情報通信インフラの優位性を生かし、世界における日本のプレゼンスを!SFC Open Research Forum 2011 プレ対談

日本企業のグローバル展開が叫ばれて久しく、年々その必然性は増している。先の大震災では多くの企業が打撃を受けたものの、情報通信インフラなど日本の強みも浮かび上がった。これから日本が進むべき方向性について、NTTコミュニケーションズの澤田常務と慶應義塾大学の村井学部長が語る。

» 2011年11月08日 10時00分 公開
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 今年3月に起きた東日本大震災は日本中に深い悲しみを与え、この震災によって日本人の意識は大きく変化した。「今の日本にとって最も必要なことは何か」――多くの人々の自問自答が日々続いている。

 そうした中、慶應義塾大学SFC研究所(湘南藤沢キャンパス)が主催する年次イベント「SFC Open Research Forum 2011」が11月22日、23日に開催される。今年は「学問ノシンカ」をテーマに、東日本大震災を初め、さまざまな困難から立ち上がろうとしている今の日本に学問はどのような力になれるのかを模索する。

 20年以上にわたりSFCと情報通信ネットワークの発展に向けた共同研究に取り組むとともに、SFC Open Research Forumの立ち上げ時から支援を続けているのがNTTコミュニケーションズだ。同社経営企画部長の澤田純常務取締役と慶應義塾大学 環境情報学部長の村井純教授が、社会基盤としてのインターネットの役割やこれから日本がグローバル競争を勝ち抜いていくための勘所などを語った。

衛星通信を活用して被災地で支援活動

NTTコミュニケーションズ 経営企画部長の澤田純常務取締役 NTTコミュニケーションズ 経営企画部長の澤田純常務取締役

 SFCでは、「本当の問題発見とその解決」を研究や教育の基本方針として掲げている。震災復興の取り組みとして「SFC 3.11 プロジェクト」を立ち上げ、さまざまな支援活動を行うのもその理念から生まれた活動だ。その一例として村井教授が挙げたのが、被災地・宮城県栗原市でのインターネット復旧作業である。

 元々、栗原市とは過疎地の情報通信システムのあり方などについて共同実験を行うために包括契約を結んでおり、IT機器などの実験用機材を運び込んで準備を進めていた。その直後に岩手・宮城内陸地震(2008年6月)が発生。契約内容を一部変更し、すぐさま災害に対する情報通信システムを開発した経緯があった。その開発した成果である「衛星インターネットライフラインシステム」は栗原市に納品されていた。

 そして今回、東日本大震災発生直後に連絡を取り合い、ネットワーク回線などが寸断されていた地域に、栗原市を基地として納品されていたシステムの移動や同様のシステムの緊急構築、そして、業界をあげて設備調達など力を合わせ、臨時のインターネット環境を各所に整備した。納品されていたシステムは、電源は自動車のバッテリーを利用するなど、手作りのシステムだったが、この俊敏な取り組みが被災地で大いに役立った。(http://pdrnet.wide.ad.jp/

 一方、NTTコミュニケーションズも情報通信ネットワークの基盤そのものを復旧すべく、全国各地から被災地に人員を送り込んだ。そこで澤田氏が感じたのは、基盤はすぐに復旧できるが、その上でインターネットをどう活用するかというアプリケーションの部分は、現地に入り込んでいる学術機関やボランティアが構築したものといかに連携し、少しでも早く利用可能にしていくかということだ。

「通信事業者は、災害によって寸断されたネットワークを迅速に復旧するまでは容易だが、それをトータルで使いこなす環境にまでするという点にまでは至ってない。逆に、ボランタリーで動いていた人たちの方が、携帯電話でもWi-Fiでも、その場で使えるものを活用しようとする動きがあり、彼らに任せた方が早かった。この両輪があってこそ、避難所での通信システム環境全体が即座に整備されたといえる」(澤田氏)

社会基盤として確立したインターネット

 改めて説明するまでもなく、今回の震災においてインターネットがもたらした功績は大きい。地震発生から長時間にわたり電話回線が不通、あるいはつながりにくくなった一方で、インターネットはなんとか稼働し、Twitterや電子メールなどで家族や友人とのコミュニケーションや安否確認することができた。「まさに社会基盤として重要な役割をインターネットが果たした」と村井教授は強調する。

慶應義塾大学 環境情報学部長の村井純教授 慶應義塾大学 環境情報学部長の村井純教授

 被災地でもインターネットは活躍する。例えば、ある避難所では、インターネットのコンテンツがメンタルケアや教育に活用できるということで、夜8時までは子どもだけでインターネットを使用できるようにしていたという。

