ソーシャルを語れ! 10億人のユーザー獲得に向け邁進するSAPSAPPHIRE NOW 2012 Orlando Report

米フロリダ州オーランドで開催中のSAPの年次カンファレンスでは、企業IT領域におけるコンシューマーの重要性が繰り返し強調された。

» 2012年05月15日 15時30分 公開
[伏見学,ITmedia]

 今秋の大統領選挙に向けて、米国国内はますます盛り上がりの様相を見せている。ここフロリダは全米の中で激戦州の1つであり、フロリダ州を制した候補者が全国で敗退したのはこれまで1度だけというほど、共和党と民主党の勝敗を大きく左右する。

 今回の大統領選では、Twitterなどのソーシャルメディアを使った選挙運動が活発である。候補者演説での発言のフォローや批判に対する反論など、タイムリーなメッセージングやコミュニケーションが有効な手段になっているという。こうした“リアルタイム”の重要性は、今やコンシューマー(消費者)からビジネス、政治の世界へとますます広がっているのだ。

 米国時間の5月14日、独SAPの年次カンファレンス「SAPPHIRE NOW 2012 Orlando」がフロリダ州オーランドのオレンジカウンティ・コンベンションセンターで開幕した。あいにくの空模様で、太陽が照りつけるフロリダ特有の陽気とは異なるものの、今年は2万人が集まり、オンラインのライブ配信視聴者などを含めると7万5000人が同カンファレンスにかかわるとみられる。

 本格的なオープニングとなった夕方の基調講演では、SAP 共同CEOのビル・マクダーモット氏が登場。モバイルやソーシャルメディアなどを例に、もはや「ITコンシューマライゼーション」は不可避な流れであることを繰り返し強調した。

「コンシューマーを理解することがSAPにとって大きなステップアップとなる。それを実現するキーワードが、スピード、シンプリシティ、そしてパーソナライゼーションだ」(マクダーモット氏)

「SAPPHIRE NOW 2012 Orlando」基調講演会場 「SAPPHIRE NOW 2012 Orlando」基調講演会場

より良い世界の基盤に

 創業以来40年間、これまでSAPは主力であるERP(統合業務パッケージ)製品を武器に、エンタープライズ向けにビジネスを展開してきたことはもはや多くを語るまでもない。その後、時代の移り変わりや自身の事業ポートフォリオ拡充などに伴い、モバイルプラットフォームを手に入れ、これを契機に、一気にコンシューマーをもターゲットにしたビジネス戦略へと大きく舵を切った。コンシューマーの体験は企業にとって無視できないものであり、エンタープライズ分野においてもそうした知見は取り込むべきだという。

SAP 共同CEOのビル・マクダーモット氏 SAP 共同CEOのビル・マクダーモット氏

 このコンシューマライゼーションに対する強い意気込みとしてマクダーモット氏が掲げるのが、ユーザー数を現状の3000万人から10億人に拡大するという点である。SAPのユーザ企業は全世界で19万6000社だが、企業数自体は将来的に20万前後とそれほど増やす目標はなく、あくまで個のユーザー数に力点を置く。

 10億人というと、地球の全人口の約7分の1に当たる。これだけの数をユーザーに獲得するというのはどういうことか。売り上げ増や利益拡大といったSAPのビジネスにおけるインパクトが大きいというのは当然だが、マクダーモット氏の視線の先にあるのは、ITが基盤となってより良い世界を構築するということである。「SAPは世界をより良くできるような、千載一遇のチャンスに直面しているのだ」とマクダーモット氏は力を込める。

 それを実現する具体的な技術が、SAPのモバイルソリューションであり、クラウドサービスであり、同社の主軸であるインメモリコンピューティング製品「SAP HANA」なのである。

「HANAは企業ビジネスのすべてを変える。新しい市場、新しい顧客を生み出す」(マクダーモット氏)

 マクダーモット氏自身もこれらの技術を体現する。日ごろiPadなどタブレット端末を活用して、リアルタイムに更新されるグローバル全体の業績データを閲覧、分析することで迅速な経営の意思決定を可能にしているという。

“ソーシャル”は言語

 コンシューマーへの対応はSAPに限らず、多くの企業にとっても課題でありチャンスである。講演ではSAPのユーザー企業が登場し、取り組みなどを語った。

ユーザー企業のパネルディスカッションでは、Burberryのほか、両替機を開発する米Coinstarやホームセンターの米Ace HardwareのCEOが登壇した ユーザー企業のパネルディスカッションでは、Burberryのほか、両替機を開発する米Coinstarやホームセンターの米Ace HardwareのCEOが登壇した

 英国を代表するファッションブランドのBurberryは、80カ国の拠点の基幹システムをSAPの1つのグローバルインスタンスに集約している。これにより、システムの早期立ち上げが可能となり、例えば中国の拠点では6カ月という短期間で実現できた。また同社は、SAPが提供する小売業向けソリューションを活用することで、サプライチェーンや物流、顧客のセグメンテーションなどを強化する。

 Burberryも昨今、コンシューマーやソーシャルメディアの力を強く感じているという。同社CEOのアンジェラ・アーレンツ氏はビジネス成長を目指す企業に向けて「(英語などと同じように)世界で戦うためには“ソーシャル”という言語を話さなければならない」と自社の経験を基にアドバイスを送った。

 なお、同日にSAPはモバイルソリューションに関するいくつかの発表を行っている。同社がSAP Store(App Storeと同様のアプリサイト)を通じて提供する企業向けモバイルアプリケーションの新製品として、出張経費システム「SAP Travel Expense Report」や顧客管理ツール「SAP Customer Briefing」などをアナウンスした。

 また、モバイルデバイスマネジメント(MDM)製品の最新版「Afaria 7.0」をAmazon Web Service(AWS)マーケットプレイスで提供する。これにより、ユーザーは、エンタープライズ対応のモバイルソリューションを迅速かつシンプルに実装できる。Afaria 7.0は、企業がスマートフォンやタブレット端末などのモバイルデバイスをセキュアに管理するための製品で、「SAP BusinessObjects Explorer」や「SAP BusinessObjects Web Intelligence」といったBIツールと連携するのが特徴である。

 これらを含めた新製品や新サービスについては、カンファレンス2日目以降、詳細の説明があるはずだ。

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