有識者や先進企業が語る、競争優位に立つためのIT基盤構築の勘所とはシステム基盤改革フォーラム 2012講演レポート(前編)

グローバル規模で経営環境が目まぐるしく変化する今、日本企業が時代の荒波を乗り越えるために必要な条件とは何か。このたび開催された「システム基盤改革フォーラム」の講演の中からそのヒントを探る。

» 2012年10月29日 10時00分 公開
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 10月4日、企業の情報システム部門やデータセンター事業の担当者などに向けたセミナーイベント「システム基盤改革フォーラム 2012 〜導入事例と検証結果から知る、仮想化/基盤テクノロジーの選択肢と現実解〜」(主催:アイティメディア株式会社、共催:日本アイ・ビー・エム株式会社)が開催された。

 同フォーラムでは、講演や個別セッション、ソリューション展示、デモンストレーションが行われ、ユーザー企業の事例紹介や、IBMおよび協賛企業各社のソリューションなどが解説された。本稿では、基調講演とIBM講演の模様を紹介する。

バリューチェーン型からモジュール型へシフト

 フォーラム冒頭では、早稲田大学IT戦略研究所所長、早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏が「テクノロジー進化による産業構造の変化とそれに耐え得るIT基盤とは」と題した基調講演を行った。

早稲田大学IT戦略研究所所長、早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏 早稲田大学IT戦略研究所所長、早稲田大学ビジネススクール教授の根来龍之氏

 根来氏によると、これまで製造業など多くの業界は上流から下流に流れる「バリューチェーン型」の産業構造だったのが、近年では商品とITの融合により「モジュール型」になってきているという。バリューチェーン型において消費者の選択を受けるのは最終段階だけだが、モジュール型では商品を構成する各モジュール(あるいはレイヤー)それぞれが顧客との直接接点を持ち、レイヤーごとに消費者の選択を受ける点が大きく違う。

 「例えば電子書籍でいえば、出版、コンテンツストア、ネットワーク、ハードウェア、OSといったレイヤーがある。こうしたレイヤーを全て1社で賄うことは現実的に無理があるので、どこかのレイヤーはオープンになっているのが実態だ。IT業界がまさにそれであり、レイヤーをオープンにすることで成り立っているとも言える」(根来氏)

 現在、このようなレイヤー化が、IT業界のみならず、さまざまな業界に広がっている。例えば、金融機関も、ATMと店舗の分離が進むと同時にATM提携関係が拡大し、「ATMレイヤーのオープン化」が進んできた。その業界の構造変化によって成立したのが、ネット専業銀行だ。提携ATMを活用することで実店舗を持たずに営業することが可能になった。またコンビニ各社が手掛けているATM事業はその逆で、店舗網を武器として多くの銀行と提携し、ATMというプラットフォームを提供する形になっている。

 「ここで注目すべきは、コンビニATM各社のレイヤー戦略の違い。セブン銀行は後発だが、他社とは違い自社でも銀行機能を持ち、かつそのレイヤーが非常にオープンに近い形となっているのが重要な点だ」と根来氏は指摘する。

 銀行機能を持てば(ATM提携による手数料収入より)収益性の高い、自行での取引を得られる点もポイントだが、他社に依存せず自らの判断でATM展開を積極的に進められるという点が大きい。同社は競合と比べてレイヤー統合の度合いが高く、かつオープンだからうまくいっているというのである。また電子書籍ビジネスにおけるAmazonの戦略も、独自のハードウェアを提供しつつ他の端末からも利用できるようにし、ハードウェアレイヤーをオープンにした。その上で、コンテンツストアで稼ぐという姿勢を明確にしている。

