アジアのITハブとなれ 自らデータセンター設立に乗り出す沖縄県：沖縄のIT産業政策トップが語る（1/2 ページ）

沖縄県は今後10年間の新たな振興計画を示した「沖縄21世紀ビジョン基本計画」を策定。インフラ基盤強化をIT産業の目玉事業の1つに位置付ける。

[伏見学，ITmedia]

「沖縄の自主性を尊重しつつその総合的かつ計画的な振興を図り、もって沖縄の自立的発展に資するとともに、沖縄の豊かな住民生活の実現に寄与することを目的とする」――。

　上記の理念を基に内閣府が2002年4月に施行した「沖縄振興特別措置法」は、2012年3月に一部改正がなされた。これにより、今年度末で終了した沖縄振興計画に代わって、これから10年先に向けた新たな振興計画「沖縄21世紀ビジョン基本計画」が策定されるとともに、沖縄県が一定程度使途を自由に決められる地方交付金「沖縄振興特別交付金」（一括交付金）が導入された。

沖縄県庁商工労働部 産業雇用統括監の小嶺淳氏。2011年4月から現職

　一括交付金の中から2012年度の情報産業振興関連予算として、沖縄のIT関連事業に割り振られたのは約27億8370万円（2012年6月21日公表）。具体的には、（1）新たな組み込みシステム検証基盤構築事業（2）沖縄型クラウド基盤構築事業（3）クラウド拠点形成等促進事業（4）IT人材力育成強化事業（5）モバイル機器等検証拠点形成促進事業（6）沖縄型上場基盤整備促進事業（7）金融人材育成支援・投資環境PR事業（8）アジアIT人材交流促進事業（9）IT産業人材確保支援事業の9事業が対象になる。

　沖縄21世紀ビジョンにおけるIT産業の役割について、これまで数年にわたって沖縄のIT産業育成を主導してきた沖縄県庁商工労働部 産業雇用統括監の小嶺淳氏は、沖縄のIT関連産業自体の振興発展や他産業のIT化といった「より良い地域経済の構築」、医療や福祉など地域の課題解決をITで支援する「より良い地域社会の構築」、高度かつ多様な「IT人材の集積・育成」を挙げる。これらを実現するための足掛かりとなる重要な事業が上記に当たるというわけだ。

“オール沖縄”でクラウド事業を展開

　中でもとりわけ期待を集めているのが、クラウド関連事業である。沖縄型クラウド基盤構築事業は約4億2800万円、クラウド拠点形成等促進事業は約7億円の事業予算がついた。前回の記事でもお伝えしたように、沖縄県はIT産業の支柱の1つに通信サービスやデータセンターといった「ITインフラ基盤」を掲げる。データセンター事業については、以前から地元企業のファーストライディングテクノロジーやレキサスが県内外に向けてサービス提供しているほか、国内初の本格的な公設民営型データセンターである「宜野座村IDC」が運営されるなど、取り組みは盛んだ。データのバックアップ先として沖縄のデータセンターを活用する既存ユーザーも内閣府、経済産業省、総務省といった行政機関から民間企業までと幅広い。

　加えて、東日本大震災の影響で首都圏を中心とする多くの企業がBCP（事業継続計画）対策やDR（ディザスタリカバリ）対策に本腰を入れ始めていることから、企業データのバックアップ先として首都圏から遠く離れた沖縄のデータセンターに対する需要が高まり、活況を呈している。

クラウド・データセンターが沖縄のデータ集積拠点に（沖縄県発表の資料を基に作成）

　そうした中、沖縄県も自らデータセンターの立ち上げに乗り出す。県が保有するうるま市兼箇段の園芸支場跡地を利用し、クラウドビジネスを推進するデータセンターを新設する。新たなデータセンターは、ほかの県内主要データセンターや県内外のIT関連企業が入居する「沖縄IT津梁パーク」などとネットワークで結ぶことで、沖縄におけるデータセンターの集積地と位置付ける。

　小嶺氏は「沖縄という地理的特性を生かし、国内外の重要データのバックアップやリスク分散の受け皿として、“オール沖縄”でデータセンターやクラウドサービスを提供していく」と意気込む。

　建築設計や道路設計などクラウドデータセンターの整備として約1億2000万円、県内データセンター間のネットワーク拡充や通信回線環境の整備に約3億円、各拠のデータセンターを結ぶクラウド共通基盤システムの構築として約4億5000万円を投資する予定だ。2013年度にはデータセンター整備費として約33億円を予算計上し、センターの完成を目指す。