Jコミ、違法に流通している漫画を“浄化”する禁断の計画を発動:正式オープン
絶版漫画に広告を付加して無料配信しているJコミは正式オープンに合わせ、ユーザーから違法に流通している漫画ファイルのアップロードを受け付け、それらを合法化して再配布する仕掛けを発表した。
いよいよJコミが正式オープン――違法流通する漫画ファイルを駆逐へ
絶版漫画に広告を付加して無料配信しているJコミは、4月12日のJコミ正式オープンに合わせ、ユーザーから違法に流通している漫画ファイルのアップロードを受け付け、それらを合法化して再配布する仕掛けを発表した。
Jコミは、「魔法先生ネギま!」や「ラブひな」などの作品で知られる漫画家の赤松健氏が立ち上げたもので、著作権者の許諾を得た絶版漫画を広告入りのPDFファイルなどの形で無償公開し、その広告料を作者に還元するというモデルが、絶版作品を有する作者と無償で作品を読みたいユーザーの双方から高い評価を受けた。
これまでは正式オープンに向けたトライアルが続けられており、「ラブひな」のほか、新條まゆさんの「放課後ウエディング」や梶研吾氏(原作)/樹崎聖氏(作画)の「交通事故鑑定人・環倫一郎」、石岡ショウエイ氏の「ベルモンド Le VisiteuR」などをこのモデルで無償公開、数十万円から多いときには100万円を超える広告料を作者に還元している。
今回、Jコミの正式オープンに合わせて、いよいよ“本丸”ともいえる違法流通ファイルにメスを入れることになる。赤松氏は以前行われた竹熊健太郎氏との対談で、Jコミを始めたきっかけの半分は違法流通対策であると語っている。絶版漫画は、出版社が訴える権利を有していないため、著作権者である著者自身の親告がなければ違法に流通しているものを止める手だてがない。Jコミはここに切り込んだ格好だ。
「絶版違法マンガファイル浄化計画」と名付けられたこの計画は、一見トリッキーな方法によって実現される。というのも、違法に流通しているファイル(多くの場合はZIPやRARでアーカイブされたもの)をユーザーから提供してもらうことが起点となっているためだ。Jコミ側では、ユーザーから提供を受けたこれらのファイルを絶版作品かどうか判別、絶版作品であれば、その著作権者にコンタクトを取り、広告付きで再配布する許諾を得るための交渉を行う。許諾が取れたファイルはこの段階で晴れて「浄化」(合法化)され、作者には広告収入が、読者には気持ちよく絶版漫画を読める環境ができあがることになる。
ユーザーから違法なファイルの提供を受けるという手法がトリッキーに映るが、実際には幾重にもセーフティネットが張られている。例えば、自分の作品がアップロードされたことを著作権者が前もって知るすべはなく、かつ、アップロードされたファイルは著作権者の許諾が得られるまで公開されないため、親告罪の訴えは起こせず(著作権法違反は親告罪)、また、Jコミが発信者情報を開示する義務もないことを複数の弁護士からの共通見解として得ていることが明記されている。これはつまり、違法に流通していた漫画ファイルを所有しており、それをJコミにアップロードしても、ユーザーがその責任を問われることはないということだ。
また、著作権者との折り合いが付かず仮にJコミが民事で訴えられるようなことがあったとしても、絶版書の市場価値がゼロであるがゆえに、損害賠償のみなし額も算出できない(つまり訴訟の意義が薄い)ことも織り込み済みだ。
この方法では根本的な違法ファイルの根絶につながらないと考える方もいるだろうが、無償だが違法のファイルと無償で合法のファイルが同じような入手難度で用意されているのなら、ユーザーは後者を選ぶというのは、AppleがiTunes Storeで半ば証明している。違法に流通する漫画ファイルを撲滅するため、多少のリスクを承知の上で踏み込んだJコミに、著作権者はどのような反応を示すのだろうか。
関連記事
- 漫画はどこへ向かうのか
現役漫画家である赤松健氏と、編集家の竹熊健太郎氏による出版界と漫画界の未来予想は、危機感や現状認識という点では合致する部分もあるものの、両氏の価値観の違いが如実に表れた対談となった。果たして対談はどのように収束するのか。5日間に渡ってお届けしてきた本特集もいよいよ終幕。 - これからは年収600万円や800万円の漫画家が増えるかも
