊國屋書店ならではの仕組みが隠されているかもしれない。そうした部分については稿を改めて紹介したい。

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