エンタープライズ:インタビュー 2003/06/10 15:39:00 更新


Interview:e-ペーパー事業が急成長――アドビのチゼンCEOに聞く

昨年来、積極的に企業向けの電子ドキュメント関連製品をリリースしているアドビシステムズ。チゼンCEOに「e-ペーパー戦略」について尋ねた。

 アドビシステムズは、従来のコア事業である「Adobe GoLive!」などクリエイティブプロフェッショナル向け製品事業、「Adobe Premiere」などデジタルイメージング/デジタルビデオ向け製品事業に加え、2002年秋の「Adobe Document Server」発表以後、電子的にドキュメントを扱えるようにするためのe-ペーパー製品事業を3つ目の柱として位置づけている。アクセリオの買収によって得たフォーム関連製品群、さらにe-ペーパー戦略のインフラとも言える「Acrobat」および「Reader」の新バージョンを発表するなど、e-ペーパー事業への積極的な製品展開も目立っている。

 5月15日に行われたAcrobat 6.0日本語版の発表会で、米Adobe Systemsのブルース・チゼンCEOは、PDFについて「XMLは電子的なワークフローに最適な世界標準だが、人間が直接XMLをやりとりするのは困難だ。そこでPDFの出番になる。PDFはどんな環境でも使うことができ、XMLの可能性を最大限に引き出すことができる」などと述べて、XMLとPDFの相性の良さをアピール。加えてe-ペーパー事業の巨大なビジネスチャンスがあると話した。

 ZDNetではチゼンCEOにインタビューする機会を得て、アドビのe-ペーパー戦略について聞いた。


ZDNet 主にエンタープライズ市場をターゲットにした、XMLイニシアティブを発表されましたが、これはアドビにとってどのような価値があるのでしょうか。

米Adobe Systemsのブルース・チゼンCEO

米Adobe Systemsのブルース・チゼンCEO


チゼン アドビのソリューションの特徴としては、XMLをPDFの中に取り込み、あるいはPDFからXMLを抽出することができるということで、それが重要です。

 これによって、XMLまたはWebサービスを使って、紙の書類をバックオフィスアプリケーションに統合することが簡単にできるようになります。バックオフィスの方からデータを取り出して電子ドキュメントに反映することができますし、逆の流れで、データを基幹システム側に持って行くということも容易に行えるようになるのですです。

ZDNet 11月にお話を伺ったときには、米国でDocument Serverは発表直後で、米国のユーザーの反応は上々で、出荷が待ち望まれているということでした。製品の出荷が始まった今はどんな状況でしょうか。

チゼン アドビのサーバ製品をお使いいただいている事例は非常に数多くあります。主なものをいくつか挙げますと、FDA(米食品医薬品局)、英国の環境関係の省庁、ドイツ内務省、またオーストラリアのクイーンズランド州のある部局、米国アラバマ州の病院などです。金額に直しますと、第1四半期(2002年12月〜2003年2月)に総額で1500万ドル分の契約がありました。

 日本でも文部科学省が「Adobe Document Server for Reader Extensions」を採用して、これまで書面のみで行ってきた申請や届出の手続きを、PDFを使ってインターネット経由で行えるようにする「文部科学省オンライン申請システム」サービスを3月28日に開始しています。

 こうした事例の共通項としては、さまざまなデバイスの上でビジネスをしなくてはいけない、という要件があります。自分たちの組織内だけでなく、外とのつながりが重要なこともポイントとして挙げられます。

ZDNet Document Serverに続いて「Adobe Form Designer 5.0」「Adobe Form Client 5.0」などを発表し、さらに5月15日には「Acrobat 6.0」を発表するなど、昨年暮れ以来、e-ペーパー関連製品の攻勢が目立ちますね。

チゼン 確かにアドビは間違いなく、ドキュメントとドキュメントワークフローの製品群に力を入れていますが、だからといって、アドビの従来の製品から離れようとしているわけではありません。同時にクリエイティブプロフェッショナル向け製品、デジタルイメージング/デジタルビデオ向け製品も、やはり成長させていきたいと考えています。

 例えていうなら、ホンダがオートバイだけでなく、自動車も作って評価されているのと同じだと思います。ホンダでもオートバイより自動車が主流になっているように、ドキュメント関連製品が、ほかの事業領域よりも大きなビジネスになっていく可能性はありますが。

ZDNet 現在のアドビの事業の3つの柱である、クリエイティブプロフェッショナル向け製品、デジタルイメージング向け製品、e-ペーパー関連製品ですが、現在のところそれぞれどのくらいの売り上げになっているのでしょう。

チゼン 第2四半期(2003年3月〜5月)において、3つの製品群はそれぞれおよそ3分の1ずつを占めています。伸び率でもっとも大きかったのはe-ペーパー関連製品の売り上げでした。

ZDNet Acrobat 6.0の発表会では、4月8日に協業を発表したアクセスの荒川社長も登場しましたが、こうした提携の狙いはなんでしょう。

チゼン 目的はAdobe Readerをできるだけ多くのNetFrontブラウザーに採用してもらい、多くのプラットフォームでAdobe Readerが利用できるようにしたいということです。アクセスはそういう意味でアドビにとって非常に重要なパートナーです。このことは、アドビがほかの地域でほかのパートナーと協業しないということではありませんが、アクセスの場合は、日本だけでなく世界中で大きな影響力を持っており、ソニーをはじめとして超有名な企業がアクセスの顧客です。これが重要な鍵なのです。

ZDNet アドビの一連のサーバ向け製品のほとんどはWindowsないしSolaris向けで、Linuxのサポートが遅れているようですが、Linuxへの対応についてはどうですか。またHP-UXなどはサポートしないのでしょうか。

チゼン 長期的にはWindows、Linux、UNIX、UNIXは特にSolarisですが、この3つのプラットフォームに力を入れていく、という方針は決まっています。可能性としてはHP-UXやAIXのサポートも考えていますが、まだ正式決定には至っていません。

ZDNet Windows Server 2003のサポートはいつ頃になりますか。

チゼン まだ正式なサポートは発表していません。お客様のご要望次第だ、とだけお答えしておきます。



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[聞き手:佐々木千之,ITmedia]