至れり尽くせりのシステムを捨てた――TOMOEGAWAの勝算

» 2008年07月01日 10時00分 公開
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 TOMOEGAWAは、日本における産業用特殊紙のパイオニアとして、1914年(大正3年)に創業した製紙会社だ。1970年代以降は技術革新により、複写機用トナーなどの紙以外の新規事業が徐々に拡大した。最近では、半導体関連製品、各種トナー、フラットパネルディスプレイ用光学フィルムなどの先端分野の材料も開発、製造、販売する。同社がSAP ERPにより、ビジネススピードを飛躍的に向上させたという。経営戦略本部 IT戦略担当の天野雅央氏に話を聞いた。

 成長するビジネスを支えるために、TOMOEGAWAは汎用機を二十数年前というかなり昔から導入してきた。だがそれは当時主力だった製紙というプロセス事業中心のビジネスに最適化されたものだった。その後の事業の多角化には、在庫管理や製造プロセス管理など必要なシステムを随時追加することで対応してきた。

 天野氏は「結果的には、つぎはぎだらけのシステムとなっていた。新たな変化に柔軟に対応するには限界に近づきつつあった」と話す。

 ビジネスの多角化に沿って拡張、改修を続けてきた結果、システムの全体像の把握が難しかったと説明する。ビジネスサイクルはどんどん速くなっているにもかかわらず、旧システムは月次処理が主体であった。

 「現場でも今日製造した実績データの入力は、週末にまとめてやればいいという状況もあった。週次サイクル、月次サイクルの弊害だ」(天野氏)

 システムから実績が見えるのが遅く、仮に問題を発見しても「対策は既に遅すぎる」という状況であることが多かった。このようにバックミラーを見ながら経営するような状況を、TOMOEGAWAは解決する必要があった。

SAP ERPにあったベストプラクティスと実績

TOMOEGAWA 経営戦略本部 IT戦略担当 天野雅央氏

 TOMOEGAWAがこうした課題を解決するために導入したのがSAP ERPだった。

 「導入に当たり、幾つかのERPを調査しました。SAPを選んだ理由はベストプラクティスがあったからです。同じような業種、同じような中堅企業でSAPを導入し、利益率を飛躍的に向上させた例もありました。そういった企業を実際に見学させてもらったこともSAPの選択につながりました」(天野氏)

 SAP ERPの導入により、全体最適の統合システムを目指した。標準原価制度を導入し、収益貢献度を明確にさせる管理会計を強化し、売上高、粗利、在庫などを従来の月次から日次で管理するビジネスサイクルを実現し、経営スピードを上げるのが狙いだ。2006年1月、ERP導入プロジェクトを開始した。システムの稼働は2007年10月。プロジェクトの進め方は、経営トップ自らが推進するトップダウン方式だった。

 しかし、導入は予定よりも時間が掛かってしまった。原因は「標準の業務プロセス、画面内容、表示項目、機能の理解に計画以上に工数がかかったため」と天野氏は説明する。このままではプロジェクトがスムーズに進まないと判断し、プロジェクト途中の2006年4月に急遽体制を整え直した。プロジェクトメンバーに専任者を指名した。

 体制は整ったが、新たな問題も発生した。専任でプロジェクトに携わるようになると、SAP ERP導入で会社が大きく変わることを実感し始めたが、現状からの大きな変化に不安や不満が出てきた。この不安や不満に対しては、社長自らが「全社規模で変革しなければならない」のだということを、強い意志で示すことでメンバーには納得してもらったという。

 SAP ERPの導入が進むと、プロジェクト専任担当者の当初の抵抗感は変化し始める。率先してプロジェクトにかかわり、一緒にプロジェクトの成功を考えるようになった。特に、赤字部門の担当者は、黒字にするために変化を積極的に受け入れるべきものととらえるようになり、SAPを強力な武器として考えるようになった。

 従来、例えば生産管理の現場では、紙の日報を記載し、その内容を改めてシステムに入力していた。無駄やミスが発生する可能性がある手順だが、現場の担当者は特に疑問を感じていなかった。また、生産報告の作成ではツールとしてMicrosoft Excelを用いており「Excelシートを作ることが生産管理の大きな仕事のようになっていた」(天野氏)という。データ処理はなるべくSAPに任せ、捻出した時間を、アクションに結びつける業務に使うべきという考え方に、SAP ERP導入の過程で行き着いた。

標準原価採用で「売り負け」が減少

 ERP導入の目的はビジネスの進め方を変革することにある。そのためには、まずは現場が新たな仕組みに慣れ、十分に使いこなす必要がある。しかし、過去のシステムが存在する場合は事情が複雑化することがある。TOMOEGAWAの従来のシステムは、20年以上にわたり個々の業務を対象に効率化してきたもので、現場の評価も高かった。

 「従来システムは、現場にとっては“至れり尽くせり”でした。現場は慣れており、個別の業務に最適化され使い勝手もよく満足していた。それがSAPで大幅に変わる。SAPは会社として全体最適を図るため、個別の現場担当者からすると、以前よりもむしろ使い勝手が悪くなることもあり、不満の声が上がった」(天野氏)