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集の第4幕。赤松理論にある「楽しみ代」という概念とは? - プロデュース能力がある漫画家の寿命が来たとき、業界がポッキリ折れる
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――電子出版時代における業界の変動を現役漫画家である赤松健氏と「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏がそれぞれの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集。第3幕。数年後の漫画業界と、そこでの新たな編集者像について両者の議論はヒートアップしていく。 - 雑誌でなくコミックスで利益を得る構造は、オイルショックがきっかけ
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――週刊連載を抱える現役漫画家である赤松健氏と、「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏。電子出版時代における業界の変動を漫画家と編集家という異なる2つの視点で解き明かす5日間連続掲載の対談特集。第2幕。 - 電子出版時代における漫画編集者のあるべき姿
「業界はこのまま行けば数年で崩壊する」――週刊連載を抱える現役漫画家である赤松健氏と、「サルまん」などで知られる編集家の竹熊健太郎氏。電子出版時代における業界の変動を漫画家と編集家という異なる2つの視点で解き明かす。 - Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(前編)
漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題だ。無料で公開された「ラブひな」は、1週間あまりで累計170万ダウンロードを突破。なぜ今この取り組みが注目されているのか? 赤松健氏へのロングインタビューを敢行した。 - Jコミで扉を開けた男“漫画屋”赤松健――その現在、過去、未来(後編)
漫画家の赤松健氏が主宰する広告入り漫画ファイル配信サイト「Jコミ」が話題だ。なぜ今この取り組みが注目されているのか? 赤松健氏へのロングインタビュー後編では、漫画文化に対する同氏の考え、そして彼を突き動かすものは何なのかをさらに掘り下げてゆく。 - 作家から見た「絶版」
電子書籍「AiRtwo」に掲載されている、赤松健さんと桜坂洋さんの対談の一部を公開。絶版や版面権、編集権について、作家の視点で語る。 - 「萌えやツンデレを輸出すべし」――パロ同人誌を合法化、国際化するには
Jコミで、二次創作同人誌の合法化も試みようとしている赤松健さん。「萌えやツンデレを輸出していくべき」と話すが、課題も多い。 - 「作者がもうからないと未来につながらない」
「作者がもうからないと未来につながらない」という赤松健さんの考え方は「珍しがられる」という。電子出版の現在と未来を作家同士で語る対談連載、最終回。 - Jコミ、絶版の読み切りマンガで52万5000円の広告料を作者へ
Jコミは、β2テストとして無料配布している新條まゆさんの「放課後ウエディング」について、新條さんに渡る広告料金が52万5000円となったことを公表した。 - 「ラブひな」無料配信スタート パンツや“ヤバゲー”の広告入り
赤松健さんが、「ラブひな」全巻の広告入り無料配信をスタート。広告のクリック率などを調べ、本格的な漫画無料配信事業につなげる。 - ジャンプ作品など無料公開へ 赤松健「Jコミ」、集英社や講談社も協力
「漫画文化を絶やさないようにしたい」――赤松健さんの「Jコミ」は、ジャンプ作品や新條まゆさんの作品も無料配信し、収益を公開する計画。正式オープンは来年1月の予定だ。 - 「電子書籍は文字文化の革命」――作家・村上龍さんが電子書籍会社設立
「変化は外からやってくるものだと思われがちだが、自分たちで作り出せると考えている」――作家の村上龍さんが電子書籍制作・販売会社「G2010」を立ち上げた。電子書籍はグーテンベルク以来の文字文化の革命だという村上さんの思いとは。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.