それいけ! デジコレ探索部「第5回 幕府と戦った江戸の出版人」まだ見ぬお宝を求めて

日本の貴重なデジタル化資料を公開している国立国会図書館デジタルコレクション(デジコレ)。本連載では、デジコレで見ることができるデジタル化資料の中からコレは! というものを探し出し、紹介していきます。

» 2014年07月25日 17時00分 公開
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 優れた作家は注目されますが、版元(出版人)が注目されることはあまりないように感じます。

そういえばそうね。あまり気にしたことなかったわ。

 前回の最後で予告しましたが、今日は江戸時代にベストセラーを多数輩出した超スゴ腕の版元と、その出版物を紹介、あ、いや、発見しました!

(言い直した……)えーと、蔦屋重三郎って人だっけ?

 そうです。重三郎は江戸・吉原の生まれで、1774年ごろから「耕書堂」の名で吉原大門の前に店を開き、『吉原細見』の販売を始めます。

 『吉原細見』というのは、吉原遊郭のいわばガイドブックのようなもので、遊郭内の簡単な地図や、妓楼(遊女のいる店のこと)、各妓楼の遊女の名前、料金などが書かれています。

『吉原さいけん』(1779年)
これを見ながらお目当ての店に足を運ぶわけです

 デジコレには、重三郎よりも前に『吉原細見』を出版していた鱗形屋孫兵衛のものもあります。鱗形屋孫兵衛は、浄瑠璃本や菱川師宣の絵本、赤本・青本・黒本・黄表紙などを出版した江戸きっての地本問屋(地本とは江戸時代に出版されていた大衆本のこと、草双紙・滑稽本・人情本・狂歌本などがある)です。鱗形屋孫兵衛バージョンの『吉原細見』も見てみましょう。

『元文五年吉原細見』(1740年)
重三郎のものに比べ、絵や図を多用していて豪華な印象を受けます
当時の様子が目に浮かぶようですね

 重三郎が版元として有名になったのは、戯作者・朋誠堂喜三二(ほうせんどう きさんじ)の黄表紙を出版してからだと思われます。喜三二は藩に所属し、幕府や他の藩との交渉という仕事を行うという、二足のわらじを履きながらの制作をしていました。ヒット作を次々と生み出した喜三二ですが、松平定信を批判する内容の黄表紙『文武二道万石通』が問題となったことで黄表紙からは身を引き、もっぱら狂歌作りに熱を入れるようになります。

恋川春町も松平定信の批判をして追い詰められていたわよね。本を作るのにも命がけね。

 松平定信の行った「寛政の改革」には、出版統制的な内容も含まれていましたからね。「幕府を批判する内容はだめ」「風紀を乱す内容はだめ」とは、どこかで目にしたような文句ですね。もちろん読者にとっても幕府万歳な本ばかり買うわけもないでしょうから、黄表紙のような刺激的な本を求めるようになったのでしょう。

 重三郎はその後、東洲斎写楽・喜多川歌麿らの浮世絵、山東京伝の黄表紙や洒落本などを出版し、江戸の文化を牽引していきます。

『画本虫ゑらみ』(1788年)喜多川歌麿が描き、狂歌師の宿屋飯盛が文をしたためた作品
狂歌と浮世絵を組み合わせた作品は当時の流行だった
『仕懸文庫』(1791年)山東京伝の作品
江戸・深川仲町の岡場所(吉原の近くの、非公認の遊里のこと、新宿や品川など)での風俗を描いている

 幕府の圧政に屈せず、さまざまなジャンルの本を出版し続けた彼らの活動があったおかげで、今の日本の出版文化が存在するのではないでしょうか。

 それでは今回はこの辺で。また次回お会いしましょう!

(出典=国立国会図書館)

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