エンタープライズ:ニュース 2003/06/14 17:32:00 更新


基調講演:シュリンクラップに代わる3つのソフトウェアモデルを説くマクニーリーCEO

カリフォルニア州サンフランシスコのJavaOneカンファレンスは最終日を迎え、マクニーリーCEOが基調講演に登場した。「単なる思い付き」というテーマだったが、今後のソフトウェアのあるべき姿と同社の戦略を巧妙に印象付けた。

 米国時間6月13日、カリフォルニア州サンフランシスコで開催中の「2003 JavaOne Conference in San Francisco」は最終日を迎え、午前の基調講演にSun Microsystemsの会長兼社長兼CEO、スコット・マクニーリー氏が登場した。「単なる思い付き」(Not so deep thoughts)と題されたものの、今後のソフトウェアのあるべき姿と同社の戦略を巧妙に印象付けるのに成功している。

 マクニーリー氏は、基調講演の冒頭、サーバサイドにおける目覚しいJavaの成功、そしてHewlett-PackardおよびDellと合意に達したデスクトップPCへのJava VMプリインストールなど、Javaの快進撃を改めて紹介した。

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かつての毒舌は影を潜めたがJavaへの自信をみなぎらせるマクニーリー氏


 確かに、Javaに対する過大な期待、インターネット/通信バブルの消失、そして長引く経済の低迷と、同社を取り巻く環境は依然として厳しいが、パートナーや競合他社、カスタマーやデベロッパーによるJavaのコミュニティーは広がり続けている。

「Javaで儲かる? われわれは55億ドルのキャッシュを保有している。JavaはSunにとって大成功だ。しかし、われわれはJava言語そのもので儲けているのではない。Javaを利用して儲けているのだ」(マクニーリー氏)

 マクニーリーをはじめ、Sunの幹部らがいつも指摘するように、Javaは「市場」でもあり、オープンな標準に基づいた互換性のある製品がSun以外から提供され、サービスに対する顧客の需要もおう盛だ。

 振り返ってみれば、Sunは21年前の創業以来一貫して、Solarisをはじめとする同社製品のインタフェースを公開し、そのオープン化を推進してきた。つまり、これがSunの流儀なのだ。

 「英語を話すのに税金を取られるなんて……」とマクニーリー氏は口癖のように話す。

もはやシュリンクラップの時代ではない

 Javaはネットワークコンピューティングの「申し子」として生まれ、セキュリティ機能が初めから組み込まれていたことから、携帯電話やデータセンターで新しい市場を創造している。

 マクニーリー氏は、新しい市場で見られる変革が、今後のソフトウェアのあるべき姿を示しているとする。それらは、「プラスチック・ラップト・ソフトウェア」(Plastic Wrapped Software)、「ラック・ラップト・ソフトウェア」(Rack Wrapped Software)、そして「ギフト・ラップト・ソフトウェア」(Gift Wrapped Software)であり、「もはやシュリンクラップの時代ではない」とマクニーリー氏。

 プラスチック・ラップト・ソフトウェアの典型は、携帯電話だ。筐体がプラスチックで出来ていることから、彼はそう呼ぶのだが、Javaを搭載した携帯電話はアプリケーションをダウンロードでき、加入者は常に新しい機能を手に入れることができる。

 コンピュータの世界ではハードウェアとソフトウェアが分かれていることが当たり前だが、それ以外の例えば、家電の世界では全く逆だ。Javaは、システムソフトとアプライアンスの統合を初めて可能にしたといっていい。

 「エンジンとボディーを別々に買うクルマがあるだろうか? われわれはMicro-“soft”ではない、Sun Micro-“systems”だ」(マクニーリー氏)

 Sunでチーフエンジニアを務めるロブ・ジンゲル氏も、フォードのSUVが、タイヤの問題から死亡事故を数多く引き起こした例を引き合いに出し、システムアプローチが極めて重要だとした。JavaOne最終日にブリーフィングの機会を得た彼は、同社製品の技術的なアーキテクチャと方向性に責任を持ち、Javaの生みの親、ジェームズ・ゴスリング氏と同じフェローの称号を与えられている。

 「フォードとファイアストーンは、どちらも責任を押し付けあった。クルマでさえ、こうしたことが起こるのに、コンピュータ業界ではシステムとして動作することを何ら保証をしていない」とジンゲル氏。同社は、単体のハードウェアやソフトウェアではなく、「システム」として提供するというアプローチに真剣に取り組んでいて、その際にもセキュリティが不可欠だという。

 こうしたソフトウェアの統合は、データセンターでも進んでいる。マクニーリー氏は、プロビジョニング(使用可能になるまでの準備作業)が自動化され、薄型のラックマウントサーバやブレードサーバをラックに挿入していくだけで、サービスが開始できる世界をラック・ラップト・ソフトウェアと呼ぶ。

 Sunは、Solarisに続き、Sun ONEミドルウェア群も統合可能な状態で四半期ごとにリリースすることを明らかにしている。「Project Orion」として今年2月に発表された構想だ。昨年秋にSun Network Conferenceで正式発表された「N1」構想が重要な役割を果たすことは言うまでもない。

 Sunは、1990年代終わりに電話システムのような堅牢さを目指し、DialToneならぬ「WebTone」と呼ぶ構想を立ち上げている。同社とパートナーが協力し、あらかじめ構成され、テスト済みのソリューションとして顧客に納入しようというもので、ラック・ラップト・ソフトウェアには同社の一貫した考え方が反映されている。

「例えばファイルシステムをダウンロードし、サーバを1台1台セットアップしていくなんて世界はもう終わりだ」とマクニーリー氏。

Webサービスを背景に第3のモデル台頭

 データセンターの運用効率改善を突き詰めていくと、ソフトウェアはサービスとして購入することになる。電話のサービスと同じだ。マクニーリー氏は、これを「ギフト・ラップト・ソフトウェア」と呼ぶ。

 マクニーリー氏は、Yahoo!、AOL、eBay、そして、salesforce.comらが、企業向けにインスタントメッセージングやCRMの機能をWebサービスによってラッピングして提供している例を挙げる。企業は、こうしたWebサービスを既存のシステムに組み込むことによって、新規にハードウェアやソフトウェアを購入することなく、機能を追加することができる。

 基調講演のステージには、salesforce.comのマーク・ベニオフCEOが引き上げられ、6月4日に正式発表したばかりの「sforce」をデモした。sforceでは、同社のCRM機能がWebサービス経由で提供されるため、顧客らはsalesforceシステムのデータにアクセスし、それをバックオフィスの例えば、経理システムなどと統合することができるという。デベロッパーらは、Sun ONE Studioのほか、Visual Studio .NET、Borland JBuilder、あるいはBEA WebLogic Workshopを利用できるという。

 かつてOracleでインターネット戦略を立案し、Network Computerを推進したベニオフ氏らしく、salesforce.comはサービスとして提供され、月額使用料金を徴収する形態を取っている。Webサービスの普及しだいでは、彼らがギフト・ラップト・ソフトウェアという潮流をリードすることになるかもしれない。

 ベニオフ氏によれば、認証やデータ管理、文書管理、カレンダー/スケジュールのようなサービスを利用できるようになるほか、sforce上で対応製品を提供し、AvantGoやBlue Martini、Business Objects、Cape ClearといったISVとのパートナーシップを通じ、幅広い機能をWebサービスとして提供していくという。

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sforceをデモするマーク・ベニオフCEO(左)


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[浅井英二,ITmedia]