これからは年収600万円や800万円の漫画家が増えるかも:徹底討論 竹熊健太郎×赤松健 Vol.4(3/3 ページ)
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集の第4幕。赤松理論にある「楽しみ代」という概念とは?
弁護士や税理士のように、漫画家が個人で編集者を雇うようになる(竹熊)
竹熊 僕はどうしても編集者の立場で話してしまうんですが、死ぬまでには新しい漫画の状況をこの目で見てみたいというのがあるんですよ。僕の最終目標は、その状況を作ってから死にたい。Jコミは新しい状況の1つとして注目したし、僕がJコミをやるとしたら、新人や新作をそのシステムで出して、それで漫画界が活性化するということを考えちゃうんだけど、今日話を聞いてみると、赤松さんはそうでなかった。
赤松 考えてないですね。実際、リスクは徹底的に避けるほうなので。
竹熊 でも、リスクを取らないとリターンもないんじゃないですか。
赤松 私の結論は、面白いかどうか、そして売れるかどうかも分からない新人を、育てる手間は掛けていられないということです。竹熊さんはそれこそが面白いんじゃないかとおっしゃるかもしれませんが、それはロマンチストな考えなんですよ。
竹熊 編集者は全員そうですよ。有望な新人に会ったときに一番の幸せを感じられるんです。
赤松 編集者はそうかもしれませんが、売れなかった漫画家さんにも人生があるじゃないですか。編集者は作家を何人かつぶしてようやく一人前、みたいな風潮もあって。でも、その売れなかった漫画家はどうするんだと。漫画家の立場から言うと、編集者が手掛けるのであれば100%の確率で売ってほしいんですよ。漫画家の人たちはみんな、売れなかったら俺たちばっかり切られて、何で俺の担当編集は何本も打ち切られてるのにいまだに社員のままなんだって思ってますよ。
―― それは竹熊さんがおっしゃった、フリー編集者が増えることで解決されるんじゃないですか。これまでは漫画家が編集者を選ぶことはできなかったわけじゃないですか。フリーの編集者が増えればそれが改善されていくかもしれない。
竹熊 フリー編集者がエージェントになるんですよ。弁護士とか税理士みたいに、漫画家が編集者を雇うんです。5年後くらいにはそうなってると思うんですけどね。
―― それは社員編集者だと実現できないですよね。あと社員編集者は異動がありますけど、フリーの人にはない。
竹熊 「のだめカンタービレ」がうまくいった理由の1つが、担当の三河さんがフリー編集者で、立ち上げから最終回まで8年間ずっと担当できたのが大きいと思うんです。あと、1980年代にジャンプからあれだけヒット作が出た背景には、編集者の異動が少なかったからじゃないかと。デビュー前から担当して、20年間近く一人の作家をずっと担当という人もいましたからね。赤松さんはこれまで、この担当編集はすごい、といった人はいました?
赤松 新人のころはすごいなと感じましたけど、2〜3年経つと、あの人なら多分こう言うはず、というのが少し分かってくるじゃないですか。そうしたら、理論上は自分で直せるようになるはずですよね。
―― 逆に言えば、その2〜3年は必要ってことですよね。
赤松 そうです。マガジンの場合、配属された新人編集者は先輩編集者に付くんですよ。その先輩編集者が、作家に対してここ直してよ、ところでお前どう思う? って質問して、漫画家と編集者が一緒になってその若手編集者を育てていくんですよ。それでさえ何年か掛かるわけですし、新人漫画家を育てるにも何年もかかる。もうそんな暇はないです。今は即戦力の漫画家を持ってきて何とか売ってという状況ですから、育てている暇はないです。
両氏の考えは漫画界に対する危機感や現状認識という点では合致するところもあるものの、議論の多くは平行線をたどり、価値観の違いが明白なものになりつつある。4日連続でお届けしてきた両氏の対談も次回で終幕を迎える。果たしてこの議論はどのように収束するのか。明日の最終回にご期待いただきたい。
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