IDG インタビュー
2004/05/17 20:38 更新

Interview:
SAPのソフトウェア戦略、CRM、そして謙虚な姿勢について語るプラットナー氏

昨年、CEOをカガーマン氏に引き継いだプラットナー氏だが、今もSAPのビジネスに深くかかわっているという。SAPPHIRE '04 New Orleansカンファレンスで話を聞いた。

 昨年5月、ハッソー・プラットナー氏はSAPの共同CEO兼執行委員会会長の座から退いた。プラットナー氏は現在、同社の監督委員会(米国企業の取締役会に当たる独企業の組織)の会長となったが、今でもSAP社内で業務に積極的に取り組んでいる。プラットナー氏は「SAPPHIRE '04 New Orleans」カンファレンスでComputerworldの取材に応じ、現在の任務や同社を取り巻く問題について語った。

――立場が変わって以来、どんな業務に携わっているのですか。

プラットナー 私は監督委員会の会長として、当社の業務を監督する立場にあります。技術、人事、総務などに関連する幾つかの委員会を運営しており、そこで投資や買収などについて議論しています。技術委員会は開発のすべての側面を扱います。私が最も気に入っている役割は、ソフトウェアの設計とそれを改良する手段を見つけることです。

――その分野ではどんな成果を達成しましたか。

プラットナー コードの挙動パターンの変更や、顧客などとのかかわり方をどうすべきかについて、明確な成果を達成しました。当社は、非常に複雑な状況に対応する必要があります。われわれはMicrosoft Office、マルチメディアアプリケーション、組み込みシステム、RFID(無線ICタグ)、GPS(Global Positioning System)、そして当社のERP、CRM、SCMアプリケーションの基盤の上にアプリケーションを構築しています。これらの新しいアプリケーションをほかのすべてのアプリケーションに連携しなければならず、そのためにはさまざまな設計スタイルと手法、そしてさまざまな人材が必要とされます。

――「Project Vienna」に関する話題を耳にしますが、どういうものなのか教えてください。

プラットナー これは開発プロジェクトです。といっても、Longhornのような製品を開発するのではなく、機能コンポーネントを開発し、それらをmySAPスイートに順次組み込んでいくというものです。Project Viennaにはエンジン(ソフトウェアで実現可能なプロセス)を見つける作業も含まれ、複数のエンジンがあれば、一つのコンポーネントを複数の用途で利用することができます。Viennaは巨大なプロジェクトです。

――このプロジェクトではどんな役割を果たしているのですか。

プラットナー プロトタイプのプロトタイプを作成するチームを幾つか抱えています。私は以前から、自動車生産に見られるような開発方式にあこがれていました。これは何十ものバージョンのプロトタイプを作成し、経営陣が有望なものを見つけ、妥当だと判断したものに対して本格的に投資するという方式です。われわれがチームに課題を与えると、設計担当者たちは実にさまざまなアイデアを出してきます。

――市場をリードするSAPが謙虚なのはなぜですか。

プラットナー 顧客重視の姿勢を徹底しているからです。相手が大企業の場合、彼らの意志や希望に反する行動を促すことはできません。激しい競争もあります。われわれのアプリケーションはMicrosoft Officeに遥かに及びません。

――R/3およびmySAPの普及率に満足していますか。

プラットナー 2000年末までは、われわれの予想通りの展開になりました。2万件の導入を目標としていたわけですが、これはクリアしました。次の目標は10万件の導入であり、恐らくその目標の半ば近くまで到達したと思います。

 巨大企業を狙わないという戦略もあったと思います。こういった巨大企業とのビジネスでは、ノーと言いにくいものです。戦略を変えていれば、中小企業市場にもっと進出できたのではないかと思います。今後は、中小規模の企業での普及を加速する計画です。そのための唯一の手段がサクセスストーリーです。つまり「それをしたおかげでわが社を変えることができた」という中小企業の証言が必要なのです。

――その戦略の中でCRMはどう位置付けられるのですか。

プラットナー CRMは当社のアプリケーションの主要コンポーネントの一つであり、当社のビジネスの20〜30%を占めていると思います。売り上げの拡大が企業の至上命題であり、どの企業にもCRMの利用価値があります。これに対し、SCMはあらゆる企業が利用しているわけではありません。

――ホステッドCRM市場についてはどう思いますか。

プラットナー そこで提供されるのは基本的なサービスであり、中小規模の企業が試験的に利用するのにはいいでしょう。しかしホステッドCRMが最終的なソリューションであるとは思いません。私は、ホステッドソフトウェアに対して少し悲観的な見方をしています。われわれは非常に高価な実験をやりました。Pandesicという合弁事業ですが、これは儲かりませんでした。時期尚早だったと思います。これは、いずれまた手がけることになるでしょう。当社の将来計画から除外するつもりはありません。

――SAPのソフトウェアは融通が利かないことで有名でした。今では柔軟な企業になったのでしょうか。

プラットナー SAPの中には「あなたのためにこうしたのであり、これ以上のものはあり得ない」と言う頑固な従業員もいるかもしれませんが、「あなたが抱えている問題をもっと聞かせてほしい。それらを全部解決したい」と言う従業員もいます。SAPが批判を一切受け入れないと考えるのは間違いです。ドットコムブーム後の厳しい時代がSAPを変えました。



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▼SAPPHIRE '04 New Orleans Report

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