エンタープライズ:インタビュー 2002/08/23 21:09:00 更新


Interview:「社長昇格はアドビの大手企業向け体制強化の表れ」と石井新社長

Acrobat PDFが官公庁や大手企業で幅広い採用が進む中、アドビシステムズは、副社長だった石井幹氏を社長に昇格させる人事を7月に発表した。4月に買収を完了したアクセリオの人的リソースをベースにプロフェッショナルサービス部門を立ち上げたり、6月にはエンタープライズ向けの営業部門を組織するなど、体制強化を図っている。

これまで代表取締役副社長として実質的にアドビシステムズの日本法人を率いてきた石井幹氏が7月15日付けで社長に昇格した。e-Japan構想の下、電子化を進める官公庁だけでなく、大手製造業や金融などでも、同社のAcrobat PDF(Protable Document Format)を採用する動きが広がっている。4月にはアクセリオの買収を完了し、ワークフローやXML技術も手に入れ、e-ペーパーからe-フォーム、そしてプロセスの自動化へとソリューションを拡大している。電子政府やエンタープライズ市場に照準を合わせる石井新社長に話を聞いた。

ZDNet 7月15日に社長に昇格したばかりですが、いかがですか。

石井 まだ、日が浅いせいもありますし、これまでも代表権のある副社長として働いてきたせいか、少し肩が重いといったところでしょうか(笑い)。

 これまで、米国本社が形の上で、社長を置いてくれていたのは、いわば親心からでした。ただし、Acrobatや(買収によって手に入れた)Accelioを核としたe-ペーパー(電子ドキュメント)ソリューションを大手の企業に対して売り込むとなると、アドビのコミットメントを分かりやすくし、これまで以上に日本法人の責任の所在を明確にしておく必要がありました。

ZDNet e-ペーパー事業がグラフィックソフトウェア事業を上回るまで成長する可能性はありますか。

石井 ご存じのようにアドビは、プリンタ技術とそれを生かすグラフィックソフトウェア製品を事業の柱として成長してきました。時代と共にメディアは紙からデジタル、そしてインターネット/Webへと多様化してきましたが、その背景にあったのは、常に「コミュニケーション」でした。

 いつでも、どこでも、どんなデバイスからでも電子ドキュメントにアクセスできるようにするAcrobatを核とするe-ペーパーは、アドビの事業の戦略的な柱であり、大きな可能性があります。

 ただ、グラフィックソフトウェア事業からシフトしてしまうというわけではありません。

ZDNet 4月に買収したアクセリオの統合について教えてください。

石井 ワークフローエンジンやXML技術を持つアクセリオの買収を4月に完了しました。日本では5月にはオフィス統合を図り、彼らの経験を生かしてもらうべく、プロフェッショナルサービス部門を立ち上げました。この部門では、アクセリオが得意としていたドキュメント管理やワークフロー、あるいは電子政府向けのソリューションを提供しています。

 また、6月からはエンタープライズ向けの営業部門を組織し、大手製造や金融に対する体制も同時に強化しています。

ZDNet このところ、アドビは電子政府向けソリューションにかなり力を入れていますね。

石井 大量に紙を使っていて、それをなくしたがっていて、われわれのソリューションに対するニーズがあるからです。ほかに、金融や法律事務所などもそうです。

 彼らがドキュメントを電子化する際に求めていることは、「既存の紙をそのまま電子化できるか?」「紙で行っていたプロセスを電子化できるか?」、そして「紙と電子化されたドキュメントがシームレスに共存できるか?」です。この3番目が極めて重視されているところで、われわれのAcrobat PDFが評価されている差別化のポイントでもあります。

 Acrobatによるソリューションでは、紙との親和性が高く、印刷すれば、元の書式に忠実な書類となります。「ファイリングは紙で」というところは、まだまだあります。HTMLではダメなんです。

ZDNet 電子申請となると無償ダウンロードできるAcrobat Readerでは機能が足りませんよね。米国では、電子申請用の特別なバージョンも配布されていましたが。

石井 無償のAcrobat Readerは、既に4億本もダウンロードされていますが、閲覧や印刷はできても、保存や修正ができません。申請となると、例えば原本を手元に残す必要があるのですが、そうしたユーザーすべてに製品版のAcrobatを購入してもらうわけにはいきません。

 そこでアドビでは、次期バージョンの5.1で保存、電子署名、あるいは注釈など、電子申請に必要とされる機能を無償のAcrobat Readerに組み込むことを発表しています。年内には日本語版もリリースされる予定です。

ZDNet アクセリオ買収に伴う製品間の連携強化、つまりAcrobatとAccelioの関係はどうなるのでしょうか。

石井 これまでにもAcrobatでe-フォーム機能の強化を図ってきましたが、さまざまなチャレンジがありました。e-フォームやワークフロー、そして新しい技術であるXMLでノウハウを持つアクセリオの買収に伴い、そうした部分がうまく補完されると考えています。

 Acrobat PDFの役割は、やはり「人が目にする」というところにあります。いつでも、どこでも、どんなデバイスでも、フロントエンドとして、ドキュメントにアクセスできるようにする機能です。

 これに対して、Accelioはバックエンドを支えます。官公庁や企業で行われている承認プロセスなどを自動化していくものです。AccelioではAcrobat PDFがしっかりとサポートされていて、そのプロセス上をPDFによるドキュメントも流れていきます。

ZDNet e-ペーパー事業の売り上げ比率はどの程度まで高まっているのですか。

石井 5年前は「その他」に過ぎなかったのですが、約25パーセントになっています。グラフィックソフトウェア事業が残りの75パーセントです。北米も日本も変わりません。

ZDNet グラフィックソフトウェアと肩を並べるのは、いつになりそうですか。

石井 PDFは暗号化や電子署名による改ざん防止など、高いセキュリティが評価をされています。現在、ベリサインやエントラストのPKIソリューションに対応したプラグインを同梱していますが、インタフェースをオープンにしていますので、日立製作所や三菱電機のソリューションとも組み合わせられます。

 社内でも、「いつ追い抜くのか」といった議論はあるのですが、これについては読めないですね(笑い)。われわれの想像を超えて、普及が広がっているからです。

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[聞き手:浅井英二,ITmedia]