 作業現場の一部に不満もあったが、SAP ERPを利用して、徐々にその効果を体感できるようになった。例えば、これまでは幾つかのステップを経て製品が出来上がる業務プロセスがあった場合に、各ステップの結果が順番に積み上げられて最終製品になり、それが販売された後で利益が出たかが分かる状況だった。

 SAP ERPに情報を日々入力することで、生産のどの時点でも状況を常に把握できるようになった。SAP ERPの効果を現場にフィードバックすることで、現場での自主的かつ積極的なSAP ERPの活用へと変化していった。

 ビジネススピードが速くなるという変革に大きく貢献しているのが、SAP ERPにより実現できた標準原価の導入だ。標準原価とは、実際に発生する原価ではなく、各生産工程や標準作業に対して社内で標準として設定している原価のこと。標準原価の採用により、生産工程のどのステップにある品目でも、原価の状況が日々把握できるようになった。これにより、製品の販売見込みを確度情報付きで営業担当者が入力することで、ビジネスの未来をシミュレーションできる体制ができつつある。

 SAP ERP導入後は、物が動けばすぐにお金が動く状況になった。経営者からの「今の状況は分かったからこの先どうなるか」という問いに、SAP ERPを使って答えを出せるようになりつつある。

 従来は、実際に製造するために掛かった材料費、労務費、製造経費を計算した原価である実際原価を採用していた。実際原価では、月次でしか利益の状況を把握できず、故に業務プロセス全体も月次のサイクルで回っていた。これが標準原価の採用で、日単位で利益の状況が分かるようになり、業務プロセスが日次サイクルへと変化した。

 「過去には、数は売れているのに赤字になる製品があった。例えば製造の早い段階で何か問題があり、コストが掛かり過ぎたのかもしれない。しかし、月次サイクルでは赤字になることがすぐには分からないので、対策が遅くなる。生産工程が進んでしまうと、赤字になると分かったとしても、その時には前に戻って対処できない。売っても赤字になる売り負けの製品が出来上がっていた」(天野氏)

物流と金流の一致

 言うなれば、物が動いてから情報が動き、そして月次でお金が動くという流れだった。

 月次から日次のサイクルに早めたことで、ビジネスの変化にも柔軟に対応できるようになる。日々のビジネス状況の変化が把握できるので、早めの対策が打てるようになったのだ。

 「誰かが集計し、報告があって初めて経営者が見えるのは“見える化”とはいえません。見える化とは、報告などなくても状況が自ずと分かること。問題が常に見えるようにしておくことです。見えない問題は、永遠に解決できません」と天野氏は指摘する。

 SAP ERPは確実でリアルタイムな実績集積マシンであり、これに計画値や目標値を加えることで「真の見える化」が実現するとしている。

 標準原価の情報を、SAP ERPに入れること自体は特に難しくない。ただし、標準原価の作成は人間が頭を使って考えなければならないため手間が掛かる。従来よりもシステムの使い勝手が悪くなった部分もあり、現場の手間が増えた部門も当然ある。しかしながら、SAP ERPの導入がビジネスへの考え方をガラリと変えるきっかけになったと天野氏は指摘した。

SAP ERPの活用で頭を使う業務に注力

 「SAP ERPの機能を、使い込もうとする動きが出てきた。SAP ERPによる変革で会社として飛躍しなければならない」(天野氏)

 営業担当者はこれまで売り上げを常に意識していたが、今は利益の確保を最優先するようになった。原材料費の値上がりなど厳しい市場環境もあるが、製品を苦労して売っても結局は売った分だけ赤字になったという状況は、SAP ERPの活用で今後は最小限にしていくという。利益を上げるための工夫や、粗利率の高い製品の生産へのシフトといった、企業として本来実践したかった戦略的な動きを強化できる仕組みになったのだ。

 TOMOEGAWAはSAP ERPにより、かつての過去を見ながらの経営を未来を見据えたスピードのある経営に変革しつつあるが、まだ変革の第一歩に過ぎない。今後は、SAP ERPに蓄積される情報をさらに活用していく考えだ。未来を確実に予測し、早めに対策を講じる体制を整える。いわゆる計画系の機能の充実を図り、さらなるビジネスの飛躍をTOMOEGAWAは目指している。

TOMOEGAWA

国内初の電気絶縁紙メーカーとして出発し、「特殊紙の巴川」として成長。
時代の変化に合わせて、粘接着技術、塗工技術、電気絶縁技術等の独自技術を活かして事業を多角化し、各種トナー、半導体関連製品、フラットディスプレイ用光学フィルムなど、さまざまな産業用マテリアルを開発し、総合高機能材料メーカー「TOMOEGAWA」へと業容の転換を図っている。
www.tomoegawa.co.jp


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提供:SAPジャパン株式会社
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年7月31日