プロデュース能力がある漫画家の寿命が来たとき、業界がポッキリ折れる:徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.3(3/3 ページ)
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集。第3幕。数年後の漫画業界と、そこでの新たな編集者像について両者の議論はヒートアップしていく。
今の日本では、面白いかどうか分からない漫画を読む時間と金がない(赤松)
竹熊 Jコミで、赤松さんの新作を連載する計画はないんですか。
赤松 ありません。講談社に育ててもらった以上は、講談社を裏切るようなことはしたくない。村上龍さんがG2010を立ち上げましたけど、あれは新作ですから、出版社として面白いわけがない。私が嫌がられないのは絶版本を扱っているからです。私は出版社とは絶対仲良くしたい。出版社は新人を育てるのに必要だから。ただ、その能力が低くなってることが問題ではないかと思うのです。
―― 新人養成機関としての出版社がこの先維持されていくためには何が必要ですか。維持できないとすれば、出版社には悲観的な未来しかないということになりますよね。
赤松 問題はですね、読者に暇とか余裕とか金とかがなくなってるということです。もう今の日本では、面白いかどうか分からない漫画を読む時間と金がないんですよ。それがあるとしたら、海外です。海外の人なら、面白いかどうか分からない漫画を読む時間があるかもしれない。海外進出するしか手はないです。それで私は、翻訳して中国の人がクリックできるようにしたんです。
竹熊 それは大賛成です。一方で、例えば課金制であったとしても、一回の課金をそれこそ10円とかにして、全世界規模で配信することで広く薄く集めるみたいな考え方はありますよね。
赤松 ただ、新人の作品に課金するとしたら面白い保証がないと買われないんです。でも無料だったら別ですよ。まあ試しにちょっと読んでみるかというのはある。試せない課金というのはもうダメです。
竹熊 ということは、広告モデルの無料コンテンツとして、全世界的に展開できれば可能性はあると。その場合、新人の作品を出すというのも将来的にはあり得るかなと。
赤松 あと有名な作品を広告モデルで出して、その巻末に別の新人の作品を載せる。これならついでに読む可能性はありますね。
竹熊 ありますね。さっき言った、アメコミのように会社がキャラクターの権利を持った漫画制作会社みたいなのができるとします。そこにプロデューサーがいて、新人を含む複数の作家を集めて登録して。例えばバットマンとかスーパーマンとか、誰が描いてるか分からないじゃないですか。でもキャラクターは超有名という。そういう方式はどうですか。
赤松 アニメと同じ考え方ですよね。しかし大ヒットしても個人が一獲千金ができないのは、ちょっと夢が無いなぁ。
竹熊 僕がどうしてこういうことを言うかといいますと、僕は漫画家養成という触れ込みの大学で教師をやってるじゃないですか。そうすると、作家になることは才能的に厳しくても、アシスタントとしてだったら使える学生がたくさんいるわけですよ。なので、アメコミのような漫画制作工房みたいなのがたくさんできて、その中で人気作品とか人気キャラクターのスタッフとして働いてもらうということをよく考えるんです。学生たちの就職先イメージとして。
赤松 学生さんが納得しますか? それじゃアニメーターみたいなもんじゃないですか。
竹熊 簡単に納得しないでしょうが、4年生になって、せっかく漫画のスキルを学んでいても、それでデビューして作家になることは別問題だと気づいてがくぜんとする学生は多いです。でも4年間漫画しか学んでいないのでつぶしが利かない。現状のアシスタントは「弟子」であって作家になるための修行という意味が強いですけど、これをもっと「職業」のニュアンスを強めればいいと僕は思うんですよ。アニメーターと同じだとおっしゃいましたけど、漫画ならアニメの世界でアニメーターをやるよりはまだ仕事にできる可能性がありますよ。40歳や50歳になって、アシスタントをしているベテラン(プロアシ)っているじゃないですか。イエス小池さんとかさ。「浮浪雲」のチーフアシスタントを30数年されて、背景のプロとしてもっと胸を張っていいと思うんですけど、そこで胸を張れないで「私はまだまだ半人前でして」と謙遜(けんそん)してしまうのが、漫画界が抱える問題の1つだと思うんですよ。
赤松 ただね、そういうシステムも作品が売れないと維持できないですよ。だからそのシステムでモノを考えるとマズいのでは。映画も同じですけど、いろいろなシステムを考えて、才能ある監督とか、美人女優とか用意しても、当たらなかったら本当にどうしようもない。一番いいのが漫画ですよ。市場規模は大きいし、初期投資は要らないし、何回でも失敗できる。それを崩すのはまずいんじゃないですか。
竹熊 赤松さんのお話を聞いていると、売れる売れないは運みたいなもので、ノウハウというか方法論は他人に継承できないですよね。
赤松 そうです。仕方ないじゃないですか。赤松メソッドというのは確立されてますけど、うちのアシスタントたちがこれを使って売れるかというと、全然分からないですし。
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