「モバイルやインターネットなどのデジタル情報通信が真の社会基盤になったことで、今後これをどう展開していくかという議論の出発点に差し掛かった」(村井教授)

 インターネットは、2000年代に入り、一般に普及するに従って、セキュリティ問題をはじめネガティブな側面ばかり指摘されることが多かったが、本来であれば「ポジティブな面がもっと強調されるべき」と澤田氏は話す。インターネットが昨年、今年と2年連続でノーベル平和賞にノミネートされているのもその証しだ。「今やインターネットは人間一人一人の心情や感性を引き出し、社会の力に変えることができる存在」と村井教授はその理由を説明する。

日本だからこそできること

 インターネットというデジタル情報通信の進化は、震災復興に関してだけではなく、グローバル競争という観点において、日本が持つ強みを改めて考える契機にもなる。そのキーとなるのが、実世界とサイバー世界を緊密に結合するという概念である「サイバーフィジカル」である。現在、実世界にある多様なセンサーから大量のデジタルデータが発信されており、これらを取り込み、分析することで新ビジネスの創出など幅広い分野に生かすことができるという。

 村井教授は、実際にSFCが取り組んでいる農業の例を挙げた。これは、ITを活用して美味しいトマトを作るというプロジェクトで、センサーなどによって栽培の過程を「情報化」して、取り込んだデータを分析し品質を管理するとともに、熟練農家のノウハウを数値化して、知財として蓄積する。これによって、データに基づいた手法に従えば誰でも美味しいトマトを作ることができるようになるという。

 また、別の事例として、ある農家では、栽培しているみかんの写真を携帯電話で毎日撮影し、それを専門家に送ってアドバイスを受けるだけで、味などの品質が飛躍的に向上した例もあるという。

「これまでのソフトウェア開発の観点からみれば、たいそうなことではないかもしれない。しかし、社会の中では非常に重要な取り組みだ」(村井教授)

 ただし、こうした取り組みはどこでもできるわけではない。「分析に耐えられる品質の写真が撮影できるカメラが付いている携帯電話があり、ブロードバンドなどのインフラが整っていなくてはならない。こうした環境がどこにでもあるのは日本の大きな強みだ」と村井教授は胸を張る。

 農業だけでなく、介護や医療、教育、水産業などさまざまな分野で、ITやインターネットとの組み合わせによるイノベーションが可能になり、日本が世界に先駆けて取り組むチャンスだという。

グローバル標準を取り入れる

 このように、日本が世界に打って出なければならない背景には、国際舞台でのプレゼンスの低さがある。とりわけITに関しては顕著で、例えば、外交の場などで各国の首脳が政策にインターネット戦略を盛り込んでいるのに対し、日本はITやインターネットを語ることすらないという。

 決して語るべき内容がないのではない。実際には日本は、震災が起きてからわずか1カ月足らずで被災地の通信インフラを復旧させるほどの技術力と行動力を持っている。にもかかわらず、そうした実績が世界に広く知られることは少ない。

 世界に日本をアピールするためには、その担い手となる人材の育成も不可欠である。グローバル人材に関して、NTTコミュニケーションズでは約5000人の社員(うち日本人は160人)が海外拠点で働いており、優秀でやる気のある人材を定期的に日本の部署に引き入れるなどするほか、昨年来、まったく日本語ができない留学生を採用することで、組織のグローバル化を推し進めている。「すべて英語で業務を行うなど、いずれはグローバル標準の環境を構築すべく進めている」と澤田氏は明かす。

 一方、企業に人材を輩出する大学側でも、グローバル人材の育成は重視されている。SFCは1990年の創立当初から帰国子女や留学生を数多く受け入れており、グローバル環境の構築に尽力してきた。さらなる改革として、この9月から環境情報学部では、入学手続き書類や履修申請書といった大学文書に関して英語版を用意した。これによって、日本語ができない学生の入学促進につなげることが狙いだという。

 今後、世界に通用する人材を育てるという面でも、NTTコミュニケーションズとSFCは産学連携を強化していきたいと、澤田、村井両氏は口を揃えた。


 グローバル競争を勝ち抜くための最先端の技術や研究、それを武器に世界へ飛び出し、日本の存在感を大いに示す人材。この原点となるであろうSFC Open Research Forumにぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。日本の近い将来に対してさまざまな発見があるはずだ。

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提供:慶應義塾大学 湘南藤沢研究支援センターSFC研究所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2011年11月23日