エンタープライズ:インタビュー 2002/12/05 21:40:00 更新


PDFを武器に企業システム市場へ切り込むアドビシステムズ──チゼンCEOに聞く

米アドビシステムズのブルース・チゼン社長兼CEOに、企業向けドキュメント製品に関する戦略について聞いた。

 米アドビシステムズは10月に、ERPやCRM、文書管理システムといった、企業のバックエンドシステムと連携して、カスタマイズされたPDFファイルや帳票を自動生成するサーバソフトウェア「Adobe Document Server」「Adobe Document Server for Reader Extensions」を発表するなど、企業のITシステム向け製品に注力してきている。米アドビシステムズの社長兼CEOを務めるブルース・チゼン氏に、企業向け製品戦略について聞いた。


ZDNet アドビが先般発表した「Adobe Document Server」のようなドキュメント分野については、米マイクロソフトも「XDocs」を発表するなど、市場の集まっていると思います。この分野に関するアドビの戦略を教えてください。

チゼン まずアドビ全体の戦略からお話しすることが重要と思います。アドビはこの20年間に渡って、人々がよりよくコミュニケーションできるような製品作りという方針のもとで、業界標準に基づいたアプリケーションの開発/提供を行ってきました。

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米アドビシステムズ、社長兼CEOのブルース・チゼン氏

 80年代末には「Postscript」を開発し、コンピュータ画面上で作成したものを、どのようなプリンターでも信頼のおける状態で出力することが可能にしました。Postscriptに基づいて「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」多くの製品を開発しています。

 そしていまや「Adobe PDF」によって、全く新しいプラットフォームを構築しました。「Acrobat Reader」のコピーははおよそ5億本に迫っています。ReaderはWindows、Mac、UNIX、Linuxと、ほとんどのデスクトップOSで提供しているうえ、さらにPDA、Pocket PCやPalm、Symbian OS向けにも提供しています。Postscriptのように、PDFはオープンな標準です。世界の多くの政府機関において標準として使われており、日本でも47都道府県で使われています。

 アドビが提供してきたアプリケーションによって、人々はドキュメントを簡単に生成できるようになり、共同作業も簡単に行えるようになりました。また、ドキュメントを中心にビジネスプロセス、ビジネスインテリジェンスを構築していくことができます。人々はPDFをドキュメントのコンテナ、XMLを入れ込むことができるようなコンテナとして利用できるのです。

ZDNet XDocsについてはどのようにお考えですか?

チゼン XDocsに関するコメントは、まだ実際に出てきていないので、なかなか難しいですね。PDFはすでに10年来の歴史がありますが、XDocsはまだまだ開発途上にあると思います。企業のファイアウォールの内側であれば、XDocsは良いソリューションのように見えます。また信頼性とか、情報のプレゼンテーションということをそれほど気にしていない企業で使うのであれば、有効かもしれません。あるいは、特定の市場に関してはXDocsがぴったりフィットするかもしれません。

 一方、ドキュメントを多く使う業界、医薬品業界や金融業界、また法律関係、製造業、政府関係では、PDFが非常に重要な媒体になっています。考えてみてください。例えば行政が、市民がどのOSを使わなければならないとか、どのコンピュータを使わなければならないとか、アプリケーションも含めて決める立場にはないでしょう? Acrobat/PDFは、複数のOSをサポートし、そのうえReaderは無償で提供しているのです。これがアドビならではの価値の提案です。

 アドビは「ネットワークパブリッシング」に関してもコミットメントしています。これは人々がどのようなデバイスを使っていても、情報/ドキュメントを信頼できる形で作成・管理・配信できるというものです。PDFは情報を運び、提示するためのコンテナです。また、PDFはXMLに関してもコンテナの役目を果たします。単に閲覧やプリントアウトするだけではありません。

ZDNet Document Server発表後、米国での市場の反応はどんなものでしたか?

チゼン 非常にエキサイティングな製品だという反応を得ました(笑)。企業サイドは出荷を待ちかねているという状況です。アドビがアクセンチュアとより積極的なパートナーシップを組むことや、SAPもアドビをパートナーとして選んだということも、現在、そして将来に渡ってDocument Serverの価値が認められていることの表れと言えるでしょう。

ZDNet 日本市場向けの製品/マーケティング戦略について教えてください。

チゼン Document Serverに関しては、予定通りなら2003年初めには、日本市場に対応した製品をアナウンスできると思います。日本市場はアドビにとって世界第2位の市場であり、単に日本語化するだけでなく、日本市場固有の部分についての対応も行っていきます。日本の顧客に対しては、パートナー関係にある大手システムプロバイダと協力して、トータルなソリューションとして提供していきます。ドキュメント製品関連では、アドビの従来のパートナーだけでなく、(2月に買収した)アクセリオ(旧社名:ジェットフォーム)の日本のパートナーも活用していきます。



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[聞き手:佐々木千之,ITmedia]