エンタープライズ:ニュース 2003/09/24 01:12:00 更新

Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
第6回 ISVへの取材「日本システム技術」──今のOracleはわれわれにとって魅力がない

日本の文教分野でヒットする学校事務統合支援システム「GAKUEN」は、DB2とWebSphereを基盤として開発されている。デファクトともいえるOracleではなく、なぜ彼らはDB2を選択したのか?

 1994年、日本システム技術(JAST)が学校事務統合支援システム「GAKUEN」をリリースした際、そのバックエンドで動くデータベースはOracleだけだった。それが今ではDB2がメインで、Oracleはもう一つの選択肢だ。なぜ彼らはそういう決断をしたのだろう?

 「GAKUEN」は、受託開発が中心だった同社が初めて発売するパッケージアプリケーションだった。立ち上がりは手堅く小規模大学をメインターゲットに定め、PC版からスタート。第一印象を良いものにするために、ミドルウェアはよく知られた業界標準製品で固めた。それがデータベースではOracleだった。

 受託開発で培った豊富な学務ノウハウを凝縮したこの製品は評判が良く、1996年には日本アイ・ビー・エムが販売パートナーになることを申し出る。日本システム技術 GAKUEN事業部の横尾寿浩事業部長によると、文教分野を担当するIBMの営業部隊は、「GAKUEN」のバックエンドで動くDBがOracleであることに異議を唱えることはなかったという。

 導入実績が100校を超えたころ、JASTは大規模な私立大学を対象に、入試、教務、就職といった学務系システムに加えて、経理や人気、管財といった法人系システムを加えたUNIX版の「REVOLUTION」をリリースした。ここで表面化した問題が、Oracleの価格だった。これまで使っていたのはOracle Workgroup Serverであったため、それほど気にならなかったのだが、UNIX版になるとライセンス価格、保守料金とともに跳ね上がる。それでも大きな大学はそのコストを負担してくれた。しかし、販売代理店からは「データベースが高すぎて売りにくい」という声が寄せられるようになったという。

 事態が決定的になったのは、3階層システムの新アーキテクチャで、「UNIVERSAL PASSPORT」という学生向けの情報サービスシステムを開発したときだった。これは履修登録や休校情報など学生と大学がインターネットを通じてやりとりするというもの。その性質上、エンドユーザーが無制限のライセンスを選択せざるを得ないのだが、その場合、OracleのWebアプリケーションサーバは保守料金が1000万円となっていた。

 大学というビジネスフィールドは、少子化の折から競争が熾烈化している。良いサービスは学生獲得のため不可欠なのだが、そのための原資は少なくなっている。「そんなコストは認められない」と言下に否定された。JASTはOracle Application Serverでの開発を進めていたものの、急きょIBMのWebSphere Application Serverに白羽の矢を立て、その性能を比較した。

 実際に比べてみると、性能が高いのはWebSphere Application Serverだった。テストしたのは履修登録機能だったが、5倍ぐらい高速だったという。

 「3階層システムでパフォーマンスが問題になるのはWebアプリケーションサーバ。ここでの性能差は大きかった」と横尾氏。

 価格もCPU単位のライセンス体系なので低く抑えられる。横尾氏の概算では1/3程度だったという。そうなると、データベースはDB2の方が親和性が高い。念のためにOracleとDB2で機能比較表を作成してみたが、予想していたほどには差はなかった。Oracleのライセンスを購入している新日鉄ソリューションズを通じて、価格交渉をしたものの値引きの申し出は5%程度。横尾氏は「これまでも実績があるのに、これぐらいのものなのか」と思ったという。

 そのようにして、DB2とWebSphereの組み合わせによる「UNIVERSAL PASSPORT」が誕生した。OracleとWebSphereという組み合わせも用意したが、メインは前者だった。そしてこれが「前例」となって、「REVOLUTION」の3階層システム化の際にもDB2 + WebSphereの組み合わせが主流になった。

 日本の文教分野に「GAKUEN」というパッケージアプリケーションありという評判は、米国のIBM本社の耳にも届くところとなった。売れるアプリケーションを持つ企業とはしっかりした絆を結んでおきたいと考えた同社は、2002年、4月JASTと戦略的業務提携を締結する。世界で十数社、日本では2社しかない特別なパートナーシップである。IBMは、大和研究所などのテクニカルリソースを挙げてWebSphere、DB2に関する技術情報をJASTに提供し、3年間で70億円という販売目標にコミットするから、製品開発にWebSphere、DB2を積極的に採用してほしいというのがその主な内容だ。この戦略的業務提携によって、両社の関係はがっちりと固まった。

 横尾氏がWebSphere、DB2をメインのミドルェアに据える決断をしたとき、約60名の同社のGUKUEN担当SEは若干抵抗を示したという。しかし、経営の見地からその必然性を説くと彼らも納得、素直にWebSphere、DB2の技術を習得したそうだ。つまり、全員がOracleエンジニアからのコンバートだ。協力会社も然りだった。

 「有能なエンジニアはやる気になれば何でもマスターできる器用さを有しており、Oracleエンジニアの数が多いといっても全員が開発のエキスパートというわけではない。技術者が確保しやすいといった視点で、データベースを選択するのは違うと思う」(横尾氏)

 ただ、同氏は何が何でもアンチOracleというわけではなく、評価している点もある。それはサポート力だ。しかし、それは日本オラクルのそれではない。Oracleを販売する有力システムインテグレータのサポート力だ。同社自身、新日鉄ソリューションズのテクニカルサポートには十分満足しており、何の不平不満もないという。

 その一方で、IBM製品に関しては日本IBMに聞くしかない。レスポンスが遅い上に縦割り組織になっていて、DB2チームはDB2のことしか知らず、WebSphereチームはWebSphereのことしか知らない。JASTは戦略的業務提携により優遇されているほうだが、IBMのサポートのまずさは常々実感する問題らしい。

 要するに、日本オラクルの社員よりOracleを熟知しているサポート担当者が、有力システムインテグレータに数多く存在する現実が、今のOracle優位を支えている要因だと、同氏は分析しているのである。

 とはいうものの、同社にとってもはやOracleは魅力あるデータベースではないようだ。同氏は明言する。

 「Oracle9i RAC(Real Application Clusters)に代表される拡張性訴求はGAKUENシリーズにとっては意味がないし、これだけ日本の経済環境、IT環境が変化しているのにもかかわらず、アプリケーションを意識した価格体系になっていない。特に、高額な保守料金は、当社の顧客にとって理解できないコスト。顧客が購入するのはアプリケーションであって、ミドルウェアではない」

関連記事
▼第5回 SIへの取材「新日鉄ソリューションズ」──Oracle技術の深度で差別化を図る
▼第4回 IHVへの取材「HP」──Oracleは自社製品のようなもの
▼第3回 調査会社への取材「ITR」──“OracleかDB2か”を尋ねる企業が増えている
▼第2回 調査会社への取材「IDC Japan」──オラクルの敵はIBMではなくマイクロソフト
▼第1回 再燃するデータベース業界のシェア争い
▼Interview:「市場の拡大こそ重要」と日本オラクルの新宅社長、Oracle 10gが起爆剤?
▼Oracle vs. DB2――仁義なき戦い データベース編
▼データベース市場首位の座を守ったオラクル
▼IBM,2001年度の世界データベース管理ソフト市場で首位に
▼オラクルが「IBMのデータベース首位」に異論

[吉田育代,ITmedia]