「ソフトウェア業界はもっと汗をかかんといかん」セコム木村会長が語る経営哲学

11月29日に開催される「第2回MIJSカンファレンス『Japan』」では、日本のCIOの草分けと言われるセコムの木村昌平会長が基調講演を行う。同社は急激に成長していた常駐・巡回警備を突如縮小させ、ネットワーク型の機械警備に切り替え、さらに大きなビジネスを作り上げることに成功した。セコムの「創造的破壊」の経営とは?

» 2007年11月05日 10時00分 公開
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photo 日本のCIOの草分けとも言われるセコムの木村昌平会長

 「新しいことを考えることは簡単だ。だが、それを実現させるとなると、違う。自分の会社を否定しないといけない」――ITによる事業革新を尋ねると、セコムの木村昌平会長の口からはこんな言葉が飛び出す。同氏は日本のCIOの草分けとも言われる存在だ。

 「セコムする」という言葉は、今や一般の家庭にまで普及する監視セキュリティサービスの代名詞にまでなった。そのサービスのクオリティの高さは世界でも認められ、英国警察のテロ対策システムを担当するほど、国際的にも通用するセキュリティサービスの企業に成長した。

 「セコムするは韓国でも一般名詞になっているんだよ」――木村会長は胸を張る。

 11月29日に目黒雅叙園で開かれる「第2回MIJSカンファレンス『Japan』」では、基調講演にセコムの木村会長が登場する。もはやITはどの企業経営においても革新をもたらすためのツールとして欠かせないものとなったが、同社の事業革新には見習うところがあるはずだ。

セコムのITによる事業革新

 1962年代に日本初の警備保障会社として設立されたセコムは、1980年代まで「日本警備保障」と呼ばれ、常駐警備や巡回警備といったガードマンサービスで知られる会社だった。創立2年目の1964年には、東京オリンピックの選手村の警備を一手に引き受け、翌年には同社をモデルにしたテレビドラマが放送されるほど、ガードマンサービスは脚光あびた。その業績も「倍々ゲームで伸びていた」というほどの勢いだった。

 だが、創業者の飯田亮氏(現・最高顧問)は一転、この急激に成長するビジネスの縮小を決めた。人手に頼る警備からネットワーク経由で監視するオンラインセキュリティサービスへ切り替えを進めたのだ。

 木村会長は「飯田は、幹部に侃々諤々の議論を戦わせたが、皆がオンラインセキュリティに反対だと知ったから、巡回警備から撤退したんだよ」と笑う。

 今振り返えるなら、このまま労働集約型のサービスを続けていれば、膨大な従業員を抱えなければサービスを維持できなかっただろうと想像することは簡単だ。少なくとも競合他社を圧倒するほどのガリバーにはなれなかっただろう。だが、今そこにある成功を否定するとなると事情は異なる。

 常駐警備から機械警備へ――セコムの変遷はITの力をいち早く取り入れることで、労働集約型のサービスから新たなビジネスモデルを生み出した代表的な日本企業と言えるのかもしれない。現在の規模のサービスを人手の警備で提供としようとすれば、300万人もの警備員が必要だったというから驚きだ。まさにITで事業革新を起したわけだ。

 「ITを駆使したと言われるが、当時ITなんて言葉はなかった。革新のテーマは、ITでどうやろう、ということではなく、“今を捨てられるかどうか”だった。つまり、会社の基幹ビジネスを否定できるか、ということだ」 この事業革新を木村会長は“創造的破壊”と呼んでいる。過去の成功体験を否定し、新しい技術トレンドへ適応する。事業革新に成功した経営哲学といえるものだ。CIOの草分けが発する言葉の奧は深い。

テクノロジーの変化に適応できない企業は滅びる

 いつの時代でも技術が革新を生んできた。それは間違いない事実だろう。しかしその変化に適応できなかったものは生き残れない。ビジネスの世界も適者生存の法則は存在するという。絶え間ない技術の変化を取り入れ、時代の変化に対応し続ける継続的な取り組みが求められる。しかもITの世界は技術変化のスピードが素早い。

 「ITを使った経営という点ではセコムはそれほど進んだものだと思わない。しかし、経営にITを生かしたとしてもその効果はよくて2〜3割だ。だが、事業そのものに取り込むことには成功した。それは、けた違いの革新だよ」

 セコムがITの力をいち早く取り入れ、事業革新に成功した背景には、実はSTI(セコムテクノロジーイニシアティブ)という活動があった、と木村会長は言う。今でもこの活動は続いている。経営者と技術者が一緒になって、技術のトレンドを学び、追いかけ、今の事業の“破壊”を促し、間違った“破壊”にはブレーキをかけるために欠かせない取り組みだ。

 「経営者だけでなく、技術のトップと現場の技術者が一緒になって外部の専門家を呼んで勉強会をやる。経営者は技術トレンドを判断できないし、技術者は経営のことを考えるのは難しい。一緒になってやれば、お互いが気づかされることがある。もしかすると、今のビジネスモデルが消えてしまうのではないか、そういう危機感も共用できる」