 「業界最大の顧客基盤を持つAmazonがハードウェアをオープンにしているのに、同じ業界に参入した後発企業がそこをオープンにしないというのでは勝ち目がない。後発は異なる強みを持つレイヤー戦略をとり、競合他社にないレイヤーを組み合わせるなどして優位に立つことが望ましい。どこかのレイヤーをオープンにするということは、新たな産業構造を作るということでもある。新たなエコシステムを立ち上げるという意欲や意志を、オープンな部分に参入してくる他社まで含めて支えられる強いIT基盤が求められるのだ」(根来氏)

クラウド、データ、セキュリティの3つの戦略軸で基盤改革

 続いて、日本IBMでシステム製品事業 インダストリー営業担当 兼 パワーシステム事業部長 ヴァイス・プレジデントを務める高橋信氏が「企業成長を支える仮想化・テクノロジー最新情報」をテーマに講演を行った。

日本IBM システム製品事業 インダストリー営業担当 兼 パワーシステム事業部長 ヴァイス・プレジデントの高橋信氏 日本IBM システム製品事業 インダストリー営業担当 兼 パワーシステム事業部長 ヴァイス・プレジデントの高橋信氏

 高橋氏は、「近年、サーバ数の増加と比較して、データセンターの運用コストに関する増加傾向は急激だ。今や全ITコストの70%がシステムの運用・保守に費やされ、戦略的投資が十分できていない状況にある」と指摘。スマートフォンの台数やSNS人口の急増により生成される大量データの活用にも触れつつ、ビッグデータ活用によるビジネスへの貢献という要請に応えながらITはよりいっそう効率に優れた構築・運用が求められるとした。

 そうした中で、2011年よりIBMが掲げる次世代ITインフラへのアプローチが「Smarter Computing」である。また、昨今のITを取り巻く環境の変化、特に、企業ITのみならず個人の生活レベルまで影響を与えるものとして、セキュリティ脅威への対応が急務であるとし、同日発表されたSmarter Computingのアップデートでは新たに「セキュリティ」が戦略軸に加えられた。

 「アップデートされたSmarter Computingのアプローチには、クラウド、データ、セキュリティの3つの戦略軸が盛り込まれている。IBMでは、この軸に沿って、『ITインフラの効率化と新しいサービスの迅速な提供』『即行動につながる洞察を導き出すリアルタイム分析』『脅威セキュリティ脅威やコンプライアンスへの対応』を実現するのに役立つITインフラを提供していく」(高橋氏)

 IBMでは年間6000億円にもおよぶ研究開発費を10年以上にわたって継続投資しており、Smarter Computingを具現化する製品群として新たに、同社の最新プロセッサ「POWER7+」からサーバ、ストレージ、ソフトウェアまでと幅広いテクノロジー・アップデートを行った。高橋氏は「IBM Power 770」「同780」「同795」を中心に、製品群の優位性を強調した。

 Power 770/780/795を含むIBM Power Systemsをはじめ、メインフレームのSystem zからx86サーバのSystem xまで多岐に渡るサーバ・プラットフォームに対し、多額の投資を続けている。例えばPower 770/780に搭載された新プロセッサPOWER7+には1400億円もの投資を行い、従来のPOWER7からキャッシュメモリ容量を2.5倍の80メガバイトと大幅に増加、セキュリティや性能向上に貢献する複数のアクセラレータを搭載した。

 さらには、システム停止を引き起こす致命的なエラーからダイナミックなリカバリを可能にする機能拡張などの強化を行った。最速で4.4GHzを超えるスピードで32スレッドを同時に実行する処理能力を、仮想化PowerVMによって効率よく利用できるのはオープン系のシステムでは大変魅力的な選択肢だ。「20年以上にわたり確固として革新的なプロセッサ・ロードマップを実行してきたベンダーはほかにはなく、IBMはPOWERにコミットしている」と高橋氏は力を込めた。