 同社がITを用い「創造的破壊」に成功したのは、単なる天才的経営者の勘ではない。こうした絶え間ない取り組みが行われ続けてきたからこそ、できたことなのだ。

サービス業に学ぶ、日の丸ソフトウェアが世界で通用する条件

 そして、同社のサービスは、世界でも通用するものまでに発展している。「クオリティを求められる仕事はセコムにくる」と木村会長は言う。同社のセキュリティサービスはクオリティの高さで、海外でも評価を高めている。

photo サービス業界とソフトウェア業界というのは共通するものがあると話す木村会長

 日本のお家芸「ものづくり」とは異なるサービス業で、海外で成功している日本企業は数少ない。日本のソフトウェアがグローバルで活躍できず、日本市場も海外のパッケージソフトウェアベンダーに駆逐されているのと、その状況は似ているかもしれない。

 木村会長は「ソフトウェア業界にも共通点がある」と指摘する。

 そもそもサービス業は、製造業とはビジネスのやり方が異なる。「サービス業の商品は物ではない、ノウハウや知識、技能がその価値を決める。ときには、人の嫌がるような仕事だったりする世界だ」。

 生産性を追い求め、コスト削減を進めても、それが従業員のマインドに影響を与えては、サービスの品質を下げることになる。在庫のきかない製造業とは大きく異なる点だ。だからこそ、サービス業においては、生産性を高めることよりも、社会が期待するようになるまで付加価値を高めることが必要なのだと言う。

 「社会に認められなければダメだ。顧客が何を望んでいるかを常に考え、社員がモラルの高い状態で仕事をできるようにしなければ、必ず無理が出て崩壊する」「現場が義務感ではなく、誇りを持って仕事ができなければならない。現場に誇りを持たせることができるのは、企業の理念と哲学だ。それに現場の人生観が重なったときでしかない。給料を上げたり、労働時間を短くすればよい、なんてことは間違いだ」。こう言い切る。

 実際に、モラルの破たんで不祥事にいたるサービス業が目立つが、品質よりも生産性、コスト削減を優先した当たり前の帰結だ。そうならないためにもセコムでは、高価なサービスからスタートする戦略をとっていると言う。

 「トップ層からサービスを始める。クオリティに妥協がなく、それを維持するために高いといわない客層からスタートする。それができれば、クオリティが高まる、経験からだんだんと生産性を高めていくコツというのが分かってくるものなんだ」

日本の良さをアピールしろ

 木村会長のソフトウェア業界に対する見方も厳しい。

 「ソフトウェア業界というのは、どうして生産性を高めることばかりを言うのか。生産性を高めるということは、コストを下げるというにすぎない。改善の積み重ねでしかないんだよ。どこが革新的なんだ」

 日本のソフトウェアが海外のソフトウェアベンダーに対抗するには、セコムと同様に「質」を高めることに目を向けねばいけない、と叱咤激励する。「パッケージで手離れよくやろうなんてことは考えるな。欧米のソフトウェアベンダーは、クオリティはそこそこでいいと考えている。同じやり方をしても勝負にならない」

 ソフトウェアの世界は1人の天才が突如すべてをつくり変えてしまうことがある。海外ベンダーと同様に勝負していれば、天才が突如巻き起こす革新に対応できない。一挙に築き上げたビジネスをひっくり返される可能性がある。 「日本のシステムには、きめ細かさといったような良さがある。要するに、顧客のわがままを受け入れてくる余地がある。こういう欧米企業ではやらないようなことをやらなきゃいけない。何かでさすがだ、と思わせないと勝てない」

 日本のソフトウェアの良さを全面にアピールしていくのが、世界に通用するソフトウェアになるための条件だと木村氏は言う。

 「それにはまず汗をかかないといかんだろうな」――日本のCIOの草分けらしくソフトウェア業界にも厳しく優しいエールを送る。


第2回 MIJSカンファレンス「Japan」
真のアプリケーション連携がここから始まる――「MIJS標準規格」第一弾発表
注目
セッション
【基調講演】
 「創造的破壊の経営戦略 〜高生産性ビジネス創出と国際競争力の強化〜」

 ・セコム株式会社 取締役会長 木村昌平 氏


【特別講演】
 「世界に羽ばたいたRuby 〜日本の開発者が世界で活躍するための条件〜」

 ・ネットワーク応用通信研究所/楽天 技術研究所 フェロー まつもとゆきひろ 氏
 ・稚内北星学園大学 教授/日本Javaユーザーグループ会長 丸山不二夫 氏


【パネルディスカッション】
 「討議 SaaSは、真にユーザー利益をもたらすか!?」

●パネリスト
 ・大成建設株式会社 社長室 理事 情報企画部長 木内里美 氏
 ・ラクラス株式会社 代表取締役社長 北原佳郎 氏
 ・NECネクサソリューションズ株式会社
  マーケティング本部長代理 兼 マーケティング戦略部長 土師弘幸 氏
 ・前 日本貿易振興機構ニューヨークセンター IT部ディレクター 渡辺弘美 氏
 ・ウイングアーク テクノロジーズ株式会社 代表取締役社長 内野弘幸 氏
●モデレータ
 ・アイティメディア株式会社 代表取締役会長 藤村厚夫
日時 2007年11月29日(木)
会場 目黒雅叙園 2F
参加費 無料(事前登録制) 定員1000名
主催 MIJSコンソーシアム
後援 経済産業省(予定)、総務省(予定)
ASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン、ITマネジメント・サポート協同組合
協賛企業 NEC、NTTコミュニケーションズ株式会社、日本オラクル株式会社、
株式会社日立製作所、富士ゼロックス株式会社、マイクロソフト株式会社
メディア協力 ITmediaエンタープライズ、IDGジャパン、@IT、EnterpriseZine、ZDnet Japan、
Software Design、BCN

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提供:MIJSコンソーシアム
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2007年11月29日