 Power Systemsは、今やUNIXサーバにおいて全世界で50%を超えるシェアを誇り、首位に立つ。高橋氏によれば、他社UNIXサーバの製品ロードマップが不明瞭であることからPower Systemsへ移行したいというユーザーからの相談も、過去2、3年で急増しているという。その際にPower Systemsに期待されることは、POWERのロードマップの実行力、優れた効率性を実現する先進の仮想化、安定したサービスを提供するRAS機能(信頼性、可用性、サービス性)、そして高いパフォーマンスだという。

 仮想化やクラウド環境には高いサービスレベルが求められる中、IBMでは1990年代後半にメインフレームの仮想化を開発した部隊がPower Systemsのハードウェアに仮想化テクノロジーを直接組み込んでいる。セキュリティに関しては、Power Systemsの仮想化環境のぜい弱性報告がこれまで0件であることも信頼性を勝ち得ている理由だという。さらに、「IBM PowerSC」(IBM Power Security and Compliance)ソフトウェアが仮想ネットワークまで含めてリアルタイムに監視、通知を行い、仮想化やクラウド環境におけるセキュリティとコンプライアンスを高めてくれる。加えて、Powerアーキテクチャを採用したチップはゲーム機器から通信機器、車載コンピュータ、さらには火星探査機にまで搭載されているほどの豊富な実績を持つ。

 2011年2月、米国のクイズ番組でクイズ王に勝利したコンピュータ「IBM Watson」もPowerアーキテクチャで動いている。2012年6月、ローレンス・リバモア国立研究所のスーパーコンピュータ「Sequoia」が富士通製の「京」を抜いたが、このSequoiaは当社のBlue Gene/Q、つまりPowerアーキテクチャ製品で構築されている。

 「京の864ラックに対しSequoiaは96ラックで実現しており、6分の1の設置面積で1.5倍の性能を達成した。しかもエネルギー効率は2.5倍と優れた効率性を発揮し、TOP500の中で特にエネルギー効率の良いマシンとしても認定されている。システム基盤改革というと大それたことのように聞こえるかもしれないが、Power Systemsであれば実現は当たり前のものだ」と高橋氏は意気込んだ。

多様なOSに対応、ヘテロジニアスなシステムの統合に活躍

 最後に、Power Systemsを採用している事例紹介があった。Power Systemsは、x86サーバと同等価格のLinux専用機PowerLinuxから256コアを搭載するPower 795まで幅広い製品ポートフォリオを展開しており、金融、流通、製造、公益、サービスなどの業界、数十人から数万人規模の企業、団体がIT効率化を目指して採用している。

 最近の傾向としては、単に既存システムの置き換えや、ホモジニアスな環境の統合だけでなく、ヘテロジニアスなサーバ環境のPower Systemsへの統合が進んでいるという。例えば、AS/400の流れを汲むIBM i環境と、他社UNIXシステムをIBM AIXへコンバージョンして1台に統合する(イオンアイビス 事例)といった具合だ。IBM i、AIX、Linuxというマルチ・オペレーティングシステムに対応しているからこそできる、効率化手法である。

 別の傾向としては、Linuxサーバとしての新たな選択肢である。今年4月のLinux専用機「IBM PowerLinux」の発表以降、これまで戦略的にLinuxを採用してきたユーザーからの問い合わせが増えているという。複数のソフトウェア・ベンダーやユーザーの検証ではx86サーバよりも優れた結果を残しており、これまで当たり前だと思っていたx86サーバの“隠れた課題”が解決できるとあって、期待が高まっている分野である(システム・テクノロジー・アイ 事例)。

 こうした多種多様な環境からPower Systemsへ移行すれば、そのシステムはPower Systemsの高いパフォーマンスと可用性の恩恵を受けることができる。そして、仮想サーバそれぞれにリソースを柔軟に割り当て、効率的な運用が可能になる。仮想サーバの運用を止めず丸ごと別の物理サーバへ移動させるといったこともできる。Power Systemsにまつわる具体的なテクノロジーやサービスに関しては、次回の記事にある個別セッションで詳しく紹介する。

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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2012年11月29日